月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
アップデートを待ち焦がれてましたが動きがなく、地獄巡りもそこそこにハンター業に身が入る毎日なので、今日は潔く創作アーカイブと相成りました。
今日のお話は、兄・嵐童が館へ戻ってきた後に開かれた、宴の話です。
タイトルがもうまったく何の捻りもなく『饗宴』なのですが、基本タイトルセンスが絶望的にないので、とりあえず宴の話なんだなと思ってください。
ゲーム本編を遊んだ方ならわかると思いますが、嵐童がもしあの後館に戻ってきた場合にどうなるか、という部分を、私なりに、いい具合にまとまるように書いた作品ですので、平和な館が好きな人におすすめです。あ、ネタバレ含まれますので、まだ未プレイの方は先にUM本編をクリアされることをおすすめします。
また、自宅設定として地獄行きの作法の記事で書いた「彼岸の体」説を前提に話を進めているので、まだこの記事を読んでない方は併せてどうぞ。
アップデートを待ち焦がれてましたが動きがなく、地獄巡りもそこそこにハンター業に身が入る毎日なので、今日は潔く創作アーカイブと相成りました。
今日のお話は、兄・嵐童が館へ戻ってきた後に開かれた、宴の話です。
タイトルがもうまったく何の捻りもなく『饗宴』なのですが、基本タイトルセンスが絶望的にないので、とりあえず宴の話なんだなと思ってください。
ゲーム本編を遊んだ方ならわかると思いますが、嵐童がもしあの後館に戻ってきた場合にどうなるか、という部分を、私なりに、いい具合にまとまるように書いた作品ですので、平和な館が好きな人におすすめです。あ、ネタバレ含まれますので、まだ未プレイの方は先にUM本編をクリアされることをおすすめします。
また、自宅設定として地獄行きの作法の記事で書いた「彼岸の体」説を前提に話を進めているので、まだこの記事を読んでない方は併せてどうぞ。
饗宴
その日の夕刻、月嵐童は鎧を解いた着流し姿でありながら、いつもに増して複雑な面持ちで、館の縁側に向かい柱へ背中を預けていた。眉間の皺は平生よりであるが、今日はこと深く刻まれており、視線は庭を下る小川の水面へ落ちている。散り始めた桜の花弁が、いくつも流れてゆくのを追うでもなく、ただぼうっとそのあたりを眺めながら、忌々しい過去を反芻していた。
二十七代当主として認められなかったこと。弟を助くため、黙して地獄へ赴いたこと。その奥底で、得体のしれない悪意に捕まえられ、事もあろうに兄弟に刃を向けたこと。弟に兄殺しを――例えそれが、地獄の中ゆえ「虚身の死」となることを分かっていようとも――させてしまったこと。
暮れなずむ陽光が弱まるにつれ、小川は闇の溶け出し始めた空色を吸って暗くなり、まさしく嵐童の心を映すようであった。ぽつぽつと流れてゆく花弁だけが、視界の中でやけに白かった。
「兄上」
呼ばれて顔だけで振り向けば、すぐ背後にすっと立っていたのは、弟――月氏一族の当主、月風魔――であった。領内見回りの帰路といったていで、まだ鎧も籠手も身に着けたままであったから、座る時にがしゃりと金物の鳴る音がした。
「ここに居られましたか。参りましょう、皆席に着いて待っております」
夕飯の支度ができたのだ、と理解し、よっくらと立ち上がる。普段であれば侍女か侍従に呼ばれるのみで、当主である弟自ら呼びに来るというのは滅多にない。しかしその日の嵐童は、六道輪廻の如く巡り答えの出ぬ自問に疲れ果て、少しでも気を紛らわせる出来事が欲しかった。一杯の飯椀を思い浮かべると、どれもが最早過ぎた事、と霧消する気さえした。
紅色の橋を渡り、大広間に着いた頃、ようやく嵐童はそこが平素と違うものであると気づいた。御膳には飯椀とおかずと汁物のみでなく、魚の塩焼きや青菜の漬物など、色とりどりの馳走が見えた。自分の箱膳の前へ座し、何か領内で晴れ事でもあったろうか、とぼんやり考え始めた頭に、弟の声が届いた。
