月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さんこんばんは、九曜です。
今日は「ジークと零」編から、とっておきの作品をアーカイブしに来ました。
時期としては、王国を出てから少し経った頃。ようやくお互い、それぞれの性格や何やらが呑み込めてきたあたりのお話です。
ジークの独白調で進むお話で、書くのはものすごく大変でしたが(ジークの語彙が…語彙がね…)出来上がった話は自分でも満足いく出来で、今でも楽しく自分で読み返すほどです。
それでは、いつも通り追記から本文がはじまります。
タイトルは『白の浜梨』。
今日は「ジークと零」編から、とっておきの作品をアーカイブしに来ました。
時期としては、王国を出てから少し経った頃。ようやくお互い、それぞれの性格や何やらが呑み込めてきたあたりのお話です。
ジークの独白調で進むお話で、書くのはものすごく大変でしたが(ジークの語彙が…語彙がね…)出来上がった話は自分でも満足いく出来で、今でも楽しく自分で読み返すほどです。
それでは、いつも通り追記から本文がはじまります。
タイトルは『白の浜梨』。
えっ、俺様の武勇伝が聞きたい?
そんなコト言ってないって? まぁまぁ、そう遠慮すんなよ。
俺が今の俺になれたのは、まー話せば長~いワケがあって……
おいおい、そんな顔すんなって。大丈夫、ちゃんと短くまとめるからさ。
昔の俺は……いや、今も割とそうなんだけど。魔物を狩って賞金をもらったり、素材になりそうなものを職人に売り渡したりして、食い繋いでたんだ。
ほとんどが害獣や子供のドラゴンなんかで、皮とかヒゲとか売り捌いても、二束三文のことが多かったけど。
子供とはいえドラゴンを倒した! って言ったら、女のコなんか俺様にベタボレ確実だしさ。
お前だって男だろ? カワイコちゃんにモテたいとか思わねーの?
……あ、そう。お前、変わってんなぁ。
けど、デカい獲物はさすがに、賞金が高額でも手を出しかねてた。
親ドラゴンとか、そんなのは見かけたらとっとと逃げるに限る。
カッコ悪い? でもさ、返り討ちに遭ったらシャレになんねえし、死んだら元も子もないだろ。
そんな俺が、デカい獲物を相手にしなきゃならなくなった。
掲示板に貼り出されてた賞金のつく魔物に、デカいドラゴンがいてさ。賞金は1100G、日金にしては大金だ。
けど、それだけじゃあ受ける理由にならねえ。他に理由があったんだ。
そのドラゴンのいる場所に、キレーな花が咲いてる、って聞いて。
馬鹿、俺が花なんか欲しがると思うか?
欲しがってたのは、その掲示板を見てた女のコだよ。
何でも、そのドラゴンが棲んでる北の山沿いの海岸に、キレーな白い花があるらしい。
もちろんすぐ決めた。ドラゴンを退治して、そのついでに花を持って帰る!
俺様は花をあのコに渡す! あのコは喜んで「ありがとうございます」なんて言う! ついでにお茶に誘う!
な、完璧だろ? ……おい、何とか言えよ。
ま、とにかく。俺は北の山、例の海岸に向かったんだ。
* * *
北の山までは、王国から歩いて2日の距離だ。
今じゃ近くにいろんな町ができて、このへんの旅もラクになったけど。往復するだけで4日もかかるんだから、当時の俺からしたら大それた冒険だった。
怖いっていうより、ワクワクした気持ちが先だったな。何しろ、今度の獲物は桁が違ったんだから。
いつもは逃げ回ってばかりだったから、意外とこう、アッサリいけるんじゃ? っていう気持ちもあった。
今考えたら、無謀ってレベルじゃないけどな。
山は空気が澄んでるし、ピクニックにでも来たようなつもりで、海岸線を目指した。
海の見える場所まで来ると、その白い花はあっけなく見つかった。
確かにキレーだし、女の子が欲しがるのもわかる。
背の低い茂みにたくさん咲いていて、これなら後でゆっくり摘める、って思った。
けど、ピクニック気分に浸れたのもそれまでだった。
強い風が、白い花びらや茂みの葉をいくつか飛ばしていった。ドラゴンが現れたんだ!
