月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんな時間にこんばんは、九曜です。
昨日の昨日まで覚えていたのに、今日は色々あって気づけばこの時間という体たらく。
中身のないブログを綴るのもあれなので、いつものようにアーカイブを…と思っていましたが、今回タイトルが何やら怪しげなことに気付きましたでしょうか。
いつも通りのオレカ二次創作で、登場人物はジークと零(二人旅の話が前提ではないので「二人旅編」を読んでなくてもなんとなくわかります)なのですが、この話にはなんと続きがあります。
というのも、この話はもともと「上」だけで終わる予定で、「下」の部分は書いたところ予定調和もいいところ…という状態になっておりました。
ですが、その「下」の部分も含めてぜひ見たいとお声がかかり、なんとか完成させたものが手元にあります。
つまるところ、この話の「下」はまた後日アーカイブとして公開されます。
アーカイブばかりでも見ている側が楽しくないかもしれないので、自前の考察も裏でちまちま増やしています。ただその、まとまらないんです全然…。
毎週月曜更新の「お約束」を忘れないよう頑張ってるんだなぁ、とでも思ってやってください。
昨日の昨日まで覚えていたのに、今日は色々あって気づけばこの時間という体たらく。
中身のないブログを綴るのもあれなので、いつものようにアーカイブを…と思っていましたが、今回タイトルが何やら怪しげなことに気付きましたでしょうか。
いつも通りのオレカ二次創作で、登場人物はジークと零(二人旅の話が前提ではないので「二人旅編」を読んでなくてもなんとなくわかります)なのですが、この話にはなんと続きがあります。
というのも、この話はもともと「上」だけで終わる予定で、「下」の部分は書いたところ予定調和もいいところ…という状態になっておりました。
ですが、その「下」の部分も含めてぜひ見たいとお声がかかり、なんとか完成させたものが手元にあります。
つまるところ、この話の「下」はまた後日アーカイブとして公開されます。
アーカイブばかりでも見ている側が楽しくないかもしれないので、自前の考察も裏でちまちま増やしています。ただその、まとまらないんです全然…。
毎週月曜更新の「お約束」を忘れないよう頑張ってるんだなぁ、とでも思ってやってください。
「なーぁ、お前ヘーキなの? こんな所に閉じ込められてさ」
間延びした声が反響して、円く穴のあいた土牢の天井からこぼれ落ちてくる。
俺は座したまま、よく知っているその声に、答えを返す。
「平気なわけではないが、手立てがない」
「いい加減気が狂っちまいそうなんだぜ、こっちはよ」
壁に隔てられて顔こそ見えないが、白い覆面の奥で不機嫌そうに悪態をついている様子が、ありありと目に浮かんだ。
* * *
風魔の里より諜報を任ぜられ、西国の魔王サッカーラの様子を探りに来たのは、少し前の話になる。
その男がねぐらとしている、大きな遺跡に侵入した際、見張りのサルベージに見つかり囚われた。
手持ちの毒を含んで自害するより早く、脳天を殴られ気絶し、気付いた時にはどことも知れぬ、深い穴の中に居た。
上方から射す光を頼りに、穴の外へ手を伸ばそうとすると、不思議な力で弾かれた。
懐に入れていた道具は全て奪われていたが、背中の刀はなぜか残ったままだった。
介錯なしの切腹には勇気が要る。
喉を突くか舌を噛み切るか、決めあぐねていたところで、覚えのある声がした。
「てめえ! 離せ! 俺様を捕まえてもいいことねーぞ! 離しやが、ッ」
壁の向こうから、どさり、という重い音。
威勢のいい声は、どうも隣の『独房』に落ちたらしかった。
「痛てて……おいっ! ふざけ……ぐっ! くっそ、バリアなんか張りやがって! 出せ! 出せよ、ド畜生ッ!」
そんな罵声が数分ほど続いたが、疲労か声の枯れか声は次第に先細り、やがて無言になった。
