月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんばんは、九曜です。
先週突然オレカのアーカイブを再開しましたが、今回の作品が本命です。
先の作品から続く話で、夏にぴったりの怖い話枠、のつもりです。そのつもりなんです。
ただこの作品、若干最後の方に距離の近いのが発生するので、大丈夫な方だけご覧ください。カゲキな表現はたぶんないです。
先週突然オレカのアーカイブを再開しましたが、今回の作品が本命です。
先の作品から続く話で、夏にぴったりの怖い話枠、のつもりです。そのつもりなんです。
ただこの作品、若干最後の方に距離の近いのが発生するので、大丈夫な方だけご覧ください。カゲキな表現はたぶんないです。
選択
それは、きっと夢だったんだろう。
俺は部屋に立っていた。そこがどこかはわからなかったけど。
ただ白い壁に閉ざされた小さな空間は、部屋、としか言いようがなかった。
目の前には、壁の色が白いせいで嫌でも目立つ、黒いドアがあった。
腰の高さに出っ張ったノブが付いていたから、ドアだと思って引いてみたけど、開かない。ならばと押してみても、やっぱり開かない。まるで、ドアノブがつけられただけの壁のようだ。
ドアノブを回す音だけが、殺風景な部屋にむなしく響く。
そのうちに、どこからか、声がした。
「右の窓と左の窓。好きな方を選べ」
驚いて左右を見ると、さっきまでは確かになかったのに、いつの間にかそこには窓が現れていた。
どういう造りなのか、窓枠はなくて、ただ壁にガラスがはまっているといった感じだ。
右の窓には、豊かな自然と長閑な日差し、飛ぶ鳥や地をゆく生き物などが見える。
左の窓には、濁った毒の沼地と禍々しい色の空、そこを歩くゾンビの群れがあった。
常識で考えて、左を選ぶ奴などいないだろう。右だと答えを返した。
「よかろう」
これでドアが開くのか、と思ったが、そうではないらしい。
意気揚々と回したドアノブは、やはりガチャガチャと音を立てるばかりだ。
諦めて、窓の様子でも見るかと右を向くと、そこにさっきまでの景色はなかった。
空に真っ黒なものが現れ、木を、鳥を、獣を根こそぎ吸い込んでゆく。
暴風でも吹いているような光景なのに、不思議なことに、窓のガラスはカタリとすら音を立てない。
草の生い茂っていた地面が剥がれて、その下の岩肌がむき出しになる。
空の青さすらその暗黒は吸い込んで、窓の外は真の闇に包まれた。
(選べ、って、そういうことかよ)
わかっていたら、左の窓を選んだだろうと、俺は惨めな気持ちになった。
左の窓には何も起きないまま、ただ次第に日暮れのように暗くなってゆき、やがて向こうの様子は完全に見えなくなった。
再び、声がした。
「右の窓と左の窓。好きな方を選べ」
同じ轍は二度も踏まないぞと、俺は明るくなった左右の窓を見た。
右の窓には、大海原を進む客船が見える。
左の窓には、同じような船があったけど、見た目から海賊船だとわかる。
ふつうの船と、悪党を乗せた船。これなら、答えは明白だ。
左だと答えて、不思議な声を待つ。
「よかろう」
その声とともに、左の窓の向こうでは、海に大渦が現れた。
海賊船は渦に呑まれて真っ二つに裂け、見るも無残な姿で沈んでいった。
道理にかなったことだ、とは思うものの、見ていて気分のいいものじゃない。
開けようとしたドアは、相変わらずかたく閉ざされていた。
まだ選べってのか、シュミの悪い部屋だ、とひとりごちる。
自分の選んだ景色が崩壊する――そんな感じの空間なんだろう、ということは理解できた。
悪態をつきながら、俺は次の『質問』を待った。
「右の窓と左の窓。好きな方を選べ」
