月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さんこんばんは、九曜です。
先々週ぐらいに大ポカをやらかしてしまった挙句、今になって「オレンジデー」ネタを引っ張ってきた人がここにいますよ。
オレンジデーとは、いちおう4/14にある祭事なのだそうですが、ノリとしてはホワイトデーの延長(世界的な風習ではない)なのだそうです。
親しい人にオレンジやオレンジ色のプレゼントを贈る日だそうで、この作品も4/14付近に出そうと思っていて、すっかり頭から抜け落ちてました。これはしたり。
中身としては、片田舎で旅路を楽しむ?ジークと零のお話です。
書いてて常に思うのですが、拙宅のジークと零は「腐向けを称するにはパンチが足りない」かつ「友情で片付けるにはなんだか重い」という、とても微妙~な関係だと思います。
とりあえず、今回のお話には特にコレといった描写はありませんが、『ジークと零の二人旅編』をすべて読み切るには、一定の耐性が必要だと思います。とだけ。
本編はいつもどおり、追記よりどうぞ。
先々週ぐらいに大ポカをやらかしてしまった挙句、今になって「オレンジデー」ネタを引っ張ってきた人がここにいますよ。
オレンジデーとは、いちおう4/14にある祭事なのだそうですが、ノリとしてはホワイトデーの延長(世界的な風習ではない)なのだそうです。
親しい人にオレンジやオレンジ色のプレゼントを贈る日だそうで、この作品も4/14付近に出そうと思っていて、すっかり頭から抜け落ちてました。これはしたり。
中身としては、片田舎で旅路を楽しむ?ジークと零のお話です。
書いてて常に思うのですが、拙宅のジークと零は「腐向けを称するにはパンチが足りない」かつ「友情で片付けるにはなんだか重い」という、とても微妙~な関係だと思います。
とりあえず、今回のお話には特にコレといった描写はありませんが、『ジークと零の二人旅編』をすべて読み切るには、一定の耐性が必要だと思います。とだけ。
本編はいつもどおり、追記よりどうぞ。
バビロア地方、とある小さな田舎町。
繁華街というほどの賑わいはないが、落ち着いた素朴な会話が、耳元をいくつも通り過ぎていく。
道端に木箱を積み上げ、野菜や果実を売る商人。
怪しげな恰好で水晶玉を持ち「未来占います」と看板を掲げた占い師。
どこかへ駆けてゆく子供、連れ添って歩く夫婦らしき男女。
目に映るすべてが、故郷では見られない新鮮な光景だが、忍びである零にとってはさして情を動かされるものでもない。
しいて言うなら、町娘たちの会話にふと、里に置いてきた妹のことを思い出したぐらいだ。
西国での任務が終われば、会いにゆくこともできるだろうが、目的地はまだまだ先だ。
任務が果たせなければ、あの見送りが今生の別れになるのだろう、と、覆面の内で小さくため息を漏らす。
「なあ零ー! これ買ったら食うか?」
そんな感傷も、大きな声にあっけなくぶち壊された。
声のした方には、橙色の何かを手に2つほど持ってこちらに意見を問うてくる、白い衣の男。
零の不安など知ったことではない、というような軽い声で、ついでに店主に値引きを要求しているその男は、名をジークという。
なりゆきでほとんど強引に同行することになり、零が断らなかったため傍にいるわけだが、性格的には零とほとんど真逆だった。
慎重、真面目、論理的な零に対して、ジークは大胆で不真面目で、感情的。飄々とした態度で自由を愛するその男には、振り回されることも多いがなぜだか憎めない。
「何だ、それは」
「オレンジだよ。知らねーのか? 皮剥いて食べると美味いんだぜ~」
「ああ、橙か。別に嫌いではないが……」
そう言いかけたところで、ジークの両手が覆面の上から、零の頬を掴んで引っ張る。
別段痛い抓り方ではないが、やめろと言いながら払い除けると、行き場をなくした手を腕組みし、膨れ面になる。
長い前髪が片目を隠し、白い覆面のせいで口元も見えないが、それでも拗ねているのがよくわかった。
