月ノ下、風ノ調 - 【オレカ二次創作】零、新たな旅立ち 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまごきげんよう、九曜です。

UMの作品もまだまだ沢山あるうちに何ですが、オレカのアーカイブもあれだけ出したにも関わらずまだ山ほど残っているので、たまには気分を変えてこちらの方を。アーケード版のサービスは終了しましたが、書いた作品は消えないのでまだ続きます(予告)
月風魔伝そのものや風魔君を題材にした文字作品は、意外にもかなり少なく、いかに私が風魔君を文字ではなく絵やほかの手段で表現したい奴なのかがよく分かるかと思います。
かといって絵のアーカイブをやり始めると、グレースケール風魔伝を毎週やらないと間に合わないし…。

さて本日のアーカイブ作品は、だいぶ過去に置いた月の一族の伝説の続編となります。そして「ジークと零の二人旅」編にあたる話なので、何のことやらサッパリの人はまず紹介記事や前編をお読みください。
そしてさらに、今回の作品に風魔君は登場しません。『月の一族の伝説』の出来事のあと、零が里を出て抜忍となるまでのエピソードの断片を書いています。

ここまで読んで続きが気になった方は、追記よりどうぞ。





――空が青い。

鳥のさえずりが滑ってゆくのを耳で感じながら、零はひとつの焼け跡の前に居た。
不審火、だという。
すべて木でできた家など、火にくべるたき木のようなもので、燃え落ちた後には灰と炭ばかりが残されていた。
その小屋の持ち主であった零には、裏に隠された真相も何となく、読み取ることができた。

(やはり、良くは思われていないか)

暇を貰い、月の一族に弟子入りするためとのぼった山の頂で、零はどうしようもない現実を突き付けられた。
常人が月の一族になることはできない。別の道を歩むべきだと、いにしえの高潔な魂に、諭された。
零はいっとき涙しながらも、その道をすっぱりと諦めた。

同じだけの日を重ね、元来た道を引き返してみれば、かつて住んでいた場所はただの残骸と成り果てており。
すぐ里の長に掛け合い、暇を解いてもらおうとしたが、今は会うことができない、と門前払いされた。
寝床がないというだけの問題であれば、忍びの零であるから、いかようにもできる。
ただ、どうやら信もないというこの状況で、下手をすれば進退窮まるであろうことも、零は薄々感づいていた。

*  *  *

焼け出されてから二日が過ぎ、零はようよう里長に呼ばれ、屋敷へ参じた。
膝をついて待っていると、里長の入ってくる気配がし、零は視線だけをそちらに向ける。
長は何やら、持っていた巻き紙を広げると、それをこちらに見せながら、口を開いた。

「お主を呼んだは他でもない。この男を始末してくるようにと」

墨で描かれた人相書きを見上げた時、零の表情は一度に凍りついた。
長い前髪、頭に撒かれた布の防具、口元を隠す覆面。
焦っていることを悟られぬように、いきなり視線を背けるのは避け、固唾をのむ。
長はこちらを厳しい視線で見つめたまま、こう告げてきた。

「よく知っているだろう。この男は、お主に連れ添って歩いていた時期があるというではないか? これより西国での任務も多くなる。始末しておかねば都合が悪い」
「はい」

声を震わせないように、心を見透かされないように、零は精一杯の速度で返答する。

「首級を獲ってくることができたら、月の一族とやらの件については不問としてやろう。上忍でありながら妙なことを考える、お前の在り様をよく思わぬ者もおる。これ以上の失態をすれば、相応の処罰があると心得よ」
「……はっ」

ようやく呑み込めた事態が、棘だらけの毬栗のように喉元でじくじく痛んだ。
里長の家を逃げるように出、見上げた空は、変わらず青かった。

***

焼け跡の前のちょうどよい高さの岩に腰掛け、零は腕を組んだ。
考え事など、これまで数え切れぬほどしてきたが、今その胸中に渦巻くものは、明らかに異質だった。

『わかんねえよ! お前の命より大事な掟なんて、わかんねえ! わかりたくもねえ!』

過日のジークの叫びが、頭の奥から湧きあがるように響いてくる。
里の掟を守り、このまま上忍としてつとめを果たす未来が、かつてあれほどしっかりと思い描けた行く末が、今の零には雲霞のように、おぼろな幻影にしか見えなかった。

――俺は、どうすればいい?

人目もはばからず、頭を抱える。村八分扱いとする振れ回りがあったのか、わざわざ訪ねてくる者がいないのが、皮肉な幸いであった。
何も考えず正しいと思って進んできた道が、振り返れば切り立つ崖となっていて、その先にもまた切り立った崖しかない気さえする。
そこを下り地へ堕ちるのが、定められた自分のありようなのかと、苦しくて零は頭を掻き毟る。
もう一度空を見上げる。視界一面が青になり、雲も、鳥も、傾いた太陽の姿もなかった。

『何もないなら、何で満たしてもいい、ってことさ』

まっさらな青に、振り向いたジークの顔がふわりと浮かんだ。
先の人相書きなどと違う、自分がこの目で見てきたジークの姿は、白いターバンと覆面の口元が、青空にやけに鮮明に映った。
ハッとして、立ち上がる。木々の葉擦れの音を耳に感じ、それまで見えていたジークの幻がぱっと霧消する。
さりとて絶望はなく、諦めもない。たしかな現実を、進むも退くもし難きこの状況を、みずから踏み越えるしかないと、零は決心を固めた。

――俺の所為で、ジークを死なせるわけにはゆかない。

心の奥、そう密かに呟いて、零は身一つですぐ里を発った。

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