月風魔伝その他、考察などの備忘録。
みなさんこんば…こんにちは、こんな時間に九曜です。
今日は海の日なので、海の日らしいことを画策してたんですが、テキスト上では配信もできないし蠍かわいいしか言わないと思われるので、書きました。お話。
タイトル通りのトンチキ話ですが、よろしければお楽しみください。
水着要素とかパレオの蓮華さんとかそういうのはないです。敵を倒す描写はあるので、不得手な方は回れ右でお願いします。
今日は海の日なので、海の日らしいことを画策してたんですが、テキスト上では配信もできないし蠍かわいいしか言わないと思われるので、書きました。お話。
タイトル通りのトンチキ話ですが、よろしければお楽しみください。
水着要素とかパレオの蓮華さんとかそういうのはないです。敵を倒す描写はあるので、不得手な方は回れ右でお願いします。
奈落の海でサーフィンを
長い赤髪を潮風にたなびかせ、奈落の海、荒波の大洞に点在する島の崖際にすっくと立って、大きくうねる海面に鋭く視線を飛ばす男。その顔つきによく似た鬼の顔の鎧に身を包み、首元からは吹き流しのように赤い襟巻が勢いよく靡いている。男は月一族の27代当主であり、月風魔と皆に呼ばれていた。
荒波の大洞は、亡者らの蔓延る地獄のうちやや浅い層に位置するが、打ち付ける波は荒々しく水面は底も見えぬほど暗い、海のようで海ならざる異界である。平時であれば岩場を跳んで渡り、その上を闊歩する亡者たちを手にした得物で薙ぎ倒してゆくのであるが、今の風魔はただひたすらに波を睨めながら「刻」が来るを待っていた。
晴れぬ雨が降り続く地獄の一層であるが、その雨にも強弱があり、波もまたその打ち付けるに合わせて、高からず低からずやってくるといった具合であった。そのうち最も凪いだ時を見計らい踏み入れば、心得のない自分でも波を御(ぎょ)せる気がした。
果たして、ほどなくその瞬間は訪れた。握り締めた拳に力が入る。風魔は用意のできた具足の両足で崖を踏み切り、波間へ跳んだ。どぼんと大きな飛沫があがり、沈みかけた体を何とか岸まで持ちこたえて、岸辺へ這い上がる。失敗であった。
何がどう悪かったかとんとわからぬが、足場の上には亡者などいておちおち考えてもいられぬので、両足裏に荒縄で槍の柄を括り付けた歩きづらい恰好のまま、ばたばたと大鳥居まで引き返す。大鳥居は妖しを出さぬよう封印が施してあるゆえか、近隣で座って悠長に伸びなどしていても、突然襲い掛かられるといったことがなく、何をか作戦を練る時には、風魔はよくこの大鳥居の側に座すのであった。
「古書によれば、この所作で波の上を『滑る』ことができると……」
地獄には書物どころか、端書ひとつ現世より持ち込むことはできないから、腕を組んで必死に頁(ぺーじ)の中身を思い出す。腕を組んだ赤備えの武者が両足で二本の槍に乗り、飛沫を上げて平面の上を疾走する絵姿を。ひょっとしてそれは飛沫と水ではなく土煙と地面だったのでは、などと思い直し、硬い地面の上ならまだしも、踏めば沈む水の上では無理なのやもしれぬ、と一応の結論を出す。
が、二十七代当主月風魔はこれで諦めがつく男ではなかった。いや、平時ならとっくに諦めているかもしれないが、その時はなぜだか諦めようという気になれなかった。波間を漂っている、遺骸の乗った小舟を見て、はたと閃く。戦傘のような形の、水を広く受けられるものに乗れば、思うように波間へ滑り出せるやもしれぬ、と。
亡者を何匹か槍で斬り払い、運よくまろび出た雅傘・詩麻呂を拾うと、風魔は早速、それを逆さまに広げて上へ乗り、奈落の海へと躍り出た。叩けば腰崩れにできるほど重量のある戦傘ながら、うまいこと波をとらまえられ、しかし上に立てばまた沈みかねないと、風魔は膝をついた中腰となり戦傘の細い柄に掴まって、ただ波間に揺られる笹船の心地となった。これではまったく「さーふぃん」ではない。束の間の遊戯を楽しむつもりが、地獄ではかくも苦行になるのかと、風魔は小さくため息を落とした。
戦傘の舟は揺られ揺られて、やがて離れ小島へ漂着した。これ以上無理に漂って、波を被り転覆しては元も子もないと、風魔は諦めそこに降りることとした。足をつくやギャッという悲鳴が聞こえ、何事かと見下ろすと、そこには豆粒のような大きさの何かが、うつ伏せで倒れてぴくぴくと震えていた。人のようにも見えるが、天道虫か芋虫かというほどの大きさのそれは、とても普通の人間とは思い難い。これも地獄の住人なのであろう、と捨て置き進もうとすると、鬼が二匹、どっかと座って髑髏杯で酒を酌み交わし、小さな宴を開いているのに出くわした。
「わはは。豆粒男め、我ら相手に手も足も出まい」
「そうとも。あのようなかよわき者が、わしらにかなうはずもない」
