月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
膨大な量のふせったーログを整頓中ですが、あまりに終わりが見えないため、今週のブログは過去作アーカイブとなります。それも、久しぶりにオレカバトルの過去作を引っ張り出してきました。
今回は「ジークと零の二人旅編」より、『傷つけるもの、救うもの』というお話です。
本当は別の話をアーカイブにしたかったんですが、この話を起点にした派生の話だったため、先にこちらをアーカイブすることにしました。
久しぶりに再会する二人。新しい武器を得たジークに、なぜだか胸騒ぎを覚える零。気がかりになって戦いに同行してみるも…という感じのお話です。
流血表現やら戦闘描写やら、なんだかいろいろあります。R指定にかかる腐向け表現はたぶんないです。深読みしたらあるかもしれない。
大丈夫な方は続きからどうぞ。
膨大な量のふせったーログを整頓中ですが、あまりに終わりが見えないため、今週のブログは過去作アーカイブとなります。それも、久しぶりにオレカバトルの過去作を引っ張り出してきました。
今回は「ジークと零の二人旅編」より、『傷つけるもの、救うもの』というお話です。
本当は別の話をアーカイブにしたかったんですが、この話を起点にした派生の話だったため、先にこちらをアーカイブすることにしました。
久しぶりに再会する二人。新しい武器を得たジークに、なぜだか胸騒ぎを覚える零。気がかりになって戦いに同行してみるも…という感じのお話です。
流血表現やら戦闘描写やら、なんだかいろいろあります。R指定にかかる腐向け表現はたぶんないです。深読みしたらあるかもしれない。
大丈夫な方は続きからどうぞ。
傷つけるもの、救うもの
里から情報収集の命を受けた零は、王国近辺のとある町に来ていた。
任務とは言え、激しい戦いの絡むものでもなく、外の空気を吸えるとなれば少しは気楽なものだ。
道端での聞き込みを終え、休むため入った店に、見覚えのある男がやってきた。
全身を包む白い衣。腰に差した双剣。チェーンメイル。覆面で隠れた口元。
あいにくの満席で出ようとしたところを、零は呼び止める。
「待て、お前……ジークじゃないか」
「……零?」
* * *
「へえ。里に戻ってからも、色々あったんだな」
「まあ、な」
目の前で一口大のチキンを頬張る姿を見ながら、零は頬を緩める。
職業柄、衝立のある仕切られた空間を選んだものの、席につく前にジークを見つけられてよかったと思う。
ジークとは過日、王国から西の砂漠まで旅をした仲だった。最初のうちこそギクシャクしていたが、別れる頃には惜しんだものだ。
ジークは相変わらず自由人として生きているらしいが、少し落ち着いた雰囲気になっただろうかと、零は感じる。
昔のはしゃぐような口ぶりが影を潜めているのも、何かしらの経験を積んだからだろう。
箸で小鉢の豆をつまみ上げて頬張りながら、以前よりは話題の増えた身の上話に花も咲く。
「そういえばジーク……その剣は……?」
「あぁ、これか? どうしても欲しくてな、手に入れたんだ」
ジークの腰に提げた武器が、過日のものと違うことに零は首を傾げた。
すると、すらりとジークがそれを抜いて見せびらかす。何もこんな所で、と言いかけたが、その言葉は失われた。
個室の電灯の光を受けて輝く刃は黒く、とても普通の鋼鉄には見えない。映り込む自分の顔が暗く見え、なぜだかぞっとする。
黒曜石か何かでできているのだろうか……しかし、それだけでは説明できない『何か』が、刀身から滲み出ているような気がした。
「凄いだろ? 今度戦う時に、切れ味見せてやるよ」
嬉しそうな目をするジークに、零は黙って目を細め、温くなった煎茶を啜った。
昼食を済ませた零は、ジークの『狩り』に付き合うことにした。
相変わらず賞金暮らしを続けているらしいジークは、昨日たまたま害獣討伐の依頼を受けたばかりで、腹ごしらえの後に行く予定だったという。
先の話もあって同行に誘われた零は、四の五の言わず承諾した。
切れ味を見たいわけではない。妙な胸騒ぎのせいだ。
あの黒い刃から発せられる、瘴気にも似たものは何なのだろう?
