月ノ下、風ノ調 - 【オレカ二次創作】分け前 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
やあ (´・ω・`)
ようこそ、「月ノ下、風ノ調」へ。
この霊薬はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、このアーカイブ記事を載せたんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。


…ということで、本日のアーカイブはオレカバトルより、ジークとユライが財宝探して珍道中する話です。
「二人旅編」とは特に関連のない、独立した話ですので、そのままお楽しみいただけます。


「おいっジーク! ちゃんとさばけよ!」
「こっちだって手一杯だっつーの!」

寄ってくるコウモリたちを武器で追い払いながら、反撃の隙をうかがう。
そこへ突進してきた別のコウモリに、飛んできたナイフが間一髪で刺さる。
ジークは冷や汗をかきながらも、礼を言う代わりに片手をひょいと挙げ、すぐさま大群の方へ向き直った。
改まった礼を言うのは、まずこの場を静めてからだ。

「サウザンド・イリュージョンっ!!」

ようやく機は訪れ、無数のショート・ソードの幻影がその場に乱れ飛ぶ。
コウモリの群れはクモの子でも散らすように、建物の奥深くへ逃げ帰っていった。

「そろそろ『お宝の間』も見つかりそうだな」

アシリア大陸の中央部、神殿と思しき遺跡の、地下へ二階層ほど潜ったあたり。
目についたからというきわめて単純な理由で、遺跡を探索していたジークは、その途中で魔物相手に苦戦している、一人の男と出会った。

紫の服に揃いの色のバンダナを巻き、腰に大小の革袋を提げた金髪の男は、大泥棒ユライと名乗った。
何でもこの遺跡には、かつて王族が住んでおり、かれらの財宝の眠る部屋があると聞いてやってきたらしい。
ジークはそれを生業としないが、日銭で暮らす身にとって、高値で売れる金品というのは魅力的だった。
半ば強引にユライを言いくるめて、なんとか同行にはこぎつけたものの、古びた遺跡には魔物があちこち巣食っている。
出会ったばかりの二人は、双方の思惑などそっちのけで、息の合った共闘を要求されていた。

「俺様の手柄もあるし、見つけたら半分ずつってことで……」
「え、オイラが七でジークが三って言わなかった?」
「言ってねーし!」

一人であれば、見つけた財宝はすべてが自分のものだが、二人となるとそうもいかない。
その分け前については、情報提供したユライも、共闘で探索に貢献しているジークも……お互い思い思いに主張するばかりで、結局ここまで折り合いがつかないままだ。
ひとつでも多く財宝を持ち帰りたい二人は、道中ずっと舌戦を繰り広げていた。

カツカツと石床を叩く、気持ち早めの靴音が響く。
灯り代わりのカンテラを左手に持ち、通路の先を「偵察」に行ったジークは、ほどなく身を翻して駆け戻ってきた。

「この先、瓦礫で埋まってら。さっきのコウモリが天井にビッシリぶら下がってるし、行かねー方がいい」

お手上げといったように肩をすくめ、ジークは目を細めた。
ユライは腕組みしてしばらく靴を鳴らしていたが、じゃ、やめるか、とだけ呟いて踵を返した。
お目当ての『お宝の間』をまだ見つけてもいないが、ここで安く死ぬぐらいなら、もっと要領よく稼ぎのできる場所はあるだろう。
背を向けた紫のマントに、えー、と不満をごねたのはジークだ。元々お宝は「ほんのおまけ」のつもりでここへ来たが、手ぶらで帰るどころか、これではコウモリに群がられただけだ。
せめて宝石、金属のカケラひとつでも、と目を皿のようにして、暗い通路を見やる。

先行くユライが振り返ると、ジークは諦め悪く壁際をカンテラで照らしており、声も届くかわからない距離になりつつあった。
置いてっちまうぞ、と声を出そうとした時だ。

「おいユライ、待った! ここ、奥に部屋があるぜ!」

その声にユライは慌てて反転し、駆け戻った。
ジークの嗅覚が自分以上なのか、それとも先の諦め悪さゆえか、強運か……何の因果かわからないが、見つけた以上放っておく理由もない。