「皆の者! 今宵はわが兄、月嵐童が館へ無事戻られたことを祝い、宴の席をもうけた。傷が癒えるまでの間、少し暇を貰ったことは許して欲しい。盃を持て。兄上、音頭を!」
えっ、という声が口をついて出そうになったのを抑え、嵐童は、
「か……乾杯!」
やや険しい面持ちのまま、挙げる手もどこかぎこちなかったが、それでも皆はひと呼吸置いて「乾杯」と機嫌よく声をあげた。ことに、弟のよく通る声が、最もその場で大きく響いた気がした。
嵐童は盃を右手に持ったまま、口を付けるのも忘れてぼうっとしていたが、右隣に座っていた一族お抱えの陰陽師から声がかかり、我を取り戻した。陰陽師の話によれば、嵐童が失踪し当主が地獄へ向かってから、毎日のように易を立てていたが、ある日一族の未来が危ういという結果が出、血相を変え神像に必死で祈ったという。実に他愛のない話であったが、さまざまのものが散らかったままの思考を程よくかき混ぜ、嵐童は重かった心地が少し軽くなった気がした。陰陽師の男は魚の身取りが苦手らしく、喋りながら箸でつつき回した魚が無残な姿となっていたが、それさえ酒の饗とするように、赤ら顔でけらけらと笑っていた。
少し欠けた満月が、ようやく庭へあがってきた頃、嵐童は馳走のほとんどを平らげ、侍従が追加の酒を注ぎに来たのも断っていた。自分のためと開かれたこの宴の意義について、難しい顔で考え込もうとした視界に、赤い髪が揺れた。
「兄上、お代わりは要らぬのですか」
上座に居たはずの当主が目の前で、いつの間にか、徳利を両手で持ち膝を揃えている。嵐童はすっかり面食らってしまい、
「そ、それは止さぬか。当主である其方に、酌をさせるなど……」
言いながら首を振る嵐童に、弟は何をか思いついたように、突然声を張り上げた。
「皆の者! わが兄嵐童が戻られたことを祝い、私は兄上に日頃の礼も込め、共に盃を交わそうと思う! これに異論のある者は、申してみよ!」
少しふわふわとした口調なのは、酔いが程よく回っているせいか……ともあれ、当主の鶴の一声に、一同はむしろ「めでたき事だ、当主様の良きように」だの「それはとても良うござります」だの言いあって、そこに機嫌よく下手な調子の、当主をたたえる即興の歌を口ずさむ者まで出てきて、宴の場はますます賑わいを増した。
「皆から許しが得られました。さあ、兄上」
こうまでされては、最早断る必要もあるまいと、嵐童は急いで空けた盃を差し出した。猫目のように機嫌よく目を細める弟の、凍てついた記憶ごと融かすような温かな心ばせが、夜風のごとく身に沁みた。
+++
兄上に楽しんでもらうために、策を弄する弟…というの、なかなかどうして当主らしいと思います。
この「口実をつける」という部分について、私はどうしても「嘘とかつきたくないなー」ぐらいの感覚でいるのでアレな仕上がりなのですが、Twitterで付き合いのある創作する方の作品など見ていると、本当にそれらしい振舞いをしている27代が居たりなどして、たいへんに感心してしまいます。
あと「一杯の飯椀」のくだりなんですが、『ご機嫌な朝食』を読んだ方なら、ここの表現で繋がってるんだな、と思われたかもしれません。
直接的な繋がりがある作品ではありませんが、こういった似た表現を織り交ぜることが多いので、私の作品を見る時のポイントのひとつとなっております。た、単体でもいちおう作品としては楽しめるはず…なので…。
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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