俺の身長のそうだな……3倍以上? とにかくデカい。
目の前に降り立たれないまでも、飛んでいるのを真正面から見るだけで、圧倒されそうだった。
怖気づいてはいられない、倒さないと、って考えて、とにかく俺はがむしゃらに斬りかかった。
でも、そう何もかもうまくはいかない。
硬い鱗にマトモな傷をつけることもできず、前足で叩き落とされた。正直な話、すげー痛かった。
いくら俺様が素早いったって、宙に浮いた状態じゃ、翼を持ってるあっちに分があるからな。
俺は舌打ちして、もう一度体勢を立て直そうとした。
でも、ドラゴンの攻撃は思ったよりもずっと激しかった。地面スレスレを飛んで来られると、突進そのものは避けられても、起きた突風で体が飛びそうになる。
そのうち、焼けるような火炎の息が頭上から降ってきた。
もちろん避けようとしたぜ。ムリだったけど。
布や髪が焼ける匂いが鼻についた。
慌てて地面に転がったから全身火だるまにはならずに済んだけど、体は熱いしあちこち痛いし、なんでこんなことしてるんだろうって後悔した。
後悔してもしょうがないんだけどさ。変な見栄張っちゃって、それでここで死ぬとか、なんてバカなんだろう俺、って。
ただ、このままじゃいけない、っていう思いもあったんだ。
落とした武器を拾って、ガクガク震える足で立ち上がって、全身の痛みで背中もまっすぐにならないけど……今日は最後まで戦ってやる、って思ったんだよ。
何だろうな。プライド? 俺にそんなモン、ねーと思ってたんだけど。
とにかく勝ちたい、死にたくないって思いながら、両手に持ってる剣を力いっぱい握りしめた。
そうしたら、景色が一瞬光に包まれて、その後ふっと体が軽くなった。
剣を握る俺の手は、光に包まれる前よりもひとまわり以上、大きくなってて……立ち上がった目線の高さも、いつもよりずっと上の方にあったし、体の痛みも消えてた。
何より、全身がありえないぐらい、それこそ翼でも生えたんじゃねーかって思うぐらい、軽くなってさ。残念ながら、翼は生えてなかったけどよ。
これなら勝てる、って思って、俺はドラゴンの背後に回ったんだ。
真正面から飛びかかるから、ブレスやツメの餌食になる。それなら背後からだ! って閃いたんだよ、その時に。
俺の背後からの攻撃は、うまいこと急所に当たったらしくて、ドラゴンはあっけなく倒れた。
それからずっと、俺はその技を「アサシンエッジ」って名付けて使ってる。
お前も見たことあるだろ? もし急所に当たれば、一発だ。
ま、いつも成功するとは限らないから、あの時はホント、運が良かったんだろうな。
* * *
まぁつまり、そんなことがあったんだぜ、って話。へへ、俺もなかなかやるだろ?
もちろん、ウロコとか髭とかツメとか、売れそうなものはたんまり頂いて帰ったし、賞金もバッチリ貰ってやった。
数日景気よくしてたら、すぐなくなっちまったけど。
え。女のコとはどうなったって?
い、いや、それがさー……北の山って、王国から歩いて2日はかかるって言ったろ?
花を摘んで持ってきたはよかったけど、途中でしおれちゃって。
そんな花渡せないだろ? だから、なかったコトにしたよ。悔しいけど。
結構話し込んじまったな。そろそろ行かねーと、今日も野宿になっちまう。
あと、その花なんだけど、すぐそこに咲いてるそれ。同じやつだと思うんだよな。
意外と色んなトコに咲いてるみたいで……あの時、気付いてればなぁ。惜しいことしたよ。
でも、見てたら思い出しちまって。それで、この話をしたのかもな。
へー、これハマナスっていうのか。物知りだよなぁお前。
あちこち旅してる割に、お前こそ知識が少ない?……うるせえよ、人が褒めてんのに、何でそんな言い方しかできねーんだよ。
俺だって、カワイコちゃんの名前なら20人ぐらいは……
へっ、花言葉? 何だそれ?
「美しい悲しみ」……ふーん、佳人薄命って感じか?
ほんとにお前は物知りだな。みっちり忍びの修行してたなんて、信じらんないぜ。
他に、この花にはお前らしい花言葉がある?
何だよそれ。俺は確かにハンサムだけど……え? 全然違う意味なのか?
そんなの知らねえよ。勿体ぶってないで教えろよ。
街についたら辞典をひけ? やだよ、活字って好きじゃねーんだ。
なら知らないで結構、って……おい! 余計に気になるじゃねえか!
なんだよ零! いつも俺がからかってるからって、こんな時に仕返しか?
あっ待てよオイ、追いてくなったら! 零ー!
