月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
来週月曜、6/26は月風魔伝発売「予定日」ワンドロが21時より開催となります。
記事を書きにくる都合上、恐らく即日ワンドロの報告とはならず週遅れになると思いますが、ご参加予定の皆さまにおかれましては、よろしくお願いいたします。
さて、今日は力を溜めておく意味も込めまして、アーカイブより『残滓語りて』を引っ張り出してみました。
もうひとつ残るお話は、このタイミングで出すにはアレだったので(小声)
原作でこんな状況はない、半分以上オリジナルの展開(ゆえにネタバレにもならない)ですが、大丈夫な方はどうぞご覧ください。
来週月曜、6/26は月風魔伝発売「予定日」ワンドロが21時より開催となります。
記事を書きにくる都合上、恐らく即日ワンドロの報告とはならず週遅れになると思いますが、ご参加予定の皆さまにおかれましては、よろしくお願いいたします。
さて、今日は力を溜めておく意味も込めまして、アーカイブより『残滓語りて』を引っ張り出してみました。
もうひとつ残るお話は、このタイミングで出すにはアレだったので(小声)
原作でこんな状況はない、半分以上オリジナルの展開(ゆえにネタバレにもならない)ですが、大丈夫な方はどうぞご覧ください。
残滓語りて
大鳥居へ足を踏み入れた瞬間、言い難き寒気が全身を襲い、捩れた空間へ繋がったのだと悟った。果たして、そこは薄暗く寒々しい灰色の岩場であった。私はこの場所を知っている。かつて、二十一代様――月蓮華が囚われていた、寄る辺なき狭間であった。ゆえに、此度もまた囚われた者と会うやもしれぬと、大股の歩みを戦さの足捌きへ変え、用心した。
「あれは!」
だが、倒れている姿かたちを捉えるや、私はそのような警戒心など振り捨てて、無我夢中で駆け出していた。その者をそれと確かめたかった。白銀の髪。私よりひと回りは大きい体。黒い鬼の鎧。何と見まごうはずもなき、兄の姿。
「兄上……!」
二十一代様と違い、兄の体は何の瘴気に毒されている様子もなく、揺り起こすと呻き声とともに眼(まなこ)が開いた。
「うう……ここは」
「寄る辺なき狭間、とでも申したら良いのか……地獄より隔てられた場のようです」
当主として学んだ時も知り得なかった場に、私は困りながらも、適当な名をこの暗がりに与え、今は兄上を、と強く思った。
「兄上、帰りましょう……館へ」
何をか考え館を出たかというのは、私の知り得ぬ所にあった。いや、考えるほどに、兄が勝手に領内を出て行方を眩ましたという事について、さまざまの所以が湧いて溢れた。兄をさしおいて当主となった己、初代より千年後の予言、地獄の魔王の復活、それから――今や、そのすべてを過去とし、兄を無事館へ連れ戻ることこそが、当主としての使命のひとつに思えた。
地獄の元凶を何ともせず戻り、侍女より何と小言を受けることであろう。民や家臣からどのような目で見られることであろう。それでも良かった。当主であればその時を選ばず、冥府を下ることはできる。我が兄はただ一人しかいない。
私が籠手を嵌めた大きな手を取ると、兄はこうと言った。
「そうか……わかった。帰るぞ、風魔よ」
「……」
その手が自然と、結び目を失った縄の如く解けた。兄が先を行ったせいではない。もう一度、よく思い返す。白銀の髪。大柄の体躯。黒い鬼の鎧。
「如何(いかが)した? 先へ行くぞ」
振り向きざま、ぴんと視線が交わった。青い瞳の奥、何かがもやもやと陽炎のように揺らめいた気がして、私は咄嗟に跳び退き、鬼哭刀の柄に手を掛けた。穏やかな熱を帯びた心に、冷たく硬い氷を当てられる心地であった。ああ、地獄はかくも凄絶に、生者を貪欲に食らおうとするものであったか!
「違う」
「何……何が違う?」
「兄上は私を、当主の――『風魔』の名では呼ばぬ。おのれ、何奴! 正体を現せ!!」
認めたくない真(まこと)を突きつければ、己が心も鬼蔦できりきり締め上げられるようであったが、欲に目が眩んで紛い物を手にするよりはと、その鎖さえ歯で食いちぎる心地で、睨む。
「ふ……まんまと化けて地上へあがり、月氏の血を絶やすつもりが、迂闊であった」
兄の姿はみるみるうちに総身闇に染まり、紫色の瘴気を纏った。
「その姿は……!」
「私は地獄に刻み付きし、月嵐童の残滓よ。彼の者の記憶の欠片しか持たぬゆえ、呼び名までは知らなんだ。策を弄するだけの切れ者ではあるようだが」
喋くっている所に不意打ちを仕掛けるも、兄の姿を借りた魔は利き手と膝を少し曲げただけで、降りかかる全身全霊の斬撃を、軽々と打ち払った。剣技は兄のそれと遜色なかったが、兄ではないと知れれば、躊躇うこともない。
「失せよ、偽者!」
叫びながら、もう一度袈裟に斬りかかる。どす黒く長い刀でガチリと受け止められ、力で弾き返される。刀同士では分が悪いと鞘に戻し、仏掌を両手に嵌めたところで、偽物は眼前に仁王立ちのまま、兄の声色でこう語った。
「ほう、私がまがい物と申すか。私は月嵐童の写し、彼の者の存在により生み出されたもの。ゆえに」
「くどい!」
腰を落とし、跳び込んで間合いを一気に詰め、鎧の薄い箇所を狙う。喉元を二、三撃打ちすえたが、左の頬を横薙ぎに蹴りつけられ、私は思わず膝から崩れた。頭を打たれた痛みと、太刀打ちのできぬ口惜しさが纏わりつく瘴気と混ざり合い、むせ返るようであった。攻めるも防ぐもできずへたりこむ私の、頭上から声が降ってきた。
「ゆえに……その揺るがぬ決意と鋭い慧眼に免じて、「其方」に言うておこう。波動に認められし暁、予言成り、道拓く」
はっと顔を上げる。――今この刹那、私の首を斬り落とさんと思えば、た易く成し得たはずであるのに。震えて立ち上がり、横面を殴打せんと右手を伸ばした途端、黒い姿が蜃気楼の如く揺らぎ、かき消えた。私の右拳は虚しく空を切ったのみであった。
寒気とともに、暗い空間は潰したように歪んでゆき、気づけば私は、しんと静まり返った白雪の上に佇んでいるのであった。
+++++
タイトルに「残滓」とあるように、モチーフとしては蓮華の残滓があるのだから、嵐童の残滓もあるだろうという考えの上でできた作品です。というかできればそういうルートもほしかった。
あとは、ニセモノ兄上と弟の風魔という、ちょっと特殊な状況での掛け合いや、私にしては珍しい戦闘風景を楽しんでいただければ。残滓でも兄上がいつもの兄上なのは、拙宅にはよくあることです。
実は提出当初から、そっと加筆修正してあります。一度読んだ方も、もう一度読むと「なんかここ変わってるぞ…?」があるかもしれません。
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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