豆粒男とは、先ほど自分が踏みつぶした小さな人間だろうか。どうやらかれはこの鬼たちと、決闘でもするつもりであったらしかった。風魔は月氏当主としての使命を今一度思い出すと、戦傘の雨粒をぱっと払い、鬼どもの前へ進み出た。
「何だ、お前は!!」
「二十七代当主、月風魔」
「わしらに逆らうつもりか、面白い!」
髑髏杯を地面へ叩きつけ、何らかの汁が岩の地面に撒き散らされる。と、いきなり二匹はそこらへ置いていた獄卒の刺柱を取り上げ、風魔の方へぐわと向かって来た。しかしこの程度で怯む風魔ではない、正面の鬼の喉元を正確に雷火筒で撃ち抜き、背後から迫ってきたもう一匹の刺柱を詩麻呂でいなす。よろけた体勢に一発、二発打ち据え、膝崩れとなった身に戦傘の縁(へり)を圧し当てて、回し、鋸のように切り裂く。ばらばらの肉片になった鬼は雨風に飛ばされるがまま、大波の合間にあっけなく消えていった。
最初に火縄で絶命させた鬼の遺骸も蹴落とすと、風魔は近くの岩の裏手に何かが居ることに気づいて、一度畳んだ戦傘を構え直した。が、岩陰から出て来た姿には覚えがあった。
「オオオオ……当主……サマ」
果たしてそれは、月一族に地獄で仕えている絡繰女の一人であった。地獄の悪環境に晒され着物や髪などぼろぼろになっているが、絡繰であるため職務には支障がなく、商店や野営の管理などを任されているものだ。どういう経緯かわからないが、鬼たちに囚われていたのであろう。
「これワ……トテモ……よいモノ……」
その絡繰女が、何やら見慣れぬ道具を手にしているので、風魔はそれを取り上げた。普段なら要求される、対価の金子はいらぬらしかった。武器としては使えない程度の小ぶりな槌であったが、箔を乗せただけのはりぼてではなく、贅沢にも純金でできているであろうことが、ずしりとした重さでわかった。さりとて素材でも武器でもないこの無用の長物を、当主としてどう活かすか……悩み始めた風魔の、槌を持った右手に絡繰女はそっと冷たい手を添えて、何やらモゴモゴと口を動かし始めた。
「オオ……ク……レ……オオ……ナア……」
地獄の絡繰女は、言語野がよく壊れるのか、時折不可解な声を発する。何かの童歌でも歌っているのか、と勘繰った時だった。視界が高く上へ持ち上がり、絡繰女の姿が小さくなる。立っていた島ががらがら崩れ、ざぶざぶとした波に飲まれた足が、しっかりと水底に着く。がんっ、と後ろ頭が何かに衝突し、目の前に火花が散ると、ほどなくそれはおさまった。振り向けば地獄の天井より下がった鍾乳石が、ひとつ欠けて砕け落ちたらしかった。
天井?と恐る恐るあたりを見回せば、ひと跨ぎで歩ける場所に、まるで細工物のように縮んだ大鳥居があった。いや、大鳥居が縮んでいるのではなく、己があり得ぬほど大きくなったのだ。先ほどの豆粒男を思い描き、恐怖する。甲斐なく魑魅魍魎になってしまったのかと、月氏の使命を胸中に復唱してみるが、どうも突然正気を失ったわけではないらしかった。なればせめてもと、三、四跨ぎで大洞の最奥の鳥居に近づき、膝を衝いて腕だけを鳥居の前へ突き出して、そこから先への転移を試みる。意外にもあっけなく転移は成功し、見覚えのある足場が現れた。
一歩進むや、渡してある橋が激流に沈み、そこに棲まう五頭龍が姿を現す。が、かつて見た時のような、前後左右に大きく広げられたいくつもの頭による威圧感はない。天を突く大男となった今の風魔にとって、五頭龍の大きさはさながら、葉を広げた低い草木(そうもく)ほどであった。勢いよく吐き出される水砲も、竹でできた水鉄砲が当たった程度の可愛いものだ。
五頭龍の体を鷲掴みにする。慌てた五頭龍が、大きな手の中から逃れようとじたばたもがいているのを見て、童子の頃にそこらの岩場で、やもりを捕まえたことを思い出す。このような相手に武器など要らぬ、首の数本でも引きちぎろうか考えたが、童子の純粋さを失った今ではどうにも躊躇われる。ひとまず手の内より逃がし、何度か吐かれる玉や湧き立つ水柱に平然としていると、五頭龍の方が敵わぬと知ったのか、ずざざと水を引き連れ波間へ消えてしまった。そうかこの手が、と先の大鳥居から進もうとした時、視界が白んだ。
次に見た景色は木目の天井であった。地獄より還りし時は座しているはずが、当主の間でいつの間にか仰向けに寝そべって、当主らしからず大の字となっているのであった。
夢を見ていたか、と起き上がり、鎧の土埃を払う。あれほどの戯れに挑み続けた己の心根も、思い返せば薄ら残るほどの冷たさ痛みも、遠く異界の虚ろな出来事のように思えてきて、戻り来るやさしい虫の音に寄り添うように、心の内が安堵で溢れかえった。
灯火はすっかり燃え尽きているし、油をもらうがてら気を正す茶でも立てようと、屋敷前に佇む侍女を呼びつけに行った風魔の後に、根付ほどのちいさな小槌が転がり残されていたことを、誰も知らない。
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