* * *
夜。いつもに増して静かな街の大図書館に着いた零は、目当ての本の頁を捲る。
黒く染められた皮の表紙に、銀で刻まれた『花言葉』の文字。
迷わずハマナスの項を見る。まず――「美しい悲しみ」。
これは昼、ジークに伝えたとおりだ。
次の意味は――「旅の楽しさ」。
ジークには、これを『解』として差し出すべきだろうか?
とは言えあの男のことだ、明日になれば教えた意味どころか、花の名前ごと忘れてしまいかねない。
最後の意味を指でなぞって、零は静かにその本を閉じた。
――「あなたの魅力にひかれます」。
そんなコト言ってないって? まぁまぁ、そう遠慮すんなよ。
俺が今の俺になれたのは、まー話せば長~いワケがあって……
おいおい、そんな顔すんなって。大丈夫、ちゃんと短くまとめるからさ。
昔の俺は……いや、今も割とそうなんだけど。魔物を狩って賞金をもらったり、素材になりそうなものを職人に売り渡したりして、食い繋いでたんだ。
ほとんどが害獣や子供のドラゴンなんかで、皮とかヒゲとか売り捌いても、二束三文のことが多かったけど。
子供とはいえドラゴンを倒した! って言ったら、女のコなんか俺様にベタボレ確実だしさ。
お前だって男だろ? カワイコちゃんにモテたいとか思わねーの?
……あ、そう。お前、変わってんなぁ。
けど、デカい獲物はさすがに、賞金が高額でも手を出しかねてた。
親ドラゴンとか、そんなのは見かけたらとっとと逃げるに限る。
カッコ悪い? でもさ、返り討ちに遭ったらシャレになんねえし、死んだら元も子もないだろ。
そんな俺が、デカい獲物を相手にしなきゃならなくなった。
掲示板に貼り出されてた賞金のつく魔物に、デカいドラゴンがいてさ。賞金は1100G、日金にしては大金だ。
けど、それだけじゃあ受ける理由にならねえ。他に理由があったんだ。
そのドラゴンのいる場所に、キレーな花が咲いてる、って聞いて。
馬鹿、俺が花なんか欲しがると思うか?
欲しがってたのは、その掲示板を見てた女のコだよ。
何でも、そのドラゴンが棲んでる北の山沿いの海岸に、キレーな白い花があるらしい。
もちろんすぐ決めた。ドラゴンを退治して、そのついでに花を持って帰る!
俺様は花をあのコに渡す! あのコは喜んで「ありがとうございます」なんて言う! ついでにお茶に誘う!
な、完璧だろ? ……おい、何とか言えよ。
ま、とにかく。俺は北の山、例の海岸に向かったんだ。
* * *
北の山までは、王国から歩いて2日の距離だ。
今じゃ近くにいろんな町ができて、このへんの旅もラクになったけど。往復するだけで4日もかかるんだから、当時の俺からしたら大それた冒険だった。
怖いっていうより、ワクワクした気持ちが先だったな。何しろ、今度の獲物は桁が違ったんだから。
いつもは逃げ回ってばかりだったから、意外とこう、アッサリいけるんじゃ? っていう気持ちもあった。
今考えたら、無謀ってレベルじゃないけどな。
山は空気が澄んでるし、ピクニックにでも来たようなつもりで、海岸線を目指した。
海の見える場所まで来ると、その白い花はあっけなく見つかった。
確かにキレーだし、女の子が欲しがるのもわかる。
背の低い茂みにたくさん咲いていて、これなら後でゆっくり摘める、って思った。
けど、ピクニック気分に浸れたのもそれまでだった。
強い風が、白い花びらや茂みの葉をいくつか飛ばしていった。ドラゴンが現れたんだ!