「やめろよその『キライじゃない』ってやつ! 食うなら食う、食わないなら食わないって言えばいいじゃねーか!」
「しかし、とりたてて食べたいというわけでも……」
「ああそう、じゃあいらねえんだな! おっさん、これ一個でいいってさ!」
売れる個数の減った店主から睨まれ、買ったオレンジを軽く放り投げながら口を尖らせる……目視はできないが、恐らくそんな表情であろう……ジークにも、不機嫌な視線を向けられる。
気まずい空気に圧された零は、無言のまま、今夜の宿に向かうことにした。
* * *
「ようこそ、いらっしゃい。今日のお客さんだね?」
宿地に考えていた建物の、木製の引き戸を開けた瞬間、二人の間で張りつめていた空気が抜けた。
カウンターというにはあまりにも貧相な古い木の机、置かれた羽ペンとインク壺。
そこに気風の良さそうな年増の女性が、ニコニコ笑いながらどっかりと座っているのだが、あまりに体格が良いので机がますます小さく見える。
しかも女性はエプロン姿に三角巾を被り、宿の受付というよりは、どこかのお母さんといった印象を受けた。
「あ、あの……宿って、ここで間違いない?」
あちこちを旅しているジークでも、こんな宿は初めてだったようだ。先ほどまでのつんけんした雰囲気はどこへやら、呆気にとられた顔で女性に確認をとっている。
零もまた、内装を見回して驚く。全体的に木そのままの色で、装飾らしい装飾もほとんどなく、宿というよりただの民家に見えた。
「そうだよ。ここは民宿だからね、ウチの空き部屋に人を泊めてるんだよ」
「ミンシュク……? へ、へえ」
「まずは、お名前をどうぞ。確認したら、部屋に案内するからね」
状況はともかく、宿泊はできるらしい。
首を捻るジークに、宿の主人らしき女性は記名を促してきた。言われるがまま、ジークは紙の上で羽ペンを滑らす。
「それにしても、こんな若い人が来てくれるなんてねえ。特に金髪のあんた、なかなかどうして、アタシ好みじゃないの。お顔見せてちょうだいよ」
「うえっ!?」
慌ててこちらを見るジークの瞳が、助け舟を求めていることに気付いて、零は思わず噴き出した。
いつもならあれほど節操なく女性を口説き倒そうとする男が、好みでもなさそうな者に腕を引かれて困っている光景は、どうにも可笑しくてたまらない。
「な、何で笑うんだよッ!」
「いや、お前が……そんな顔をするのも、なかなか珍しいなと……くくっ」
口元を抑え目を細める零に、今日は厄日かなんかか、とぼやくジーク。
「アラ残念、ふられちゃったわねえ。さあさ、お二人様、お部屋にご案内しますよ」
その間に割って入ってくる宿の主人は、相変わらず笑顔だ。
部屋は二階だという。先を行く大柄の主人が踏み抜きそうな階段を、恐る恐るついて上がる。
後ろを見やると、ジークは頬を掻きながらも、先より幾分か穏やかな表情をしていた。
* * *
部屋に通された二人は、くたびれた布団が敷かれた木のベッドに腰掛け、ひと座りすることにした。
かれこれ、5時間は歩き通しだったと思う。ジークがベッドへ仰向けに倒れるが、ぎいっと大きく軋む音にびっくりして、慌ててはね起きる。
丸い木のテーブルはあるが、椅子もなければ手元灯もない。ベッドに座ったまま、引き寄せて使うのが賢明だろう。
壁紙は貼ってあるが、あちこちが浮いて空気が入っていたり、継ぎ目が剥がれたりしている。柱には誰かの名前とキズ。高さから見て、子供が背丈でも測ったらしかった。
零のベッドは窓側で、換気のためか少し開けられた窓からは、外のざわめきも滑り込んでくる。
「なぁ、零。いる?」
観察に耽っていると、ジークから声がかかった。
見れば差しのべられた手に、いつの間に切ったのか、先ほどのオレンジが半分になって収まっている。
声を聞いた時に妙だと思ったが、居るか、ではなく、要るか、という問いかけだったようだ。
「それは、お前が買ったものだろう」
「で、でもさ。俺一人で食っても……その、なんかさ」
続く言葉が見つからないせいで、しばしの静寂が訪れる。
窓のすぐ傍を飛んでいく小鳥が、涼やかなさえずりを添えた。
