月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
お盆の季節はすっかり終わりましたが、昔書いた作品を見返していたらどうしてもUMの月兄弟で書きたくなり、急遽筆をとりました。
そんなわけで本日は、ブログ書きおろしの作品『迎え火』です。
本編のネタバレをまあまあ含みますので、UMクリアがまだの人は先に本編を遊んでからをおすすめします。
お盆の季節はすっかり終わりましたが、昔書いた作品を見返していたらどうしてもUMの月兄弟で書きたくなり、急遽筆をとりました。
そんなわけで本日は、ブログ書きおろしの作品『迎え火』です。
本編のネタバレをまあまあ含みますので、UMクリアがまだの人は先に本編を遊んでからをおすすめします。
迎え火
盆の時節。死者が冥界より戻ってくるとされる、まだ薄明るい月夜の晩。かれらが迷わず家族や親類の元へ戻れるように「迎え火」を焚く。
この慣習を知ったのは、ずいぶん幼い頃だったように思う。元より地獄に縁遠からぬ月氏一族に生まれた身、まだ背丈が大人の腰ほどにもならぬ頃から、精霊馬をこさえたり、菰を敷いたり、子どもなりにやれる手伝いをしたものだ。その締めくくりはいつも「迎え火」とともに行われる花火で、戎具でない遊戯用の火薬玉に火を点けて投げ上げ、宙空を彩る大きな火輪に喜んだものであった。ゆえに「迎え火」を見た所で、花火ができるぞという気持ちにしかならなかったものであるが。
「兄上」
呟く声にぱちっ、と火の粉の爆ぜる音が応じた。あの頃の花火ほどでないが、暗闇に散る鮮やかな光は、それにも似た刹那の美しさがあった。
兄上は、名を月嵐童という。りっぱな人だった、とかえすがえす思う。時にすぐれた剣の師であり、時に頼れる人生の先達であり、何より、誰よりも信の置ける兄であった。その弟であった事を、私は今でも変わらず、誇りに思っている。
だが……今となってはもはや、遠い存在だ。
夜風に揺らぐ炎の、ちろちろとたなびく様を見つめ、着流しの袖を膝上にたくり上げながら、短くため息を漏らす。
月氏の屋敷は民家などとは遠く離れた、かつて狂鬼島と呼ばれた島の中ほどに位置し、すぐ傍に地獄の大穴が口を開けている。もっともこの春、その元凶を完全に打ち倒したことで瘴気は弱まり、鳥居の奥に見える忌地の風景も、朝靄さながら薄ぼけてきた。もうすぐ完全に、地上と地獄の繋がりは途絶えてしまうことだろう。地上と地獄が分かたれてしまえば、盆の時節、死者が生者の元にやってくるなどということも、できなくなるだろうか。
景色はだんだん夜に溶け、ただ自分のいる周りと「迎え火」だけが、煌々と明るかった。
ふと、後ろに気配を感じた。魍魎ではない、絡繰女の侍女でもない、懐かしい足取り。振り向いて、見上げる。黒い鬼の顔の鎧と、長く垂らした直垂に覚えがあった。
「何をしているのだ」
ああ、戻ってこられたのだな、どこか遠いところから。そう感じて、私は朗らかな気分を取り戻し、語った。
「迎え火を焚いているのです。昔、花火なぞしたことを思い出しながら」
「そうか。其方は昔から、二尺玉が好きであったからな」
それまでりんりんと鳴いていた虫の声が、いつの間にかすっかり静まって、満月さえもいっとき雲に隠れたような、闇があった。「迎え火」の傍でしゃがんでいる自分と、立っている兄上だけが、塗りつぶされた暗闇の中で、ただ在ったようにも思う。
隣に寄り添うように、片膝をついてしゃがんだ兄上を見る。眉間に深い皺をいつも刻んでいる顔が、心なしか穏やかに見える。いつぶりだろう、もう何年も会っていないような気がして、胸の内など一杯になりながらも、ふとひとつの問いが心を掠めた。
「あの、兄上」
「何だ」
聞くのであれば今しかない、と思い、震えながら次の句を紡ぐ。
「私は……立派な当主、なのでしょうか」
ああ、このような事を兄上に聞いたのでは、もう既に当主失格だと、心がひっくり返される。誰より認めて欲しかった兄上を差し置いて、当主となりし身でありながら、さらに認めてもらおう、などと。
一度に気まずくなって俯く私に、返されたのは大きな掌が、頭をぽんとたたく感触であった。驚いて上げた顔の、頬にはいつの間に涙が伝っていた。
「勿論だ。私は誰より、何よりも其方を誇りに思っている。当主は一人では成り立たぬ。侍女を、家臣を、時には民を頼り、国を守る。それができる其方ならば、きっと」
その先は皆まで聴けなかった。言葉を噛み砕いている途中、涙はあとからあとから溢れ、袖をしとどに濡らしてもなお、感極まったこころは高ぶり、震え、締め付けられる苦しさの内に、熱い何かが湧き出る心地であった。
泣き腫らした顔では格好がつかぬと、ぐいと目元を拭って、立ち上がった兄の顔を見上げた。見下ろす淡い眼は雷光でも鬼神でもなく、何より、誰よりも信の置ける兄上であった。
「そろそろ行くか」
足元の「迎え火」は大半が炭となり、所々がじりじりと赤く熱だけを帯びて、炎はすっかり鎮まっていた。もうそんな時間か、見送らねばと、立ち上がる。
「兄上、お元気で」
返事はかえらない。ただ、少しずつ遠ざかる足音と、ゆっくり小さくなってゆく背中を眺め、それが闇に溶けたかと思うと、ぱっと頭上に光が湧いた。雲より出づる満月を眺めていると、虫の声も少しずつ戻ってきた。
もう花火で遊ぶような年頃ではない。来年かその先にも、ここではなく村で「迎え火」をたいて、童子もまじえて、皆で花火でも眺めようではないか……片付けを明日へ先やり、屋敷の敷居を跨いだ瞬間、冷水を浴びた心地がした。
「……兄上は」
急いで門外まで飛び出し、草履履きの早足で、周りを探し歩いてみる。まだ立ち去って半刻さえ経っていないというのに、どこをどう探しても、あの懐かしい姿にはついぞ逢えずじまいであった。甲斐なく屋敷の前までとぼとぼ戻ってくると、くすぶる最後の焔が消えた「迎え火」があった。
「死者が……迷わず、来られるように」
確かめるようにそう呟いて、私は今度こそ休むために、屋敷の門を潜り抜けた。
+++++
この作品、実は別のジャンルで『迎え火』という作品を書いてたものを、おんなじ題材でUMで書いたものだったりします。別のジャンルのほうの『迎え火』もいい感じに書けたのですが、手直ししなきゃ出せないのでここであえてジャンル跨ぎリメイクという手段に出ました。
拙宅の27代君と兄上は相変わらず仲の良い兄弟なので、そういう前提で話が進みます。あと、当主として必要なことを兄上が悟っている部分があるので、恐らくこの兄上は地獄でなくちゃんと天国へ行ったのだと思われます。よかったよかっ…た…?
来年も27代君におかれましては、迎え火焚いて兄上と思い出話してほしいです。できれば毎年。そんな話も、いつか書いてみたいですね。
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