俺の身長のそうだな……3倍以上? とにかくデカい。
目の前に降り立たれないまでも、飛んでいるのを真正面から見るだけで、圧倒されそうだった。
怖気づいてはいられない、倒さないと、って考えて、とにかく俺はがむしゃらに斬りかかった。
でも、そう何もかもうまくはいかない。
硬い鱗にマトモな傷をつけることもできず、前足で叩き落とされた。正直な話、すげー痛かった。
いくら俺様が素早いったって、宙に浮いた状態じゃ、翼を持ってるあっちに分があるからな。
俺は舌打ちして、もう一度体勢を立て直そうとした。
でも、ドラゴンの攻撃は思ったよりもずっと激しかった。地面スレスレを飛んで来られると、突進そのものは避けられても、起きた突風で体が飛びそうになる。
そのうち、焼けるような火炎の息が頭上から降ってきた。
もちろん避けようとしたぜ。ムリだったけど。
布や髪が焼ける匂いが鼻についた。
慌てて地面に転がったから全身火だるまにはならずに済んだけど、体は熱いしあちこち痛いし、なんでこんなことしてるんだろうって後悔した。
後悔してもしょうがないんだけどさ。変な見栄張っちゃって、それでここで死ぬとか、なんてバカなんだろう俺、って。
ただ、このままじゃいけない、っていう思いもあったんだ。
落とした武器を拾って、ガクガク震える足で立ち上がって、全身の痛みで背中もまっすぐにならないけど……今日は最後まで戦ってやる、って思ったんだよ。
何だろうな。プライド? 俺にそんなモン、ねーと思ってたんだけど。
とにかく勝ちたい、死にたくないって思いながら、両手に持ってる剣を力いっぱい握りしめた。
そうしたら、景色が一瞬光に包まれて、その後ふっと体が軽くなった。
剣を握る俺の手は、光に包まれる前よりもひとまわり以上、大きくなってて……立ち上がった目線の高さも、いつもよりずっと上の方にあったし、体の痛みも消えてた。
何より、全身がありえないぐらい、それこそ翼でも生えたんじゃねーかって思うぐらい、軽くなってさ。残念ながら、翼は生えてなかったけどよ。
これなら勝てる、って思って、俺はドラゴンの背後に回ったんだ。
真正面から飛びかかるから、ブレスやツメの餌食になる。それなら背後からだ! って閃いたんだよ、その時に。
俺の背後からの攻撃は、うまいこと急所に当たったらしくて、ドラゴンはあっけなく倒れた。
それからずっと、俺はその技を「アサシンエッジ」って名付けて使ってる。
お前も見たことあるだろ? もし急所に当たれば、一発だ。
ま、いつも成功するとは限らないから、あの時はホント、運が良かったんだろうな。
* * *
まぁつまり、そんなことがあったんだぜ、って話。へへ、俺もなかなかやるだろ?
もちろん、ウロコとか髭とかツメとか、売れそうなものはたんまり頂いて帰ったし、賞金もバッチリ貰ってやった。
数日景気よくしてたら、すぐなくなっちまったけど。
え。女のコとはどうなったって?
い、いや、それがさー……北の山って、王国から歩いて2日はかかるって言ったろ?
花を摘んで持ってきたはよかったけど、途中でしおれちゃって。
そんな花渡せないだろ? だから、なかったコトにしたよ。悔しいけど。
結構話し込んじまったな。そろそろ行かねーと、今日も野宿になっちまう。
あと、その花なんだけど、すぐそこに咲いてるそれ。同じやつだと思うんだよな。
意外と色んなトコに咲いてるみたいで……あの時、気付いてればなぁ。惜しいことしたよ。
でも、見てたら思い出しちまって。それで、この話をしたのかもな。
へー、これハマナスっていうのか。物知りだよなぁお前。
あちこち旅してる割に、お前こそ知識が少ない?……うるせえよ、人が褒めてんのに、何でそんな言い方しかできねーんだよ。
俺だって、カワイコちゃんの名前なら20人ぐらいは……
へっ、花言葉? 何だそれ?
「美しい悲しみ」……ふーん、佳人薄命って感じか?
ほんとにお前は物知りだな。みっちり忍びの修行してたなんて、信じらんないぜ。
他に、この花にはお前らしい花言葉がある?
何だよそれ。俺は確かにハンサムだけど……え? 全然違う意味なのか?
そんなの知らねえよ。勿体ぶってないで教えろよ。
街についたら辞典をひけ? やだよ、活字って好きじゃねーんだ。
なら知らないで結構、って……おい! 余計に気になるじゃねえか!
なんだよ零! いつも俺がからかってるからって、こんな時に仕返しか?
あっ待てよオイ、追いてくなったら! 零ー!
* * *
夜。いつもに増して静かな街の大図書館に着いた零は、目当ての本の頁を捲る。
黒く染められた皮の表紙に、銀で刻まれた『花言葉』の文字。
迷わずハマナスの項を見る。まず――「美しい悲しみ」。
これは昼、ジークに伝えたとおりだ。
次の意味は――「旅の楽しさ」。
ジークには、これを『解』として差し出すべきだろうか?
とは言えあの男のことだ、明日になれば教えた意味どころか、花の名前ごと忘れてしまいかねない。
最後の意味を指でなぞって、零は静かにその本を閉じた。
――「あなたの魅力にひかれます」。
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