辺りが静まり返ったのを見計らって、俺は声を掛けた。
「ジークか?」
「え? ちょっと待てよ、その声! 零か!?」
「ああ。しくじってな」
それから、かつての戦友と、壁越しに数々のことを語らった。
別れてからこれまでのいきさつ。捕われた状況。それに対する種々の思い。
もちろん、忍びゆえ口外できぬことは除いてだが、それでも随分たくさん話した。
暗く静かな空間が、その間だけ不思議と、落ち着くような気さえした。
看守の戻ってくる足音が聞こえると、ジークは会話を切り、再び出せ出せとわめき始めた。
頭上から降ってきた「五月蠅い」という声とともに、どすっという鈍い音、低いうめき声がして、喧騒は一時おさまった。
看守の去った後、おそるおそる無事を確認するや、壁の向こうからはあっけらかんとした声が聞こえた。
「けっ。一方的にどつくだけなら、サルだってできるっての。なーにを偉そうに」
こんな希望のない状況だというのに、俺は思わず覆面の奥で、噴き出しそうになっていた。
同時に、あまりにも俺は死に急ぎすぎていると考え、自害の策はふたつとも取りやめることに決めた。
* * *
「出たいよなぁ」
ふとジークが漏らした。
しみじみとした独り言の体面でこそあれ、はっきりこちらに向かって飛ばされた言葉であるから、その意図は汲めなくもない。
「出られるものなら、とうに出ている」
ただ、今このような状況では、どうすることもかなわない。
それを直接言うのは躊躇われて、俺の言葉選びは臆病になる。
あの語らいから、何日が過ぎたことだろう。
死なない程度の食事が与えられ、時折開けた場所で別の「囚人」や魔物と戦わせられるだけの、何一つ自由のない空間では休まらない。
「鍵のついた牢ならさ、看守からこう、鍵をスッちまえば一発なのに……鍵だけあっても、これじゃなあ」
そう文句を垂れるジークは、どこか諦めたような、笑い混じりの声になっていた。
「おうい、お前! サッカーラ様が呼んでるぞお」
「まーた戦えってか。へいへい」
「ぎゃおお! その態度、後でみっちり仕置きされるぞお」
守衛をつとめる恐竜戦士の声に、ジークが二つ返事を返すのが聞こえる。
多ければ日に三度以上も『戦い』に駆り出されることがあるから、それ自体はもはや疑問にも思わない。
だんだんと、平素の感覚が麻痺してきているのだろう。背筋を這い上がるような悪寒は、気のせいではなさそうだ。
ジークがいなくなってからすぐ、頭上がふっと暗くなった。
見上げると、馬の頭をした看守が、にやにやと笑いながらこちらへ声を掛けてきた。
「あ~ら、なかなかカワイイ顔してるじゃない。戦わせるなんて勿体ないワ」
さっきとは違う意味で、ぞわりと鳥肌が立つ。
声質は男のようだが、口調はまるで女そのものだ。なるべく関わりたくないが、そうも言っていられない。
そこから出ろと促され、仕方なしに跳んで出ると、すぐさま右手首を掴まれた。それも、先のなよっとした口調に似合わぬ剛腕だ。
「こっちへいらっしゃい。大丈夫、呼んでるのは残念ながら、魔王様よ」
馬頭の看守は、俺の腕を引きながら、通路を奥へ奥へと進んでゆく。
逆らえもせず、黙ってついて歩けば「素直なイイ子は大好きよ」という嬉しくもない賞賛が耳を通り過ぎる。
「さ、頑張ってきなさい。済んだらアタシとイイコトし・ま・しょ?」
此方に何度か色目を使うのを見ないふりして、連れられた先には、見覚えのある彫り紋様が施された、両開きの石扉があった。
俺は一瞬時を忘れ、これまでの経緯を整理しはじめた。
さっき、ジークは監視の者に連れられて出て行った。今、俺は「無益な戦い」のためにここに立っている。
つまり、それは――思考の終点を待たず、扉が開き、目の前が明るくなる。
『ゲストの皆さんッッ! お待たせいたしましたァーッ! 本日のバトルカードはこの二人ッ!』
耳障り以外の何物でもない、場に響き渡る審判の声。
