月ノ下、風ノ調 - 6/26ワンドロライ作品『護るべきもの』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんばんは、九曜です。

6/26に初のMisskey開催となった今年のワンドロライ企画、早速課題などもいくつか見えておりますが、とりあえず作品を提出したり閲覧したりといったことができました。
そのへんは今後の改善の参考にすることとして、今週は主催の作品のアーカイブです。

主催の6/26はワンライ、つまり1時間で文章を仕上げるという形。
このところの作品はほとんど新作風魔伝に偏っており、得意の兄弟愛ネタも使えず、原作風魔伝では実はあまり文章を書いたことがない主催。さて、どうなったのかと申しますと…



月風魔伝祝誕文字書き1h一本勝負
護るべきもの


 魔暦元年、14672年、冬。兄者たちの仇である魔王・龍骨鬼を討ち果たし、統治下の領地へ戻った月風魔は、村々の復興の手伝いをしながら、えも言われぬ不安にかられていた。
 かつて屋敷のあった場所で、焼け残った調度品など掘り起こしていた時、鋼の箱に厳重に納められた「何か」を見つけた。側面の鍵穴に合う鍵は持ち合わせていない。やむなく力でこじ開けると、兆番が壊れ真二つに割れた箱より、古びた綴じ本がばらばらとこぼれ落ちた。土汚れをはらってぱらぱら捲って見ると、いくつかの絵や文字が現れた。
 調度品の整理などそっちのけで読み耽り……たかったが、あいにく、風魔にはその古文書に書きつけられた、いにしえの文字がとんとわからなかった。仕方がないので、絵巻物のように絵だけを追う。何かの巨大な構造物、真黒く歪んだ怪物の姿、枯れた大地に剣を突き立てる、一人の剣士の絵姿。突き立てた剣より伸び出た青白い光の筋に、ふっと思い浮かべたのは、魔の四島から戻りし後に、それぞれの祠へ返した3振りの波動剣であった。
 月一族の家宝である波動剣のことを、兄二人より詳しく伝えられぬまま、先立たれてしまった。その不幸をいくら悔いても仕方ないが、この書にはその手掛かりがあるのだと、風魔は古文書を箱に雑にしまい直して、家臣の一人を呼んだ。まだうら若い家臣は鴻明といい、月氏お抱えの陰陽師の家系であったが、かつて一緒に野を駆け遊んだこともある、気心知れた仲であった。
「お呼びですか」
「こんなものが出てきた。古文書の類のようだが、解読を任せたい」
「どれどれ……?」
 鴻明は綴じ本の表紙の文字を確認すると、丁寧な手つきで次の一枚を捲った。はっと呑みこむ息遣いが聞こえ、続けざまにすぐこう言葉が重ねられた。
「これは、解読に数日かかりそうです。持ち帰ってもよろしいですか?」
「構わないが、何かわかったら報せてくれ。解読が終わったら、そうだな、今建てている蔵ができあがったら、そこに置こうと思う」
「わかりました」
 風魔は鴻明に古文書を預け、再建中の家や蔵、畑の手伝いへ戻っていった。鴻明はその大きな背を見送って、左手に預かった書に、ずしりとした重みを感じていた。
 その晩、鴻明は食事の時間も寝る間も惜しんで、いにしえの文字を読み解き続けた。読めば読むほど、思い描いていた不安が現実のものとなり、終いの一文を解読し終えた頃には、朝焼けの林間に雀がちいちい鳴くのも耳に入らず、文机の前で呆然としていた。
(何たることだ、月一族が地上を統治する所以が、このような事だったとは)
続けて、幼少時の、風魔の兄二人に弟同然に可愛がってもらった記憶が、まざまざと蘇った。彼らを失った今、残る「楔」は風魔だけである。鴻明はこの書の中身を風魔に報せることに、躊躇いを感じ始めた。
(行かせてはならない……何とか、別の手だてを……)
 そのような考えばかりは浮かべども、他に術があるでもない。書を焼き捨ててなかった事にしてしまおうか、などという邪念まで湧きはじめたが、良心の呵責がそれを許さず、鴻明は虚ろな目で文机の上の木目なぞ追いながら、風魔に何をどう伝えるべきか、思案し始めた。
(その霊剣にて千年の封印を施し、邪神を地獄より解き放ってはならぬ、などと!)
 同じ晩、風魔は夢を見ていた。荒涼とした砂地、あの絵巻に描かれていたような場所で、何者かに呼ばれている夢。誘われるがままに歩むと、覗き込めば吸い込まれてしまいそうなほど暗く、深く、禍々しい大穴が眼前に現れた。先ほどまで呼んでいた声が、頭上に降りかかった。
「思い出すのだ、一族の使命を。命をかけ、三振りの波動剣を守ってきた理由を」
 気づけば、腰には一振りへと姿を変じた大念動波剣があり、それを握った瞬間、はたと風魔の頭に閃くものがあった。兄たちが、父が、祖父が、さらにずっとずっと先代の者達が、月一族が護ってきたもの。すべてはこの瞬間のためと、波動剣を地に突き立てる。途端、天地がひっくり返るような眩暈に襲われ、気づいた時には中庭の縁側から転げて、草の地面の上で目を覚ましていた。
 別段、普段より寝相が悪い質(たち)ではない。こんな事があるものだろうかと、もう一度夢の内容を思い返す。そこにぴたりと古文書の挿絵が重なり、風魔の目は一気に冴え渡った。
(このまま安穏と再建をしていても、まことの平和は訪れない)
 朝四時というのに近侍を呼びつけ留守を託し、風魔は疾風のように仮屋を出た。これより一千億光年の彼方を駆けるとも辞さぬ、流星の走りであった。目指すはここより最も遠い……あの日、兄者たちに願いを託され駆けた……波動剣のひとつが納められた、祠であった。


+++++


実際の投稿時には、上のように画像で掲載していました。いつもは一枚にまとめてるんですが、トラブルでそれができなかったため、やむなく名刺メーカーさんのお世話になっています。

いちおう今回もUM単体で提出可としていたのですが、2月にUMのワンドロライをやったばかりだったので、2つの『月風魔伝』を繋げるような作品を目指してみました。龍骨鬼を倒してから、どうして風魔君があんな場所に行くことになったのか、の部分を補完する流れになっています。
当人の口から詳しい事情が聞けなかったので、こういうことが実際起きたのかはわかりませんが、なんかこうなってそうだし…風魔君ならやりかねないし…みたいな感じで仕上げました。

この作品には鴻明が出てきますが、血のつながりのある実子ではなく、幼馴染の仲良しという形で登場します。陰陽師の家系→風魔君ちはそうじゃないだろうし…というところから、「亡き友の志を継いだ」形の二代目だろうと推測して、いわゆる先帝の無念を晴らすスタイルの当主交代を想定しています。ロマサガ2かな…。
本当は解読周りでもっといざこざがある予定だったんですが、執筆時間がなかったので天啓的に知った(あの古文書を目にした時点でそうなる運命だった)ことにして、祠へ向かうところできりよく終わりとした感じです。その段階でお題である「1000億光年の彼方」が入れられそうだったので即興で採用しました。つまり、最初からこのお題で書こうとしたわけではなかったりします(ここだけの話)

今週末7日にはワンドロ発売日編がありますので、参加される皆さまも閲覧される皆さまも、楽しんでいただければと思います。引き続き、どうかよろしくお願いいたします。
主催は半強制的にワンドロの方で参加となります(毎年恒例)

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