月風魔伝その他、考察などの備忘録。
みなさまこんばんは、九曜です。
長らくお待ちの方がいらっしゃるかはわからないのですが、今日はこのお話の続きとなります。
【オレカ二次創作】大泥棒と銀の竜
盗賊ユライとシルバードラゴンのこのお話、私にしてはかなり救いのない形で終わっているのですが、実は続きがあったのです。
前作を未見の方は、ぜひ合わせてお楽しみください(まえがきはよんでね)
今作は前作から続いている流れで話がスタートします。
長らくお待ちの方がいらっしゃるかはわからないのですが、今日はこのお話の続きとなります。
【オレカ二次創作】大泥棒と銀の竜
盗賊ユライとシルバードラゴンのこのお話、私にしてはかなり救いのない形で終わっているのですが、実は続きがあったのです。
前作を未見の方は、ぜひ合わせてお楽しみください(まえがきはよんでね)
今作は前作から続いている流れで話がスタートします。
青い空、ちぎれ雲、人の溢れるバビロア王国の街路。
路地の入口に佇む自分の足は、なぜだか鉛のように重たくて、立ったままその場から動けずにいた。
道往く人は皆、素通りしてゆくし、たまにこっちに気付いても、ぎょっとした顔になって立ち去られる。
断頭台に上って、意識が途切れた後、気が付いたらここにいた。
ということは、オイラはもう死んでいるんだろう。
そう自覚しているのに、この国に思い入れなんてないのに。どうしてここにいるのかがわからない。
何より、泥棒をして暮らしていたということ、そして断頭台で処刑されたということ以外が、ぼんやりと霞でもかかったように、思い出せない。
動けやしない足を何とかするのもやめて、ただぼーっと突っ立っていると、一人の女がこっちへまっすぐやってきた。
民族風の衣類に色黒の肌、目鼻立ちの深い、黒髪のきれいなその女は、どうもオイラのことが見えているようだった。
「あなた、未練があって、成仏できないんでしょう」
突然、そう声を掛けられて、何と答えたものか戸惑う。思い当たる節すら思い出せないんだから、はいともいいえとも言えなかった。
黙ったままでいると、女はオイラの胸のあたりに手を置いた。
もう死んでいるから、体もとっくに失っている。腕輪を着けた細い腕が、自分の胸を突きぬけたのを見て、なんとも奇妙な心地がした。
「あなたが行くべき場所に、連れていってあげる」
女のにこりと微笑んだ顔が、渦を巻くようにぐにゃり、と曲がる。
驚いているうちに、視界がもう一度ハッキリしてきて、気付けば往来する人ごみを見ていた。
ただ奇妙なことには、体がまったく動かせない。そのうちに、人ごみの景色が勝手に後方へ流れ出す。
「ちょっと我慢して。すぐ着くはずだから」
頭の奥から響くような、不思議な声は、さっき会った女のものだ。
そういえば、あの女が視界にいない。
目だけで探そうとすると、どうも自分の身なりが、さっきの女に似ていることに気付いた。
何が起きたかわからないが、オイラは今あの女と一体化して、どこかへ連れていかれるらしかった。
『あなたが行くべき場所に』
そんな場所があったろうかと、勝手に動く視界を観察しながら、ぼんやり思う。
女は大通りを抜け、公園のある角を曲がって、どんどん人気のない方へ進んでゆく。
やがて見えてきたのは、規則正しく石碑が立ち並ぶ、王国管轄下の墓所らしかった。
柵の途切れただけの入り口から踏み入り、さらに奥へ歩みを進める。
ああそうか、オイラの葬られた無縁塚にでも連れてこうってんだな、と思っていたが、その予想は裏切られた。
木々に囲まれた場所にひとつだけ建てられた、ひときわ大きな石碑。
木漏れ日が落ちた土の地面は小高く盛り上がっていて、石碑の表面にはちいさな文字で、何やら書いてある。
しかしそれよりも、自分の目をすぐさま惹きつけたものがあった。
「……ギン……?」
石碑のそばにうっすらと、大きな影が透けて見えた。
それは聞いたことのある鳴き声をあげて、翼を広げ、天を仰いでいる。
不思議なことに、その影を見た途端、ギンという名前、そしてこの銀竜と過ごした記憶が蘇った。
再び景色が歪み、それがもとに戻ったかと思うと、ギンの姿は先よりハッキリと見えて、黒肌の女も再び視界に現れた。
「この子がずっと、あなたの名前を呼んでいたの。あなたはこの子が死んだ場所に留まっていたけど、この子はあなたが、ここへ来るのを待っていたみたいね」
女に言われ、これまでのすべての記憶が一度に、押し寄せる波のように戻ってきた。
さっきまで居た大通りは、あの日ギンが王国軍に討伐されて、亡骸を置かれていた場所。
囚われていたのは、断頭台の上から最後まで見つめていた、ギンの死そのものだったということ。
どうしてこんな、大事なことを忘れていたんだろう。
「どうしてあんたは、何の義理もないオイラを、連れてきてくれたんだ?」
ふと気になって尋ねてみると、女は笑いながらこう答えた。
「言ったでしょう。この子が寂しそうに、あなたを探していたからよ」
自分のことを探していたという、ギンを見る。
ギンは死んだ時と、ほとんど変わらない姿で――オイラもそうなんだろうけど――目の前にいた。
わずかに透けてはいるものの、銀色の美しい体色と、大きな翼。宝玉にも似た丸い瞳。
思わず歩み寄り、ギンの曲げている脚に掌をつける。
幽霊同士だから触れられるらしい、掌はギンの脚にめり込むことなく、そこでぴたりと止まった。
そのうちに、オイラは額も押し付けて、思い切り泣いた。
拾ってごめん。死なせてごめん。オイラのせいで、たった一度の失敗でこんなことになって。
ありったけの想いを声に出してぶつけると、背後から女の声がした。
「気にしないで、大丈夫、って言ってる」
どうもこの女は、ドラゴンの言葉もわかるらしい。いや、死人の言葉がわかるんだろうか。
喋れないギンの代わりに、女はこう言って聞かせてくれた。
「あなたが拾ってくれなかったら、自分はどうなってたかわからない。育ててくれてありがとう、一緒にいてくれて、ありがとう。だから泣かないで、これ以上苦しまないで……って、その子は鳴いているわ」
止まらない嗚咽が余計にひどくなって、オイラはたまらず、あの日のように叫び出した。
すすり泣きながら現れる幽霊の話は聞いたことがあったけど、死んでも人ってこんなに泣けるんだな、というぐらい泣いた。
ギンは、傍で首をもたげて、静かにたたずんでいた。
ようやく、寄り添ってくるギンの顔を確かめられるようになると、にわかに周囲が明るくなった。
空も大地も、墓標も木々もあの女も、すべてが白に染まっていって――
最後の最後、あちらでも仲良くね……と穏やかに言う、女の声が聞こえた気がした。
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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