月ノ下、風ノ調 - 【UM二次創作】遠き夢の終わりに 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。

さて「狂蠍」シリーズもいよいよ今夜で最終夜となりました。最終夜は、これまでとは毛色の違うお話『遠き夢の終わりに』をアーカイブしようと思います。
この話はとても短いのですが、古語体が出てくるのに加え、結構な量の情報をとにかく詰め込んでいます。大丈夫な方はどうぞお楽しみください。




遠き夢の終わりに

 嘗(かつ)て、人の姿を持ちし身と思はゆるが、我が腕は多くの脚に体は硬き甲になりて、暮れの原野に歩み出づる。人の子集まりて我が姿を妖かしと罵り、蹴り、果てに棒などを持ち出して叩きたれば、呪わしく忌々しき身にてさもありなむと、棘の生えたる鋏も尾も地に伏して、目をかたく閉じたる。場に声ひとつ響き、開けた視界に男の顔あり。曰く、
「何と憐れなることか。わが館に来るが良い」

 その狂蠍を拾ったのはつい数日前であった。地獄の釜の蓋が閉じ、魍魎なども湧き出ることのなくなった現世に、この魍魎がうろつき残っていたことは不測であったが、二十七代当主月風魔はそれを、館へ迎えることに決めた。元より犬猫などへの慈愛に溢れている性根もあったが、何よりも月氏の館には、既に飼いならされている狂蠍が一匹いた。この狂蠍ももはや、地獄へ還すもままならず、ただの一匹繋がれ置かれるよりは、仲間が居たが良いとの思惑であった。
 新たに迎えた狂蠍は、館の狂蠍よりひと回りほど大きく、何よりもつややかな黒鉄(くろがね)の甲殻が目を引いた。よく見られる狂蠍は血溜のような朱色であったが、狂魔の赤黒とも違う、何とも不思議な色をしていた。二匹の狂蠍を館入口の柵へ並べて繋ぎ留めると、まるで違う場所で拾った魍魎たちでありながら、不思議と均衡のとれた兄弟のようにも思えた。風魔は入口の階段へ腰を下ろし、声を掛けた。
「今日からここが、お前の家だ。仲良くするのだぞ」
 館の狂蠍は、ぴいと声をあげて鋏を機嫌良く振ったが、黒鉄色の狂蠍はまだよく分からぬという様に、たくさんの目をかわるがわる瞬きさせて、仲間の方へ体を向けた。館の狂蠍がもう一度鳴き、もこもこと歩み寄って身を寄せると、黒鉄色の狂蠍は足を畳んでその場へ伏せ、くたりとなって寝始めた。見つけた時にわるがき共にいじめられていた事を思い出すと、外では休む暇(いとま)もなかったのだなと、風魔はそれを捨て置くこととした。立ち上がり踵を返す間に、寄り添う二色(ふたいろ)の狂蠍の姿がちらと見えた。

 夢を見る。まだ人であった頃の夢を。その輪郭は朧(おぼろ)なりて、もはや何処の何者でありしかも知れぬが、青白き光一筋を覚ゆ。なれど、今この妖かしの身には縁(えにし)なき事なりて、ただ今は惰眠を貪る。遠き夢の果ては、未だ見えじ。



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さて、突然古語調で始まったので、ちょっとびっくりした方もいると思いますが、月風魔伝UMには「古語体の文章」と「平文」がごちゃまぜに存在します。どういう経緯をたどっているか不明ですが、この話では「魍魎になると語彙力が落ちて古語体になる」という前提で話が進んでいるので、まずそこをご了承ください。
で、狂蠍はもともと人だったのが魍魎になるという設定で、なおかつ「つややかな黒鉄の甲殻」「青白き光一筋を覚ゆ」らへんで、この狂蠍が誰なのか気づいた人もいるんじゃないでしょうか。ここで名を挙げてはネタバレ以前に無粋なので、そのあたりはお察しください。
あと、最初の狂蠍がいじめられてるシーンは完全に浦〇太郎ですが、とりたててそれ以外にパロディ要素はないです。狂蠍を飼っている当主という所は前2作とリンクしていますが、他の要素については時系列で繋がっていないので、この作品だけ独立している形になっています。

以上で、3週連続「狂蠍」シリーズを終わらせていただきますが、実はこのほかにもう一作「狂蠍」を題材にした話があるので、それは時期を見てまたアーカイブしたいと思います。お盆の話なので…

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