カンテラの光で、石扉に彫り付けられた紋様が浮かび上がる。
長い年月を経たせいか、どうも片方の扉が傾き崩れているようで、間に掌を広げた幅ほどの大きな隙間ができている。
その奥に、元は赤かったであろう絨毯が敷かれっぱなしになっている床、崩れた柱や王座のようなものが見えるから、ここがくだんの部屋だろうと直感する。
石扉は、かつての開閉をどうしていたのか謎なほど大きく、ジークとユライの二人だけでは、押したところでビクともしそうにない。
ジークがその対処を考えあぐねていると、ユライが扉の隙間に、するりと体を滑り込ませた。

「お先っ!」
「あっ、ずりーぞ! 待っ……ぐ、ぐぎぎ……!」

ユライに何とか続こうとするが、悲しいかな、ジークの体はつかえてしまう。
チェーンメイルの上に着込んだ胸当ての厚みやマントの布、巻いたターバンの留め金や腰に提げた双剣……なべてその原因となっているらしく、何度挑戦しても隙間を通ることができない。

「アンタさぁ、もっと痩せた方がいいんでないの?」
「てめえ!! 見てろよ、こんな隙間のひとつやふたつ……」

カチンときたジークの、次の一手にユライは目を丸くした。
ターバン、マント、胸当てと双剣。戦うための装備をまるごとその場に脱ぎ捨て、チェーンメイルとズボンだけの姿で、隙間に体をねじ込み、無理やり此方へやってきたのだから。

「そ、そこまでするか……?」
「うるせーよ! ほら、痩せる必要なんかねえだろっ」

チェーンメイル一枚で、狭い場所を無理に通り抜けたせいで、擦った肌がヒリヒリ痛む。
それでもジークは強がって、手をヒラヒラさせながら、余裕といった顔をするしかなかった。

とにかく、目的の場所には到達できたので、さっそく探索にかかる。
満面の笑みで物色するユライと、先の件でまだ唇を尖らせたままのジークにははじめ温度差もあったが、多数の財宝を前にするや、二人は「よくやった」という代わりに手を高く打ちあわせた。
箱におさめられた宝飾品、落ちていた杖や装飾のついたナイフ、玉座にかけられていたマント……めぼしいものをあらかた回収し、隙間からどんどん外に放り出してやる。
この際、宝珠のあしらわれた玉座ごと持っていきたかったが、人が無理に通るような隙間しかないのでは、運び出せるわけもないので諦めた。

ジークが棚の上の宝石箱を回収していると、ユライが部屋の隅にたまった瓦礫の下から、奇妙な箱を掘り返しているのが見えた。
それは靴墨を塗ったように真っ黒で、細長く、何より大人一人が入れそうなほど大きい。

「何だよ、それ?」
「棺桶だろうな。ミイラでも入ってたら、切り取って持ってくか」
「うげっ……ミイラって、言っちまえば死体だろ? そんなモン、どうすんだよ?」
「知らねーのか? ミイラって薬として、高く売れるんだぜ……」

陽気な声で蓋を開けた、ユライの手が固まった。
ただの干からびた遺体であれば、どんなによかったことだろう。
それは銀の髪と髭をたくわえ、青白く端正な顔立ちをしており、ゆっくりと開いた目は血のように赤い。

「我が眠りを妨げる者は誰だ?」

ユライは飛ぶようにその場を離れ、ジークの近くまで戻ってくる。
異常に気付いたジークも、背を向けないようじりじりと後ずさる。

「ひ、ひっ……! アンタは……」
「我が名はドラキュラ……百年ぶりのこの世界、楽しませてもらおう」

ドラキュラ伯爵。名前ぐらいはジークもユライも、聞いたことがあった。
手下に数多くの怪物を抱えた魔族で、人の生き血を啜る吸血鬼だ。
見た目こそ初老の男に見えるが、吸血鬼はとても力が強く、細腕で人の首をねじり切るほどだという。
二人は恐怖に縮みあがる暇もなく、目の前の脅威からどう逃げ去るか、思案しなければならなかった。

「ユライ! 時間稼いどけ!」
「え!? な、なんでオイラが……!」
「こっちは丸腰なんだよ! いいから行けっ!」

ユライをドラキュラの前へ無慈悲に突き飛ばし、ジークは扉の隙間に体をねじ込んだ。
ドラキュラは靴音を鳴らしてゆっくり、確実にこちらへ近づいてくる。
押されて転んだユライが慌てて立ち上がり、腰のナイフを投げる。ドラキュラの左の肩に当たり、グッといううめき声が漏れる。
よし、まずは先手必勝――そう考えかけたユライの前で、ドラキュラは右手に大きな魔力球を作った。

