月ノ下、風ノ調 - 【オレカ二次創作】大泥棒と銀の竜 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さんこんばんは、九曜です。

暑さ寒さも彼岸まで、といいますが、寒暖差の激しさに体がついてゆけていない感もあり、今日も満足な考察がまとまりませんでした。
そんなわけで、本日はオレカの小話アーカイブです。
私はあくまでも個人の趣味でブログを続けており、なんとか毎週欠かさず更新しようとはしていますので、アーカイブが多い時は「調子悪いんだな」程度に思ってくださると幸いです。

今日のお話は、盗賊ユライと銀の竜のお話です。
「オレカバトル」本編において(ゲーム・漫画・アニメ等の公式展開上では)まったく接点がない一人と一匹による、ひとつの「結末」を考えたものとなっています。
やや重い話で、見方によってはえぐい表現がありますので、大丈夫な方は追記よりご覧ください。



寒冷な北のアシリア地方に、夜風が肌寒くない、穏やかな季節が訪れる頃。
ひときわ大きく栄えた商業街で、初夏の大規模マーケットが開催された、その晩のことである。

布をかぶせ店じまいをした露店の陰、まるで夜行性の鼠か何かのように、もぞもぞと動く小柄な人影。
それは身の丈に似合わぬ風呂敷包みをひょいと背負うと、月光の落ちた大通りを素早く横切った。
トン、トン、と静かな足音が家の壁を伝うように、屋根の高さまでのぼってゆく。
家の屋根から屋根へと軽々跳んで渡り、小さな影がそのたび路地に落ちる。
荷の重さは相当あり、足でも滑らせたら大怪我というところを、ちいさな体は慣れたような足取りで、ひとつの方角を目指して進んでゆく。
やがて、ぼろぼろの廃屋の庭に降り立ったそれは、フウとひとつ息をついて、こう呟いた。

「本日のおつとめ完了、っと」

盗賊生活も長くなってきたユライにとって、このような夜間の、それも無人の開けた場所での盗みは、朝飯前といったところだ。
壊れやすい装飾品が入っていることを考え、膨れ上がった背中の包みを、なるべくそっと地面に下ろす。

街はずれの、廃屋の庭を利用してこしらえた「拠点」は、明かりとなるランプを置き、頭上に雨よけの革を張っただけの簡素なものだ。
うち捨てられて長いらしく、高い塀で囲まれているため、いっときの隠れ家には便利と思って、目を付けた。
割れた窓から見える廃屋内はだいぶ荒れているが、かえって人を寄せ付けづらく、盗品の保管庫にするにも格好の場所であった。
幸い、これまで誰かに踏み込まれたこともないが、長居するつもりもない。
今日のマーケットが済んだら、とっとと引き払おうと思っていたので、寝てしまう前に早速、検品に入ることにした。

下ろした包みを開け、腰に提げた袋の中身もすべてひっくり返す。
ランプの光を頼りに、ユライは今夜の「戦利品」をひとつひとつ、調べはじめた。

「ひょーっ、これ、王家の紋章! 献上すりゃ、報奨金ガッポリだ」

食い扶持のためには小さなスリやせこい盗みもするが、困っている誰かを蹴落としたいわけではない。
ユライはあくまでも、不当に富を得ている者から、何かを盗るのをポリシーとしていた。
今日も、裏取引の噂が囁かれる商人の露店を物色して、闇ルートで手に入れたであろう品々を、手当たり次第に奪ってきたところであった。
噂に違わず、手に入れたものには貴重品も多く、ユライは今宵の成果に満足していた。

「……あれ? 何だ、これ」

そんな時、包みに一緒に押し込んだらしい、奇妙なものに目が留まった。
それは卵の形をしていて、つるりとした金属の光沢を放っている。
ランプの黄みがかった色を差し引けば、手元のナイフと同じ光を照り返すそれは、おそらく銀色なのだろう。

「銀の置物……にしちゃ、面白くねえ形……ひえっ!? 動いた!」

手をかけて持ち上げようとした時、それがひとりでにぐらりと揺れ動き、ユライは腰を抜かした。

「こいつはもしかして……ドラゴンのタマゴってやつか……? ま、まさかな……」

生き物のマーケットでの売買は原則、禁止されているはずだが、身元が身元だけに置いていても何の不思議もない。
しかし、本当にこのようなものが紛れ込んでいるのは、今回が初めてだ。

こっそり返してくるか迷ったが、その後を想像したくもなかった。
売買禁止のマーケットで見つかったことも、黒い噂の絶えない商人の所有物であることも、ユライの不安を引き寄せて離してくれない。
他の金品のように、売ったり献上したりといったことができない以上、引き取り先を探すか、自然へ帰すのが妥当だろう。
このまま手元に置こうにも、それはそれで稼業に差し支えかねない。

