月ノ下、風ノ調 - 月風魔伝UM二次創作『初詣を参りに』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。

今日のお話、タイトル通り季節的にすごくズレているので、お正月まであたためておこうか考えたのですが、多分その頃にはいろいろ忘れて別のもので湧いているかもしれない(予測不能)ため、割り切ってアーカイブすることにしました。
この話はUMの「とある結末」を前提に考えたものなので、ネタバレ前提で話が進みます。EDよりずっと後のお話なので、どちらかというと何でも許せる方向けです。長さとしてはサクッと読めてしまう程度で、過去に画像化してお見せしたのですが、こっそりアーカイブ向けに加筆修正されています。

興味のある方は追記よりどうぞ。



初詣を参りに


あれから何度目かの、年が明けた。
冬の早朝、館の庭はすっかり雪化粧で、桜や桃、梅の枝が時折吹き付ける風に雪をさらわれ、さながら寒に震う細い腕(かいな)のようであった。

年が明けたならば、初詣にでも参ろうか。綿入りの作務衣に羽織だけ引っ掛けて、裸足のまま草履をつっかけ外へ出る。十年以上も昔に暇をくれた侍女は、宝物殿の奥で長い長い初夢でも見ているだろうか。その宝物殿を横目に、武器の撤去されたからっぽの台たちの前を通り過ぎれば、鳥居はすぐ傍にあった。
ああ、詣でるならば、ここが良い。私のすべてを捧げた、この地が――寒さも忘れて川中の飛び石を渡り、跳ねる水の脛に返る冷たさも失せて、踏み入る。かつては装備を整えねば往かれぬと思った、その思いさえ最早懐かしい。
鳥居を潜るや、冷たく強い雨が総身を打ち付け、雷声が遠く鳴った。本坪鈴も賽銭箱もないこの鳥居の奥へ、今一度。

「ならぬ。生者が来る場所ではない」

不意に手首を掴まれた。話が通じるのなら、魑魅魍魎でないのだろう。振り向いた視線が合うや、私の奥底に仕舞っていた感情が解(ほど)け、目にたちまち涙が甦った。
その人はそのままで、あの時あの場所で倒れた年姿で。私は髪も色褪せ肌艶も落ち、すっかり老いぼれた年寄となったというのに。

「兄上」

最早、己がその人の親かと見紛う姿で、声を掛けるのは少し戸惑ったが、私はその人をそうと呼んだことしかなかった。兄上。二十七代当主となった私の、まことの兄、月一族歴代最強の腕とうたわれ、いずこかへ失せた男。
いや、その兄の物語はただ一人、私だけが結末を知っていた。私は兄上を――

「其方、帰れと言うておろうに。それとも、私と共に参ろうとでも言うのか」

混濁する頭に声が掛かった。共に参る。この地獄へ。
それもまた良いかもしれぬと、取られた腕をいっそ取り返して、

「はい。参りましょう、兄上」

見上げた薄色の瞳に狼狽の色が見えたが、すぐさま平生を取り戻したように、兄上はふっと笑って目を細めた。

「……かなわぬな。其方にそう言われて、断るわけにもゆかぬ。丸腰ならば、私が先導しよう」

何度目かの年明け。地獄への初詣。遠い昔に喪った、大切な人と。
もう踏み出すのも辛いはずの老いた細い脚が、軽やかに動くのを感じて、私は黒く大きな背中を追いかけた。



+++

この話は「此岸を守りまっとうに歳を重ねた弟を、既に亡き人となった兄が迎えに来たら」という空想からスタートしました。ゆえに動機がだいぶアレですが、直接的な描写はないので兄弟愛、ということでまとめてあります。いや生産ラインは一緒なんですけれども…。
執筆したのは1/4、初詣をモチーフにしたので、それにちなんだ言葉があちこちにちりばめられています。初夢のくだりは提出後に思いついたので、加筆修正されております。

あと個人的に、見た目どう考えても兄上より年上になった27代君が、兄上のこと「兄上」って呼ぶの良いと思うんですよ。27代君にとって兄上はずっと兄上、それが良いと思って書いてるところはあります。

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