月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
先週より、GW3週連続企画「狂蠍」シリーズをお送りしておりますので、本日は続編である『続・蠍の夢』のアーカイブです。タイトルセンスが絶望的にない。
こちらの作品は、先週アーカイブした蠍の夢の続編となっており、セルフパロディ的な要素をふんだんに含んでいますので、先週の記事からお読みいただくと楽しめるかと思います。
なお、例によって兄上は平穏無事に館に戻っています。本編のネタバレ要素は多分ないです。
そういえば、動画などの掲載用にYoutubeにアカウントを作りまして、サンプルとして狂蠍が歩いているだけの動画を置いたりしています。
限定公開なのでちゃんと埋め込まれるかわかりませんが、大丈夫そうなら動画はこちらで出すようにしていこうと考えています。
先週より、GW3週連続企画「狂蠍」シリーズをお送りしておりますので、本日は続編である『続・蠍の夢』のアーカイブです。タイトルセンスが絶望的にない。
こちらの作品は、先週アーカイブした蠍の夢の続編となっており、セルフパロディ的な要素をふんだんに含んでいますので、先週の記事からお読みいただくと楽しめるかと思います。
なお、例によって兄上は平穏無事に館に戻っています。本編のネタバレ要素は多分ないです。
そういえば、動画などの掲載用にYoutubeにアカウントを作りまして、サンプルとして狂蠍が歩いているだけの動画を置いたりしています。
限定公開なのでちゃんと埋め込まれるかわかりませんが、大丈夫そうなら動画はこちらで出すようにしていこうと考えています。
続・蠍の夢
目を開くと、いつの間にか開いていた障子戸より、雲間に覗く満月の光が薄ら差していた。鍛錬に行くにはいくら何でも早すぎる、と思うた所で異変に気付いた。腹を下に臥して寝、そのまま顔を上げたような景色であるが、首を上へもたげている時の息苦しさはない。それどころか、首は動かそうにもまるで動かず、足の裏が床を衝く感覚はあれど、視界のすぐ下には暗い畳の海が広がっているのであった。
何か思い出せそうな気がして、私は異様なこの風景の中を、歩いてみることに決めた。夜風が体の脇を掠めた。これほどまで視界が低いのに、這う時の布擦れの音はなく、その代わり歩むたび、きしきしと甲冑の擦れるような音がした。顔を横へ向け、己が形作る影を確かめたかったが、やはり首は塗り固められたように、動かせずじまいであった。
私の歩みはなぜか緩慢で、廊下の半分ほどをようよう過ぎた頃、灯火を片手に掲げた何者かが、廊下の奥側からそろそろと歩いてきた。月光にほの白く照らされた寝間着と、赤く長く靡いた髪にすぐさま、弟であると知れた。普段は旋毛の見えるかという程にちいさい弟が、今の低い視界では地を揺るがす大太郎法師にさえ思えた。弟は私に気づくなり、丸腰であったのだろう、それでも咄嗟に空いた手だけで徒手空拳の構えを取った。
「魑魅魍魎! いや、狂蠍、か……?」
狂蠍、という言葉とともに、頭の奥で何かがぱちんと弾けた。そして、私はこのような夢をかつて見たことがあり、此度もまた夢である、と何とはなしに確信した。夢とあらば、斬られようが夢見悪く醒めるだけであるからと、私は弟に歩み寄って行った。
「なぜ、かような所に……うん? お前は……私の飼うている狂蠍ではないな」
夢だと思えば、魍魎となり代わった体の自由も不思議と効くもので、尻尾の先を弟の胴体に刺さぬようにしながら、名を呼んだ。意味のある言葉とならず、ただ金切声があがるばかりであったが、弟は何かしらを察したように、しゃがみ込んで此方の頭を撫でつけた。
「敵意は……ないようだな。どこから迷い込んで来た? ともかく、ここでうろつかれるのは困る」
弟は灯火を床へ降ろし、寝間着の帯を解くと、片端を此方の胴へ回し結び、もう片端を左手へ握った。そして右手に灯火を持ち直して、元来た道を引き返し始めた。自由を得た衣の裾が夜風に大きく靡くたび、従い歩く背後からは、脛や腿までが垣間見えた。家臣も皆寝入る夜更けとはいえ、かような恰好で満月の下をよくも歩くものだという呆れと、それこそが弟が民に慕われる理由であるのだという甘心が、帯に引かれ歩む毎にぐるぐると頭を巡り巡った。
何事もなく部屋へ帰りつき、巻かれた帯を没収されると、寝間着を直した弟は燭台に手際よく灯火を移して、眼前にどっかりと胡坐をかいた。
「私の飼う狂蠍とは、ずいぶん色が違うのだな」
ぺたぺたと、棘のない所を選んで触る掌の感触が温かい。蠍は虫の類、体温などほとんどない生き物であったか……等と、思案をめぐらそうとしたが、足裏が浮いたのを感じた。すぐ上に、見下ろす金の瞳の穏やかさ。持ち上げられ、弟の膝の上に横抱きされる形となっていた。途端、これが夢で良いような、口惜しいような、何ともつかぬ感情が奥底より湧き上がり、ただ今は魍魎の身であるがゆえに顔に表すことも、人語にて何と返すこともできずに、黙って尻尾を体の横へ振り下げた。背中に置かれた寝間着の腕は柔らかで、温かであった。
「何故だかお前といると、心やすく思うてしまうな。地獄の魍魎であること、どうにも信じがたい」
言うなり、弟は背中に頬を寄せて、そのまますうすうと呼気を深めた。このまま寝入られようが、それもまた夢であるのだが、これより先の未来が急にそら恐ろしくなり、私は閉じられるはずもない魍魎の目を必死に閉じようとしながら、醒めろと念じ続けた。安らかな吐息が漏れ始めた桜の唇が、ぼんやりと靄に滲んでいった。
***
はっと身を起こせば、陽の光が布団の角を白く照らしていた。慌てて布団を払い立ち上がって、己が姿を確かめる。五本の指がある太い両手と、見慣れた柱の高さに安堵しながらも、鍛錬の時間はなどとうに過ぎてしまっている陽の高さに、遣る瀬無い溜息が漏れた。
飯櫃にまだ残りはあるだろうかと、人並みの心配を幸せに抱えながら、私は遅れて喚き出した腹の虫を宥めながら、木目の廊下へ踏み出した。
+++++
兄上、ちょっと狂蠍ボディに慣れて来たようです(それもどうなの)
狂蠍を手なずける27代を通して、当主としての人となりだとかが垣間見えたら良いな、と思って書いた2作ですが、なにぶん私が兄弟仲良い党の狂蠍可愛い派なので、話の流れもまとまり方も大体「そんな感じ」となっております。
さて、最終夜の来週は、これらの夢と違ったパターンの蠍の話ですので皆さま、ご期待…いやこれ期待していいやつなんですかね…?
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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