陽光の降り注ぐ闘技場の中には、俺と審判以外にもう一人、男が立っていた。
白の鎧とマントも、覆面で口元の隠れた顔も、長い金の前髪も……何もかもが記憶と一致して、ひどく困惑する。
「ぜ……ろ?」
「ジーク……」
それは向こうも同じようで、ぽかんとした顔のまま、確かめるようにこちらの名を呼ぶ声が聞こえた。
『あーっと!? なんとこの二人、面識があるようだ! さあ、生き残るのはどっちだッ!!』
あくまでも他人事という審判の言い草に、反吐が出そうになる。
ここから出るため、生き延びるためには、戦うしかない。
かつての友を、ねじ伏せるしかない、のだろう。
「おいおい、マジで戦えってのかよ……? 冗談きついぜ」
ジークの声が震えていることに気付き、俺は覆面の奥で唇を噛んだ。
悔いを一生背負って生き延びるのが是か、それとも、友に道を譲るのが是なのか。
わからないし、わかりたくもなかったが、場に張り巡らされた見えぬ鎖が、それを許さない。
背中の刀を静かに抜き、構える。
ジークもそれに応えるように、一応の構えをとるが、戦いを楽しむような躍動はそこにはない。
揺らぐ切っ先の奥に見た右目が、わずかに細まった、気がした。
間延びした声が反響して、円く穴のあいた土牢の天井からこぼれ落ちてくる。
俺は座したまま、よく知っているその声に、答えを返す。
「平気なわけではないが、手立てがない」
「いい加減気が狂っちまいそうなんだぜ、こっちはよ」
壁に隔てられて顔こそ見えないが、白い覆面の奥で不機嫌そうに悪態をついている様子が、ありありと目に浮かんだ。
* * *
風魔の里より諜報を任ぜられ、西国の魔王サッカーラの様子を探りに来たのは、少し前の話になる。
その男がねぐらとしている、大きな遺跡に侵入した際、見張りのサルベージに見つかり囚われた。
手持ちの毒を含んで自害するより早く、脳天を殴られ気絶し、気付いた時にはどことも知れぬ、深い穴の中に居た。
上方から射す光を頼りに、穴の外へ手を伸ばそうとすると、不思議な力で弾かれた。
懐に入れていた道具は全て奪われていたが、背中の刀はなぜか残ったままだった。
介錯なしの切腹には勇気が要る。
喉を突くか舌を噛み切るか、決めあぐねていたところで、覚えのある声がした。
「てめえ! 離せ! 俺様を捕まえてもいいことねーぞ! 離しやが、ッ」
壁の向こうから、どさり、という重い音。
威勢のいい声は、どうも隣の『独房』に落ちたらしかった。
「痛てて……おいっ! ふざけ……ぐっ! くっそ、バリアなんか張りやがって! 出せ! 出せよ、ド畜生ッ!」
そんな罵声が数分ほど続いたが、疲労か声の枯れか声は次第に先細り、やがて無言になった。
辺りが静まり返ったのを見計らって、俺は声を掛けた。
「ジークか?」
「え? ちょっと待てよ、その声! 零か!?」
「ああ。しくじってな」
それから、かつての戦友と、壁越しに数々のことを語らった。
別れてからこれまでのいきさつ。捕われた状況。それに対する種々の思い。
もちろん、忍びゆえ口外できぬことは除いてだが、それでも随分たくさん話した。
暗く静かな空間が、その間だけ不思議と、落ち着くような気さえした。
看守の戻ってくる足音が聞こえると、ジークは会話を切り、再び出せ出せとわめき始めた。
頭上から降ってきた「五月蠅い」という声とともに、どすっという鈍い音、低いうめき声がして、喧騒は一時おさまった。
看守の去った後、おそるおそる無事を確認するや、壁の向こうからはあっけらかんとした声が聞こえた。
「けっ。一方的にどつくだけなら、サルだってできるっての。なーにを偉そうに」
こんな希望のない状況だというのに、俺は思わず覆面の奥で、噴き出しそうになっていた。
同時に、あまりにも俺は死に急ぎすぎていると考え、自害の策はふたつとも取りやめることに決めた。
* * *
「出たいよなぁ」
ふとジークが漏らした。
しみじみとした独り言の体面でこそあれ、はっきりこちらに向かって飛ばされた言葉であるから、その意図は汲めなくもない。