窓の外に現れたものに、俺は初めて腕組みをして、考えざるを得なかった。
右の窓には、幸せいっぱいの家族の姿。
左の窓には、ぼろを着た乞食の一家。
先のように常識で考えて、というわけにはいかない。
路銀を使い果たし、乞食寸前の状態も経験したことがあるから、なおさらだ。
幸せそうな家族を壊す気にはなれないし、乞食にこれ以上の不幸を背負わせるのも酷だ。
ただ、選ばないことには、ここから出られそうにはない。
迷った末に「乞食は生きてても楽しくない、死ぬ方がましだと思うこともあるだろう」という、えらく自分勝手な考えで、左だと答えを出した。
左の窓の向こうから、幼い叫びが聞こえた。
見れば、乞食の子の胸にはナイフが刺さっている。刺したのは、これまたみすぼらしい男だった。
乞食の親らしき人らに向かい、お前ら家族のせいで俺の食い扶持が減る、とか何とか文句をつけている。
俺は思わず、窓に張り付いて固唾をのんだ。
みすぼらしい男は、子の胸からナイフを抜き取り、鬼のような形相で振り回した。
そのまま乞食の両親を斬り殺し、死体の身に着けていたぼろ布すらはぎ取って、どこかへと去って行った。
暗く溶けてゆく惨劇の痕を見て、窓に両手をバン、と思いきり叩きつける。
透明で薄そうな窓なのに、俺が力を込めて叩いても割れやしない。
どうして、こんな選択をしなきゃいけないんだ?
次の問いかけが恐くて、ドアノブを必死に回したけど、やっぱり戸は開いてくれなかった。
諦めて部屋の中央に戻り、あぐらをかいて座り込む。
こうなれば、何を見せられようと、出られるまで根気よく答えるしかない。
頭上から、声が降ってくる。
「右の窓と左の窓。そして、扉の先。好きなものを選べ」
『質問』が変わったことで、これが最後だろうと直感した。
扉の先、というのが気になるが、まずは窓の向こうを見てからだ。
そこに現れた人を見て、俺は目を疑った。
右の窓には、生き別れた親友が。
左の窓には――零が。
そんなはずはない、ありえない、と頭の中で繰り返した。
右の窓の向こうでは、親友が机に向かって、何やら書き物をしている。
誰かへの手紙らしいが、きっとそれは自分宛てのものなんだろう。
ペンを走らせながら、顔は穏やかに微笑んでいた。
左の窓の向こうでは、零がどこかの天井裏で、腕を組んで腰を下ろしている。
何かをやってる風ではなかったから、任務の合間の小休止といったところだ。
長く旅をしてきた仲だったけど、任務をこなしている姿を見るのは初めてで、鋭い目つきに真面目な零の性格がよく映し出されてた。
(どっちに、絶望してもらえっていうんだ?)
そういえば、不思議な声が言っていた選択肢は三つあった。
右の窓、左の窓。そして、扉の先。
左右の窓が選べない以上、残された道はひとつだ。
俺は意を決して、ドアノブをつかんで回した。今度は手ごたえがあった。
扉の向こうは、今いる白い部屋よりも少し薄暗いようで、警戒しながらそろそろと戸を押す。
視界には、何もなかった。
平たく続く灰色の空間に、拍子抜けしながら戸を閉める……。
「待ってたぜ?」
声をかけられて、驚いた。
いつの間にかそこに立っていた人物は、俺、だったからだ。
ただ、服や鎧は真っ黒で、ぽつんと浮かんだ瞳が不気味なほど無表情で。
驚いて何か話しかけようとしたけど、それよりも早く、黒い覆面の奥の口が動いた。
「じゃあ、もう寝な」
丸い瞳が禍々しく歪んだのと同時に、その顔が視界の外へ吹っ飛んでいった。
何が起きたかわからず、きょろきょろと見まわそうとしたが、できない。
俺は倒れたらしかったが、その視界に違和感があった。何かが、おかしい。
(俺の、体?)