ランプの光を返すタマゴの曲面に、映り込む自分の歪んだ顔を見ながら、ユライは大きく息を吐いた。

***

それから結局「隠れ家」を引き払えないまま、三日三晩が過ぎた。
手元のものはあらかた、献上したり売り払ったりして処分できたが、行き場のないタマゴだけはぽつんと「隠れ家」に残されていた。

「食用にしちゃ、ちょっとデカいんだよなあ。まったく、とんでもないモン拾っちまったよ」

変装のための窮屈な覆面を解きながら、ため息を漏らす。
自然へ帰すにしても、タマゴというものは外敵への対抗手段を持たないから、このままどこかへ置いたところで、別の生き物の餌になるだけだ。
せめて孵化を待ちたかったが、いくら待てどもタマゴは孵化する様子がない。
かと言って、里親を探すような催し物も、今は開かれていないようだった。

ユライは仕方なく、隠れ家の革天井を取り外して、背中にタマゴを背負い、この街を出てしまうことに決めた。
大きなタマゴを風呂敷包みに背負った姿が、ひび割れたガラスの窓に暗く映る。
丸めた背中と疲れた顔は、なんとも間が抜けたように見えた。

(面倒見切れねーし、このまま草むらにでも置いてくるか……運が良けりゃ、親が見つけてくれるだろ)

足取り重く町の外門をくぐり、そのまま近くの森へ分け入る。
門のすぐ外に置いて翌朝、門番にでも見つけられたら、このタマゴは元の場所に連れ戻されてしまうだろうから、そこは抜かりない。
特段の情けをかけるつもりはないが、自分でもいやに気を遣うものだと、苦笑いが出た。

木々の合間を抜け、だだっ広い原っぱに出たところで、ユライは背中の荷を割らないように、その場へそっと下ろした。
背の高い草にいくらか隠れてはいるが、元々目立つ色ということもあり、外敵にはあっさり見つかってしまいそうに思える。
それはそれで食物連鎖のことわりだ、とユライは自分を納得させ、無事親に見つかるよう、祈るだけ祈っておいた。

包んでいた布だけを畳んで懐にしまい、歩き出そうとすると、後ろから草を踏んで倒すような音が聞こえた。
振り返ると、卵が大きく揺れ動いて、横向きに転がっている。
心なしかその動きは、去ろうとするユライを一生懸命、追いかけようとしている風に見えた。

「あのなあ。お前を背負ってちゃ、オイラは仕事できないの。わかったか? じゃあな」

気休めに説教してみると、タマゴの揺れがぴたりと止まった。
どうも、聞こえているらしい。それがかえって、ユライの顔を曇らせる。
かと言って、同情心だけで連れてもゆけない。タマゴを抱えて新天地に行くのは、一人で身軽に行くよりもずっと難しい。
諦めて身を反転させた時、目の前に黒い影が見えた。
その影は唸り声をあげ、ふたつの目を光らせて、ユライに気付いたように威嚇を始めた。

「げっ、こんな所で魔物か!? ち、仕方ねえっ」

月の落とす影と光が、凹凸のついた背中や大きな顎の存在を示す。
夜目がきくこともあり、ユライにはその魔物の判別がついた。重竜ベヒモスの子ども、ベヒだ。
以前にも遭遇したことはあったが、その時は同行していたキャラバンの者たちが撃退してくれた。
しかし今、この場にはユライしかいない。背後のタマゴなどあてになるものではなく、一人でこの状況を切り抜けるしかないだろう。
先手必勝とナイフを投げるも、ベヒはそれをものともせず、こちらに突進してきた。

「ぐえっ!?」

子どもとは言ってもドラゴンだ。それも重竜の子だけあって、体格ではユライの方が劣る。
ユライは弾き飛ばされ、転がり、草の地面に這いつくばった。

「こ、このやろ~……硬いウロコしやがっ……うわあッ!」

体勢を立て直せないうちに、もう一度体当たりを受け、はね飛ばされる。
ぶつかられた箇所も、地面に打ちつけた箇所もじんと痛み、立ち上がろうとしてもどこにも力が入らなかった。
自慢の盗みの腕など、この状況では役にも立たず、傷を癒す手段も持たなければ、起死回生の一撃を繰り出す技量もない。

「へ、へへ……焼きが回ったってヤツ……?」

死を覚悟しながら、自嘲するように力なく笑った、その時。
辺りが一瞬昼のように明るくなり、ほとばしる稲光が目の前に散った。
ベヒは驚いたように逃げ出し、その代わりに見たこともないちいさなドラゴンが、ユライの前に舞い降りた。