「出られるものなら、とうに出ている」
ただ、今このような状況では、どうすることもかなわない。
それを直接言うのは躊躇われて、俺の言葉選びは臆病になる。
あの語らいから、何日が過ぎたことだろう。
死なない程度の食事が与えられ、時折開けた場所で別の「囚人」や魔物と戦わせられるだけの、何一つ自由のない空間では休まらない。
「鍵のついた牢ならさ、看守からこう、鍵をスッちまえば一発なのに……鍵だけあっても、これじゃなあ」
そう文句を垂れるジークは、どこか諦めたような、笑い混じりの声になっていた。
「おうい、お前! サッカーラ様が呼んでるぞお」
「まーた戦えってか。へいへい」
「ぎゃおお! その態度、後でみっちり仕置きされるぞお」
守衛をつとめる恐竜戦士の声に、ジークが二つ返事を返すのが聞こえる。
多ければ日に三度以上も『戦い』に駆り出されることがあるから、それ自体はもはや疑問にも思わない。
だんだんと、平素の感覚が麻痺してきているのだろう。背筋を這い上がるような悪寒は、気のせいではなさそうだ。
ジークがいなくなってからすぐ、頭上がふっと暗くなった。
見上げると、馬の頭をした看守が、にやにやと笑いながらこちらへ声を掛けてきた。
「あ~ら、なかなかカワイイ顔してるじゃない。戦わせるなんて勿体ないワ」
さっきとは違う意味で、ぞわりと鳥肌が立つ。
声質は男のようだが、口調はまるで女そのものだ。なるべく関わりたくないが、そうも言っていられない。
そこから出ろと促され、仕方なしに跳んで出ると、すぐさま右手首を掴まれた。それも、先のなよっとした口調に似合わぬ剛腕だ。
「こっちへいらっしゃい。大丈夫、呼んでるのは残念ながら、魔王様よ」
馬頭の看守は、俺の腕を引きながら、通路を奥へ奥へと進んでゆく。
逆らえもせず、黙ってついて歩けば「素直なイイ子は大好きよ」という嬉しくもない賞賛が耳を通り過ぎる。
「さ、頑張ってきなさい。済んだらアタシとイイコトし・ま・しょ?」
此方に何度か色目を使うのを見ないふりして、連れられた先には、見覚えのある彫り紋様が施された、両開きの石扉があった。
俺は一瞬時を忘れ、これまでの経緯を整理しはじめた。
さっき、ジークは監視の者に連れられて出て行った。今、俺は「無益な戦い」のためにここに立っている。
つまり、それは――思考の終点を待たず、扉が開き、目の前が明るくなる。
『ゲストの皆さんッッ! お待たせいたしましたァーッ! 本日のバトルカードはこの二人ッ!』
耳障り以外の何物でもない、場に響き渡る審判の声。
陽光の降り注ぐ闘技場の中には、俺と審判以外にもう一人、男が立っていた。
白の鎧とマントも、覆面で口元の隠れた顔も、長い金の前髪も……何もかもが記憶と一致して、ひどく困惑する。
「ぜ……ろ?」
「ジーク……」
それは向こうも同じようで、ぽかんとした顔のまま、確かめるようにこちらの名を呼ぶ声が聞こえた。
『あーっと!? なんとこの二人、面識があるようだ! さあ、生き残るのはどっちだッ!!』
あくまでも他人事という審判の言い草に、反吐が出そうになる。
ここから出るため、生き延びるためには、戦うしかない。
かつての友を、ねじ伏せるしかない、のだろう。
「おいおい、マジで戦えってのかよ……? 冗談きついぜ」
ジークの声が震えていることに気付き、俺は覆面の奥で唇を噛んだ。
悔いを一生背負って生き延びるのが是か、それとも、友に道を譲るのが是なのか。
わからないし、わかりたくもなかったが、場に張り巡らされた見えぬ鎖が、それを許さない。
背中の刀を静かに抜き、構える。
ジークもそれに応えるように、一応の構えをとるが、戦いを楽しむような躍動はそこにはない。
揺らぐ切っ先の奥に見た右目が、わずかに細まった、気がした。
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