地面を伝う視線の向こうに、首を失って血を噴いている、見慣れた衣装を着た体があった。
ぴくりとも動かない手足。血溜まりを吸って、赤黒く染まり始めた白のマント。
口から出るのはゼーヒューという息ばかりで、声もあげられなかった。
(これって、俺、首を、はねら、れ、て)
そこで俺の記憶は途切れてる。
***
「……」
「おいおい、何そんな深刻そうなツラしてんだよ。話、終わったぜ?」
語り仕舞いとなり、喉を潤すためアイス・コーヒーに手を伸ばすジークとは対照的に、零は置いた自分の茶に口もつけず、ただ目をしばたいてジークの方を見ていた。
図々しくも零のベッドに腰かけているジークが、隣に座る零の顔をわざとらしく覗き込むが、その表情はやはり冴えないままだ。
そこは借りた宿の一室で、外はもうだいぶ暗く、開けた窓から生ぬるい夜風が吹き込んでくる。
暑さしのぎの怪奇譚でも、と洒落込むことに決めてから、まだ一時間も過ぎていなかった。
こういった類の話は、二人の間ではあまりしたことがない。どこか新鮮な気持ちで、零は脅かし程度の鬼火の話をした。
しかしまさか、ジークからこのような「本気の返礼」をされるとは、思ってもいなかった。
「いや……もっとこう、軽い感じのものだとばかり」
「怖い話って言われたから、頑張って思い出したのに。そりゃないぜ」
「……しかしな……」
ただ、零が驚き固まっている理由は、そればかりではない。零には、心当たりがあった。
ジークが会ったというもう一人の自分――黒い衣を着たジークは、過日、呪われた武器に突き動かされ、零に襲い掛かってきた、あのジークなのではないか?
零は、黒い凶刃に貫かれ瀕死のところを、ようやく正気に戻った同じジークによって、救われていた。
結局、あの武器のことも、あの日何が起きたかの仔細も、ジークには問えなかった。当のジークも、当時の状況は覚えていないようだった。
何があったとしても、ふたり助かったからいいのだ、と呑み込んでいたのに、掘り返した記憶の底に「あの」ジークが垣間見えて、零は体をぶるりと震わせる。
「いいじゃん、夢だったんだからさ。零だって夢じゃ死ななかったし」
夢。
本来ならば自身を納得させるべきその言葉が、今の零にはひどく疑わしい、重いものに感じられた。
夢は記憶の整理や、内なる感情を呼び起こすために見るものだ、と聞いたことがある。
ジークの奥底に、あの黒衣の狂気が眠っていると考えるのは、おぞましかった。
「あれ、怖いの? 零、ビビりだなぁ」
黙りこくっていると、ジークは零の方をじろじろを眺め回して、茶化すように呼びかけた。
いつもなら反論もできようが、喉の奥で引っ掛かったまま出てこない言葉に、ため息を漏らす。
その時ふと、視界の正面が白く染まった。
目元の肌に触れるやわらかな感触から、それがジークの、襟元の布であると知る。
何事かと目をしばたいて黙っていると、頭上からこんな声が降ってきた。
「……なんだよー。しょうがねえな、今日は俺様が添い寝してやるから。大丈夫だって、怖くない怖くない」
まるで赤ん坊でもあやすようにむぎゅっと抱き込まれ、背中をよしよしと撫でられる。
勘違いされたことに閉口したくなる気持ちよりも、目の前の男が確かにあたたかな存在である安堵の方が強くて、零は瞼を落とした。
そして、心深く祈った。願わくばジークが再び、闇の扉を選択することのないように、と。
++++++++++
なんかこう、昔どこかで聞いた怪談をアレンジした感じのお話です。
私の悪い癖というか、直近で書いた話につなげてしまったので、両方読まないとどういうこと?になるのですが、わかっていればなんとなーく、ぼんやりと、状況が飲めると思われます。
距離が近いのは生産ラインの都合です(小声)
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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