「お前……ほんとにドラゴンだったのかよ!」

そのドラゴンは、月明かりの下ではあるが、確かに銀色をしているのがわかった。
背中に生えた翼、おおきな瞳、小ぶりながら鋭い牙。
体じゅうの痛みを堪えて振り返れば、タマゴだったものの残骸が散らばっている……生まれた、らしかった。
ようやく座り直し、痛む体をさすっている間も、銀竜の子はつきまとって離れようとしない。
無事生まれたのだから自然に帰すべき、という強迫観念など薄ぼけて、自分を助けてくれたことへの恩義と、寄り添ってくる小さな命への愛着が勝った。
しばらくは、逃げやすくてセコい盗みに徹するか……などと考えながらも、ユライはなぜだか、満たされた気持ちでいた。

「しょうがねーな、連れてってやるよ。名前は……って、ドラゴンじゃ喋れねえよな。えーっと」

子どものドラゴンは、まだ幼くも竜らしい咆哮をあげながら、周りを飛び回っている。
経緯が経緯ゆえ正しい名もわからず、しばし考え込んだ末、ユライはこう口にした。

「……ベタだけど、まあ『ギン』でいいか。よろしくな、ギン!」

体色からギン、と名付けてやると、ちいさな翼竜はうなずくように頭を振り、ユライの周りをまたぐるりと飛んでみせた。

*  *  *

時は過ぎ、翌年。
穏やかな晩秋の空気がアシリア王国を包む中、大泥棒ユライはその郊外にある、商人の豪邸を目指していた。
最近とても羽振りがいいらしいが、その裏には奴隷の売買など、よからぬ噂も立っている。
そういった者をターゲットとするのは、ユライの「信条」にもかなっていた。

目当ての建物は、庭に小川ほどもある水路を擁し、正面からは入りやすいが、裏口へは水路を経由するしかない。
そもそも通る機会があまりなく、普段は専用の小舟でも使っているのだろう。
それゆえ泥棒対策にもなっているのだろうが、今宵のユライには策があった。

「この水場、渡れそうだな……ギン、いくぞ」

ユライと変わらぬ大きさだった銀竜の子は、今や身の丈も伸び、すっかりドラゴンらしい姿となっていた。
ユライも丈は伸びたが、すぐに追い抜かれてしまったほどだ。
まだ若いながらも、人ひとりなら乗せて飛べるだけの力を持った、筋骨逞しい背中に跨る。
大きな銀の翼がはためき、幅のある水路の上を滑空して超えると、その終点で静かにもう一度はばたいて、足場に無事着地できた。

「よし。合図があるまで隠れてろ」

ひそひそ声で指示するが、ギンは名残惜しいのか、ユライの頬に自分の頬をずりずりと擦りつける。

「わかった、わかったから。なついてちゃ動けないだろ。オイラはこれから仕事なんだ」

困ったような、しかし満更でもない表情で、ユライはギンをさとす。
ギンは言葉こそ発せないが、人語は解せて頭もよい。くるる、と甘えたように喉を鳴らしながらも、ようやく足場から飛び立ってくれた。
大きな体が、暗い森の中へすうっと消えたのを合図に、ユライは今宵の「仕事」にとりかかることにした。

裏口のカギを難なく開錠し、忍び入る。
通常、泥棒は最小限の範囲を探索し、退路を確実に確保するのがセオリーだが、策を持ったユライにはその必要がない。
地下の倉庫で金品を物色し、二階、三階と静かに登ってゆく。
腰と背中の袋が全てパンパンに膨れたところで、ようやく物音に気付いた主人が現れた。

「どろぼーっ!!」
「へへ、ちょろいぜ」

ユライは追いかけてくる主人を振り切るように、ベランダから外へ出て、屋根にのぼる。
もうこの家に逃げ場はない。袋の鼠だ――普通の泥棒であれば。
ぴいと甲高く指笛を鳴らし、目下に動くものを見つけると、ユライは躊躇いもせず屋根から飛び降りた。
細い月にわずかに照らされた、銀の背中がそれを受け止める。

「やったぜ! ギン、よくやった!」

多階層の建物を、登りながら泥棒して、最上階でギンを呼び脱出する。
頭の中で練り上げた計画が、完全な成功をおさめたと知り、森へ向かって滑空しながら、ユライは満足そうに声をあげた。