空をゆったりと流れる雲、傾きかけた太陽が部屋に作る陽だまり、飾り気のない素朴な部屋は、静けさを気まずいものから、落ち着いて言葉を選ぶための時間へと変えてくれる。
「……『キライじゃない』んだろ?」
沈黙を破ったその言葉に、零は目を丸くした。
まっすぐこっちを見るのは照れ臭いといったように、時々視線を床に投げながらも、ジークの目はわずかに緩んでいた。
ゆっくりと頷き、差し出された橙色を受け取る。甘酸っぱい果実の香りが、覆面越しであるにも関わらず、鼻腔をくすぐる。
ジークは残った半分を、剥いてもしゃもしゃと食べ始めていた。
零も味見のため、ジークに背を向ける。忍びの零は他人に顔を明かすことができず、何かを口にする時はいつもこうしていた。
いつもならジークが茶化しながら覗き込んでくる所だが、今は黙って食べさせてくれるらしかった。
ひとつの薄皮を剥き、口の中に押し込む。
酸っぱさの中にわずかな甘さを含んだ、どこか優しい味がした。
繁華街というほどの賑わいはないが、落ち着いた素朴な会話が、耳元をいくつも通り過ぎていく。
道端に木箱を積み上げ、野菜や果実を売る商人。
怪しげな恰好で水晶玉を持ち「未来占います」と看板を掲げた占い師。
どこかへ駆けてゆく子供、連れ添って歩く夫婦らしき男女。
目に映るすべてが、故郷では見られない新鮮な光景だが、忍びである零にとってはさして情を動かされるものでもない。
しいて言うなら、町娘たちの会話にふと、里に置いてきた妹のことを思い出したぐらいだ。
西国での任務が終われば、会いにゆくこともできるだろうが、目的地はまだまだ先だ。
任務が果たせなければ、あの見送りが今生の別れになるのだろう、と、覆面の内で小さくため息を漏らす。
「なあ零ー! これ買ったら食うか?」
そんな感傷も、大きな声にあっけなくぶち壊された。
声のした方には、橙色の何かを手に2つほど持ってこちらに意見を問うてくる、白い衣の男。
零の不安など知ったことではない、というような軽い声で、ついでに店主に値引きを要求しているその男は、名をジークという。
なりゆきでほとんど強引に同行することになり、零が断らなかったため傍にいるわけだが、性格的には零とほとんど真逆だった。
慎重、真面目、論理的な零に対して、ジークは大胆で不真面目で、感情的。飄々とした態度で自由を愛するその男には、振り回されることも多いがなぜだか憎めない。
「何だ、それは」
「オレンジだよ。知らねーのか? 皮剥いて食べると美味いんだぜ~」
「ああ、橙か。別に嫌いではないが……」
そう言いかけたところで、ジークの両手が覆面の上から、零の頬を掴んで引っ張る。
別段痛い抓り方ではないが、やめろと言いながら払い除けると、行き場をなくした手を腕組みし、膨れ面になる。
長い前髪が片目を隠し、白い覆面のせいで口元も見えないが、それでも拗ねているのがよくわかった。
「やめろよその『キライじゃない』ってやつ! 食うなら食う、食わないなら食わないって言えばいいじゃねーか!」
「しかし、とりたてて食べたいというわけでも……」
「ああそう、じゃあいらねえんだな! おっさん、これ一個でいいってさ!」
売れる個数の減った店主から睨まれ、買ったオレンジを軽く放り投げながら口を尖らせる……目視はできないが、恐らくそんな表情であろう……ジークにも、不機嫌な視線を向けられる。
気まずい空気に圧された零は、無言のまま、今夜の宿に向かうことにした。
* * *
「ようこそ、いらっしゃい。今日のお客さんだね?」
宿地に考えていた建物の、木製の引き戸を開けた瞬間、二人の間で張りつめていた空気が抜けた。
カウンターというにはあまりにも貧相な古い木の机、置かれた羽ペンとインク壺。
そこに気風の良さそうな年増の女性が、ニコニコ笑いながらどっかりと座っているのだが、あまりに体格が良いので机がますます小さく見える。
しかも女性はエプロン姿に三角巾を被り、宿の受付というよりは、どこかのお母さんといった印象を受けた。
「あ、あの……宿って、ここで間違いない?」