何も起きなければ良いが――ざわつく空気を振り切り、零は白いマントの背中を追い掛けた。
* * *
「ぐっ……!」
「大丈夫か!」
突進され、鋭利な角で傷ついた左腕を押さえるジークに、声を掛ける。
ジークの俊足でも、風のように大地を駆る魔獣クイックシルバーの動きには追い付けていなかった。
零も加勢してはいるが、打たれ強いらしく、なかなか仕留めることができない。
旋回をし、再び突進してくる魔獣を、零もジークも寸でのところで避ける。
『……殺してやる……』
やがて業を煮やしたジークの口から、そんな言葉が呟かれたことに、零が耳を疑う。
その目は大きく見開かれ、眼前の走り回る敵を見据えている。
怒りというよりは、何の感情も含まないような、そんな冷徹な眼差し――
瞬間、ジークの姿が消えた。相手の背後に突如現れ、鮮やかに斬りつけるアサシンエッジ。
それが的確に急所を切り裂き、魔獣は絶命する。
肩で息をついているジークに、零ははっとして駆け寄った。
「ジーク……一体、どうしたんだ。今日のお前は、いつもと違う気がする」
「え?」
「何と言っていいかわからないが……いつもより気が立っているような……」
予想がついているとはいえ、いきなり武器を取り上げるのは賢明ではないだろう。とにかくこの場をおさめて、武器を仕舞わせるのが先だ。
だがその零の対処は、予想外の展開を招いた。
「いつもより、気が立って……どういう意味だ……お前も死にたいか?』
今度は、疑う余地もなかった。ジークは狂っている。
覆面越しにあれほどわかりやすかったジークの表情が、今は何も読み取れない。
その瞳は冷たく光り、あの時魔獣を見ていたように、こちらを見つめている。
「ま、待てッ。ジーク、今、自分が何を言っているのか――」
『関係ねえ。殺す』
その瞬間。ジークの周りがどす黒い旋風で覆われ、零がその風圧で弾き飛ばされる。
風がやんだ後、そこに立っているジークの衣は、漆黒に染まっていた。
* * *
「ジーク! 話を聞け!」
『……』
殺そうと向かってくるジークに、零は手を焼いていた。
手加減をしていれば刺されるし、かと言って全力で急所を突くわけにもいかない。
ジークの手に持つ黒い双刃が、妖しく輝く。やはり元凶は、この禍々しい光を宿す武器なのだろう。
取り上げておくべきだったと唇を噛みつつ、零は一遍の望みを見出す。
「はああッ!!」
ジークの胴ではなく、腕を。
手足はよく動く部位であるから、狙うのは難しいが、自分の人並み外れた動体視力と、忍びとしての経験に頼るほかない。
振り下ろした備前長船の峰が、的確にジークの左手甲を打ちすえる。
手から落ちた黒光りの武器は素早く蹴り払い、ジークの手の届かぬところへ飛ばす。
双剣の利点は、片方の武器に相手が気を取られれば、もう片方の武器がその隙を突けるということだ。
ジークの右手に残ったもうひとつの剣は、零の左肩にざっくりと突き刺さっていた。
「が……っ」
痛みに顔を歪める零と対照的に、満足そうに目を細めるジーク。
咄嗟に蹴ってジークを突き放し、破壊され防具の意味を為さなくなった肩当てを剥ぎ取って、首巻きで左肩を素早く縛り止血する。
鮮やかな赤の首巻は、巻き付けた箇所だけがみるみるうちに、赤黒く染まった。
『ウオオォォオオオ!!』
なおも右手に残る剣で斬りかかってくるジークに、再び同じ手法で武器を奪おうと試みる。
だが、左手の自由がきかなくなった今では、避けるだけで精一杯だ。
胸当てや肩当てにいくつもの傷がつき、体力だけがただ消耗されてゆく。いつ心臓に刃が突き立ってもおかしくないぐらいだ。
頬を掠めた切っ先に死を覚悟した瞬間、零は賭けに出た。
備前長船を投げ捨て、伸ばしたジークの右手を掴み、上方へ捩り上げる。普段曲げない方向に腕を捻るその痛みで、ジークの右手から剣が滑り落ちた。
今だと言わんばかりに零は全体重をかけ、ジークを地面へうつ伏せに組み倒す。
これで、ジークから武器を奪うことには成功した。だが、自分も決め手となる刀を手放している。
自分の予見が外れていれば……こちらの体力が尽きるとともにジークは再び自由を得、拾い直した凶刃で、鬱陶しい存在を貫くことだろう。
『ふざけるな! 殺してやる! 離せ!』
力一杯押さえつけてはいるが、左肩が脈打つほどに痛み、意識が飛びかける。
しかし、この手を離すわけにはゆかない。根競べのような状況が続いた。
しばらくジークは暴言を吐きながら暴れていたが、やがてその動きがぴたりと止まる。
黒に染まっていたマントやターバンがまるで、白浜から波が引くように、サアッと白い色に戻った。
『離せ離せ! 離……いたたたた!! 痛ってぇよ! おい零、何やって……あれ?」
ジークの声の高さが、かつてのそれに戻ったのを聞いて、急に周囲の音がすべて遠ざかる。
拘束されていたジークの右手が自由になるのと同時に、零は精も根も尽き果て、糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
自分の名を呼ぶ友の声が、はるか彼方で聞こえた気がした。
* * *
身を起こした零は、見慣れぬ景色に首を傾げた。
赤い空に黒い山々、焼けるような不快な匂いと、粗い砂利の地面。あちこちで白い煙があがり、まるで温泉地か何かのようだ。
こんな所に来た覚えはない。そもそも、先ほどまで一緒にいたはずの、ジークは何処へ?