もちろん、毎回ギンを頼るわけにはゆかないし、間違っても泥棒に入った先で、人を殺めるようなことがあってはならない。
ただ、ギンと一緒に過ごすのも悪くはないな、とユライは考えるようになっていた。
道中の移動も、郊外での魔物との戦闘でも、銀竜の子の持つ能力は頼もしい限りだった。
言葉こそ通じないが、言いつけを守るだけの頭の良さはあり、何より勝手な思惑で裏切ることもない。
そう思うと、人が一番醜悪な生き物なのかもな……などと、哲学めいたことも考えてしまう。

「なあギン。オイラの稼ぎが良くなったら、たまにはうまい物食わせてやるからな。でももし、二度と戻ってこなかったら――」

ギンの背中、首の付け根をさすりながら、言いかけたユライが、そこで言葉を止めた。
普段からしつこいほど聞かせている「約束」だったが……満天の星空のような、きらきらした気分に満ちた今のユライにとっては、水を差すようにも思えたからだ。

「……いや、今日はこの話はやめだ。パーッと売って献上して、また次の獲物を探さないとな! これからも頼んだぜ、オイラの相棒!」

ユライが背中をぽんと叩くと、ギンはそれに応えるように、大きくひとつ鳴き声をあげた。
紺碧の夜空を低く滑空していた銀竜と、そこに跨る大泥棒の姿は、やがて真っ黒な森の合間へ沈んで消えた。

*  *  *

それから、月日は流れた。

大泥棒ユライは、バビロア王国の将軍邸宅に忍び込んだところを、捕えられた。
国法において窃盗は罪であり、隠れ家に残っていた盗品から余罪も追及され、ユライは見せしめの公開処刑となった。
冷たく重たい金属の手枷をはめられ、王国の警護団に連れられ歩いていた時に、事件は起きた。

広場までの大通りに落ちる大きな影。
上空から吹きすさぶ、激しい電撃を纏った大風が、警護団の先頭を崩す。
ユライにはそれが何の仕業であるか、すぐさま理解できた。

「ギン! お前ッ……!」

一匹の痩せこけた、しかしながら美しい銀色の翼竜が、雷を纏った息を吹きかけている。
助けようとしているのだ。
ようやく見つけた友をとらえ、殺さんとする者たちから。

(馬鹿野郎……!)

だがユライは、それをよしとしなかった。
自分は失敗し、死ぬだけの身。そこへついてきてもらうだけの義理は求めていない。
だから、常日頃から言い聞かせていた……「自分がもし、二度と戻ってこなかったら、お前は自由に暮らしていいんだ」と。
それに、いくら自分を正義の大泥棒と名乗ったところで、人のものを奪うことで生計を立てる、アウトローであることに変わりはない。
自分が死んだ後、泥棒の手下ではない別の生き方を、残された「相棒」には与えてやりたかった。

頭が良いから、言いつけを理解していないわけではあるまい。
それでもこうして、自分を助けようとしているのは、きっとギン自身の意志に他ならないのだと、思う。

「やめろ、ギン! もういい! もういいッ!!」

なおも吐かれ続けるサンダーブレスに、ユライはたまらず大声をあげた。
主人の帰りを待ちわびたようにやせ細り、それでもなお戦おうとする姿は悲痛なもので、弾けるような叫びとともに涙がこぼれた。
なつかしい声が届いたのか、銀竜シルバードラゴンの猛攻がぴたりと止まる。
同時に、機をうかがっていた王国の騎士団がいっせいに飛び掛かり、あちこちに鉄槍を深く突き刺した。

「あ……」

苦しげに断末魔をあげ、崩れ落ちた巨体がぴくりとも動かなくなる。
美しい銀の体を汚す赤い液体。鉄の……死のにおい。
ひとつの真実が胸を突き刺すとともに、溢れていた涙がはたと止まり、ユライはその場にへたりと座り込んだ。
警護団から「あれはお前の仕業か」などと声がかかったが、その耳にはもう、何も届いていなかった。
ユライが何も答えないと知るや、警護団の生き残りが首根を乱暴に掴み上げて、元のように歩かせはじめた。

断頭台にのぼった時、ユライには目下の景色も群衆のざわめきも、まるで遠い世界のように思えた。
まだ片付けられず残されている、いきたえた銀色の体を、乾いた涙が張り付いたままの虚ろな目で追う。

あの時、静止しなければよかった?
助けてくれ、こいつらみんなやっつけろと、叫べばよかった?
いや、そもそも、あいつを仲間にしなかったら、自分があんなへまをしなかったら。
あいつは、オイラのために、こんなところで死なずに済んだ?

渦巻く後悔に意識が呑まれないうちに、楽になりたい。
その願いは、時を待たず叶えられた。

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