あちこちを旅しているジークでも、こんな宿は初めてだったようだ。先ほどまでのつんけんした雰囲気はどこへやら、呆気にとられた顔で女性に確認をとっている。
零もまた、内装を見回して驚く。全体的に木そのままの色で、装飾らしい装飾もほとんどなく、宿というよりただの民家に見えた。
「そうだよ。ここは民宿だからね、ウチの空き部屋に人を泊めてるんだよ」
「ミンシュク……? へ、へえ」
「まずは、お名前をどうぞ。確認したら、部屋に案内するからね」
状況はともかく、宿泊はできるらしい。
首を捻るジークに、宿の主人らしき女性は記名を促してきた。言われるがまま、ジークは紙の上で羽ペンを滑らす。
「それにしても、こんな若い人が来てくれるなんてねえ。特に金髪のあんた、なかなかどうして、アタシ好みじゃないの。お顔見せてちょうだいよ」
「うえっ!?」
慌ててこちらを見るジークの瞳が、助け舟を求めていることに気付いて、零は思わず噴き出した。
いつもならあれほど節操なく女性を口説き倒そうとする男が、好みでもなさそうな者に腕を引かれて困っている光景は、どうにも可笑しくてたまらない。
「な、何で笑うんだよッ!」
「いや、お前が……そんな顔をするのも、なかなか珍しいなと……くくっ」
口元を抑え目を細める零に、今日は厄日かなんかか、とぼやくジーク。
「アラ残念、ふられちゃったわねえ。さあさ、お二人様、お部屋にご案内しますよ」
その間に割って入ってくる宿の主人は、相変わらず笑顔だ。
部屋は二階だという。先を行く大柄の主人が踏み抜きそうな階段を、恐る恐るついて上がる。
後ろを見やると、ジークは頬を掻きながらも、先より幾分か穏やかな表情をしていた。
* * *
部屋に通された二人は、くたびれた布団が敷かれた木のベッドに腰掛け、ひと座りすることにした。
かれこれ、5時間は歩き通しだったと思う。ジークがベッドへ仰向けに倒れるが、ぎいっと大きく軋む音にびっくりして、慌ててはね起きる。
丸い木のテーブルはあるが、椅子もなければ手元灯もない。ベッドに座ったまま、引き寄せて使うのが賢明だろう。
壁紙は貼ってあるが、あちこちが浮いて空気が入っていたり、継ぎ目が剥がれたりしている。柱には誰かの名前とキズ。高さから見て、子供が背丈でも測ったらしかった。
零のベッドは窓側で、換気のためか少し開けられた窓からは、外のざわめきも滑り込んでくる。
「なぁ、零。いる?」
観察に耽っていると、ジークから声がかかった。
見れば差しのべられた手に、いつの間に切ったのか、先ほどのオレンジが半分になって収まっている。
声を聞いた時に妙だと思ったが、居るか、ではなく、要るか、という問いかけだったようだ。
「それは、お前が買ったものだろう」
「で、でもさ。俺一人で食っても……その、なんかさ」
続く言葉が見つからないせいで、しばしの静寂が訪れる。
窓のすぐ傍を飛んでいく小鳥が、涼やかなさえずりを添えた。
空をゆったりと流れる雲、傾きかけた太陽が部屋に作る陽だまり、飾り気のない素朴な部屋は、静けさを気まずいものから、落ち着いて言葉を選ぶための時間へと変えてくれる。
「……『キライじゃない』んだろ?」
沈黙を破ったその言葉に、零は目を丸くした。
まっすぐこっちを見るのは照れ臭いといったように、時々視線を床に投げながらも、ジークの目はわずかに緩んでいた。
ゆっくりと頷き、差し出された橙色を受け取る。甘酸っぱい果実の香りが、覆面越しであるにも関わらず、鼻腔をくすぐる。
ジークは残った半分を、剥いてもしゃもしゃと食べ始めていた。
零も味見のため、ジークに背を向ける。忍びの零は他人に顔を明かすことができず、何かを口にする時はいつもこうしていた。
いつもならジークが茶化しながら覗き込んでくる所だが、今は黙って食べさせてくれるらしかった。
ひとつの薄皮を剥き、口の中に押し込む。
酸っぱさの中にわずかな甘さを含んだ、どこか優しい味がした。
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