「恐怖せよ! これが私の力だ!」
「ウソだろ!! 効いてねえのかよ!?」

飛んでくるそれをギリギリかすめる位置でかわすと、放たれた魔力球は後ろの壁に当たり、まるで鉄球でも打ち付けたかのようなへこみを残した。
その場にへたりそうな足をなんとか制し、距離を取ろうとするが、跳躍できず後ずさりになる。迂闊に跳んだところを狙われたら、怪我だけで済みそうにない。
ドラキュラは左肩のナイフを引き抜いてからりと投げ捨て、もう一度あの魔力球を右掌に作り始めた。

「こ、こんなの当たったら死んじまう……ジーク! まだか!」
「よし、もーいいぞ! 早く逃げて来いッ!」
「は、早く、たって……」

再びこちらへ放たれた魔力球に、ユライは身を屈めてなんとかそれをやり過ごす。
魔力球はやはり背後の壁にぶつかり、そこに激しい傷痕をつけた。

「これ避けながら出るとか無理だろーッ!」

逃げ回りながら、何とか隙間を通り抜ける時間を稼ごうとする。
入る時は数秒と思ったが、敵に狙いをつけられていては、その数秒すら命取りとなる。
攻撃を掻い潜り、扉の間に滑り込もうとしたユライの、頭のすぐ横に魔力球がめり込んだ。
ユライは慌てて飛びのいたが、振り返るとドラキュラはすぐ目前まで迫っていた。

「覚悟はよいか?」

その声に乗せ、絶望の二文字が眼前に叩き付けられる。

「あ……うあ……」

ユライは壁の隙間にようやく背をつけながらも、ずるずるとその場にへたり込んでしまった。
圧倒的な力を持つ悪魔に、騎士でも勇者でもない自分が勝てるわけがない。
このまま魔力球でなぶり殺されるのか、あるいは血でも吸われるのか――いずれにせよ、そこに助かるための光明は見えず、恐怖に顔が凍り付く。

「これでも喰らいやがれっ!」

ジークの声とともに、ユライの頭上を何かが飛ぶ、風切音が響いた。
それは真正面に立つドラキュラの胸元を正確に刺し貫いて、途端かれはその場へうずくまり、苦しみはじめた。

「があっ!? 銀のナイフだと!!?」
「ユライ! 早く!!」

ようやく目の前の状況を理解し、ユライはあわてて、扉の隙間に身を押し込んだ。
何とか通り抜けることができ、元のように着衣を直したジークに連れられ、その場を後にする。
魔力球での追撃はない。さしものドラキュラも、あの細い隙間を通ってまで、しぶとく追ってくる気はないようだった。

「はぁ、はぁっ……し、死ぬかと思った……」
「ふーッ……お宝の中に、使えそうなモンがあって助かったぜ」

瓦礫だらけの廊下をこけつまろびつ走り、上へのぼる階段までたどり着くと、二人はやっと落ち着いて息を整えることができた。
何度か振り返ったが、ドラキュラの姿はなく、コウモリがつついてくることもなかった。

「それはそうと、ほらよ、分け前」

ジークから渡された袋の中身を見て、ユライは目をしばたいた。
あの時廊下に放り出した、金品の大半が入っている量に見えたからだ。

「え。オイラがこんなもらっても……?」
「言ってたじゃん、ユライが七で俺様が三って。それに、ヒデー目に遭わせちまったしな」

ユライが七でジークが三。
ほんの冗談だったその言葉を、罪滅ぼし代わりにもう一度なぞられて、ユライの心に損得勘定以外の「何か」がふつふつと湧いた。
死にそうな目に遭ったのは確かだが、それを理由にこちらから分け前を要求した覚えはない。
なれなれしくて緊張感がなくて、自分勝手のいい加減な男だと思っていたのに……ユライは口の端をあげると、もらった「分け前」から小ぶりの宝石箱をひとつ、ジークに投げ返した。

「それはジークにやるよ。オイラを助けるのに、ナイフ一本投げちまったろ。その分」

宝石箱を受け取ったジークは、唯一見えてる右目を丸くして驚いていたが、やがて緑の瞳をにまっと細めた。

「じゃ、もらっとくか。ありがとよ」

階段の先へ向き直りざま、機嫌よさそうなジークの声が、ユライの耳に届いた。

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