よくよく確かめれば、自分はいつもの忍装束すら着ていなかった。
何の染めも施されていない木綿の、内掛けのような着物だ。それも、合わせが逆で左が前になっている。
誰がこんな不吉なものを……と思い、腰帯を解き、合わせを右前に戻す。その腰帯も、寝間着に使うような粗末なものだ。
覆面もなく、口元が寂しいのが気になって仕方ないが、それにかまけているような状況でもなさそうだ。
立ちあがると、何も履いていない足の裏が熱い。
この辺り一帯の地面が熱いのだろうと考える。それでも、歩かないことには先へ進めない。
熱さや砂利の痛みを堪えて歩くと、川が見えた。このような場所でありながら不思議と、それは冷たいもののように思えた。
火照った足を冷ますため、川に踏み入ろうとすると突然、何かに襟首を掴まれた。
「っ!?」
振り返ると、その襟首を掴んでいたのは他でもない。白いマントとターバンを身につけ、覆面をした――
* * *
「零! 零っ!!」
瞬きをした瞬間、それまでの景色も匂いも感覚も、すべてがそこで断ち切られたように消えた。
木の天井と窓から差し込む淡い光、洗いたての布の香、柔らかなその手触り。
そして――心配そうにこちらを覗き込む、緑の瞳。
「……おれは」
「良かった!! 零~っ!!」
嗚咽を漏らしながら、ジークは零の胸元に縋る。
左肩に鈍痛があり、身を起こすことはできない。その代わり、零は子供っぽく大仰にびーびー泣く彼を宥めるように、右手でジークの頭をそっと撫でた。
ふーっ、と長く息をつく。自分が確かに生きていると、実感できる。
見回した景色から、ここはどこかの診療所の個室であり、そこに運び込まれたのだと知った。
寝間着に着替えられている他、一度解かれたであろう覆面が少し緩いが、ジーク以外の者が寝床に入ってくる可能性も考えたら、不器用に巻き直してくれただけでもありがたかった。
「ホントさ、気づいたら零、血まみれで倒れてて、何が起きたか全然覚えてなくって、でもこのままじゃ、零が死んじまうーって……」
さまざまな混乱の中、言葉を選びきれてない今のジーク相手に、こちらも起き抜けの頭では返せそうな言葉が見つからない。
零は黙ったまま、ターバン越しにその頭を撫でつける。少なくとも、死にかけの俺を救ってくれて感謝しているのだ――そう告げるように。
「だからさ、助かってよかったよ……零……」
嗚咽まじりの声がゆるやかに遠のく。だが、今度は何の心配もなく、この寝床の上に戻ってくることができるだろう――零は安心して、瞼を閉じた。
あの禍々しい武器がどうなったのかは、傷が癒えたら尋ねてみよう。それまでは、おやすみ。
窓から入ってくる風が、二人の長い前髪をちいさく揺らした。
+++++
Web用の作品なので文体などが字下げなしになっていますが、この作品、執筆時から地味に加筆修正してあります。加筆修正前はちょっとアレだったのでアレ成分が減りました。
ここから派生する作品が3つぐらいあった気がするので、そちらも順次アーカイブしていこうと思います。
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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