月ノ下、風ノ調 - 【冊子アーカイブ】この星の終わりに 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
みなさんこんばんは、九曜です。

本日は、過去に個人で冊子として頒布した『予言者シビュラFanBook いつか廻る世界で』に収録した作品のアーカイブです。
このお話ですが、まだウロボロスイベントが終わっていない状態(いわゆる見切り発車)で書き始めたもので、世界観やキャラクターの二次設定も独特のものとなっています。
あらすじだけかいつまんで申しますと「滅びゆく未来からやってきた、とある男の話」といったところです。
このあらすじで「大丈夫そうだな」と思った方は、追記よりご覧いただけます。

ちなみに、この作品群(未来から来た予言者編)からここへアーカイブ予定なのは、本作と『未来へ繋ぐ希望』、そして冊子未収録の『輪廻、それは泡沫の夢』の3つです。
冊子タイトルにもなっている『いつか廻る世界で』という作品については、冊子書きおろしとなっていますので、現段階でここへのアーカイブ予定はありません。気が向いたらこっそり増える可能性はあります。




荒れた大地に吹きすさぶ風、舞い上がる土埃。
目下には噴き出したマグマの滑る地表、大気を失いつつある空は宇宙の黒色で満ちている。
終わりを迎えようとするその星で、たったひとつ生き残ったいのちは、最後の希望に賭けていた。

「開かれよ、無限の扉。目覚めよ、永劫の竜。時は一となり、一は時となる」

かつてバビロアという王国が栄えた大陸、一際高い山の頂で、唱える。
『予言書』の最後のページを広げ、そこに残されたわずかな魔力の痕跡を左手でなぞりながら、シビュラは目を閉じた。

*  *  *

物心ついた頃、この世界には既に、崩壊の兆しが表れていた。
やまぬ戦乱は天界の者たちを巻き込み、星を食らう竜や太古の融帝を蘇らせた。
さまざまの事象で世界は、大陸や海は傷つき、国は滅んでいった。

シビュラは、魔導師の家系に生まれただけの、ただの人間である。
内に強い魔力こそ秘めていたが、当時名を馳せた勇者や高名な魔法使いが次々と倒れても、その代わりになどなれるはずもない。
ただ戦火を避けて、逃げ、彷徨う日々が続いた。
生きて、生き延びて、そうすればいつか光が見えると信じて……しかしとうとう、追い求めた光は見つからなかった。

その代わり、崩落した王宮を眺めていた時に見つけた『予言書』が、シビュラの人生を大きく狂わせた。
かつて膨大な魔力を宿して作られたとおぼしき書は、行く先々でシビュラの命を救ってくれた。
予言書という名の通り、秘められた魔力にシビュラの魔力を少し足せば、ある程度の未来が予測できたのだ。

それは皮肉にも、すべてのいのちが滅んだ後、シビュラが生き続けるという結果を作った。
親類縁者を失うことも、平穏な地がなくなることも、全てが予測できた。
だがシビュラがどう足掻こうとも、予言を変え、それらを救うことはとうとうかなわなかった。
いつしかシビュラは、予言書に抗うことをやめ、ただ自分が生き延びるために、それを享受し続けた。

予言書を使っても、なぜかシビュラ自らの死については、一切読み解くことができなかった。
シビュラは死に絶える星の、最後の観測者になることを強いられた。

*  *  *

「開かれよ、無限の扉。目覚めよ、永劫の竜。時は一となり、一は時となる」

何度も、何度も、何度も唱え続けた。
この世界を滅ぼさないための手段は、きっとこれしかないのだと、持てるすべての精神を振り絞ってシビュラは念じた。
しかし魔力が足りないのか、目の前の荒れた光景はひとつも変わらず、そのうちにシビュラはがっくりと膝を付いた。

「私では、やはり、駄目なのか。私が生き残ったばっかりに、この世界は滅んでしまうのだな」

憶測でしかないが、予言書を持つ人間こそ予言できない、すなわち最後まで生き延びる運命を背負うに違いない。
閉じた紫色の、月の描かれた表紙に視線を落とす――自分がこの本を拾うには、あまりにも未熟だったのだろう、と思う。
昼も夜もなくなり、薄れゆく大気に体が蝕まれる中、どうにもならぬ想いを巡らせ動き続けることに嫌気がさした。
生きていても、何も変えることのできない自分。死んだとて、何も変わらない世界。
シビュラの思考はそこで止まり、大地を蹴って、終焉を望んだ。

ふと、シビュラの耳に、時計が時を刻む音が届いた。

目を開く。溶岩流へ向かって落ちているはずの体が、宙で固まっている。
まるで切り取られた時間の中に納まっているかのように、逆さになったままで、自分は浮いている、いや止まっているのであった。
そして目の前には、緑と黒の長い体に金のたてがみを持つ、大蛇か竜か……とにかく、巨大な生き物が居た。

「永劫の竜……? 今さら来てももう遅い。私は死ぬことにした。この世界はこれで終わる」

早く時を動かし楽にしてくれと、淡々と告げると、その生き物は頭をシビュラの方に寄せてきた。
シビュラの眼前に、その生き物の額についている、大きな宝玉が迫る。押し潰されるということはなく、どうやら覗いて見ろということらしかった。
光で描かれた、短い文字が浮かぶ。

「『ウロボロス』――それが、お前の名か」

光る文字が霧散してかき消えると、続けてその奥から滲み出てくるように、何かがぼんやりと映し出された。
シビュラは、だんだんはっきりした形になってゆくそれを、寸劇でも見るように追い始めた。

紫色の手袋をはいた、何者かの手元がそこに映される。
開いた本の表紙に見覚えがある……今この瞬間にも、自分が右腕に抱えている『予言書』だ。
その最後のページに、羽根ペンか何かで、誰かが文字を綴っている。

――『開かれよ、無限の扉。目覚めよ、永劫の竜。時は一となり、一は時となる。』世界は、輪廻する。無限に、繰り返す。其れを求めし時、此れを唱えよ。

先ほど口にしていたあの呪文が、まさに書かれてゆく場面であった。
ああ、あれは、自分には荷が重すぎたのだと、小さくため息を吐き出す。
なぜウロボロスがこの光景を見せているのか、よくわからないが、冥途の土産にでもしようと考える。

書き終えて書を閉じた後、宝玉は書き手の姿を大きく投影した。
シビュラは目を見開いた。そこに映っていたのは、他でもない、シビュラ自身だったのだ。

「わた……し……?」

ガクン、という衝撃とともに、顔に強い風が当たった。
時が動き始めたのだろう。あの生き物の姿はなく、灼熱の大地が迫ってくる。
シビュラは叫んだ。

「開かれよ、無限の扉! 目覚めよ、永劫の竜! 時は一となり、一は時となる! 私は――!」

*  *  *

火の大陸、バビロア王国。
王国の上空に、突如巨大なドラゴンが現れ、騎士たちは異常事態とみなして、皆そこへ駆けつけていた。
金のたてがみを持つドラゴンは大きく緩く渦を描き、長い黒と緑の身体をうねらせ、宙空へ留まっている。
そのドラゴンの傍に立つ、紫のローブを着た細身の人間が、ゆっくりと口を開く。

「予言する……この星の時は、永劫の輪の中で廻り続けるであろう」

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