月ノ下、風ノ調 - オレカ二次創作『「ゼロ」、その意味』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。

先週末ぐらいから体調不良で寝込んでいたり唸っていたり、某所では相変わらず元気だし基本的にハンター業してるんですけど、書こうとしたブログの内容が過去記事と完全に被るという大ポカをやらかし(餓鬼ついでにやろうとした河豚腹をもう消化していた)アーカイブです。いつものです。

いつものついでに、今日のは『ジークと零の二人旅編』からなのですが、この話、主軸となる話と微妙~に噛みあっていない「パラレル的なエンディング」のひとつとなっております。
そもそもゲームが好き、それもシナリオ分岐のあるゲームが好きで「もしここでこれをやったら」をアレコレ想像してしまうため、長編を書いても(むしろ『二人旅編』が異例の長編なだけなんですが)「こういう結末も書きたい!」「いやこんな流れからの決着もアリ!」みたいに、枝分かれ式にどんどんエンドや分岐が増えてしまうタイプです。
今回もそんな結末のひとつに当たります。大丈夫な方は続きをご覧ください。

かなり過去、というか「ジークと零」題材でほぼ最初にできた話なので、かなり拙い文章かもしれません。いちおう気になったところだけ微修正して載せています。





「ゼロ」、その意味


来てくれたか。立ち話も何だろう、まずは座ってくれ。
座布団? ああ、使ってくれ。あいにく、一つしかなくてな。
俺は使わなくても平気だから、客人のお前に譲ろう。

客人扱いなんて、慣れていないか?
フッ、そうだろうな。お前はそういう奴だ。

腹の足しになるものは何もないが、話ぐらいならできなくもない。
少し長くなるが……いや、別に、真面目に聴いてくれなくていい。
俺が話をしたいだけだ。だから、気にせず好きにしていてくれ。

これは俺が抜忍になる前、ずっとずっと昔の話だ。

*  *  *

いつだったろう。自分の名を呼ばれるのが、とても嫌な時期があった。

俺の名前……『ゼロ』には『何もない』という意味がある、というのを知ってからだ。
たかが言葉の、取るにも足らぬ意味ひとつ。
しかし、その言葉を名に選ばれた真意は、果たしてどこにあるのだろうか、と。

俺は母の顔を知らない。父の背中も知らない。
物心ついた時には、里の長老の元で、忍びとしての訓練を受けていた。
忍びの里に生まれたのだから、忍びとして育つのは当たり前だと思った。

けれど、俺は自分の存在に、段々と疑問を持ち始めた。
忍びとして生きることは、決して無意味なことではないと思う。でも、それ以外の道は、どこにもなかったのだろうか?
里の掟にがんじがらめにされているわが身と、そうでない他の者を見比べると、何か引っかかるものがあって……。

そんな時に、『ゼロ』の意味を知ってしまったから、余計塞ぎこんでしまったのだと思う。
俺を名づけた親たちは、一体何を思って俺に、こんな空虚な名前を与えたのか。
憎しみよりも虚しさが勝ち、一人でいると孤独に溶けて、その場から消えてしまいそうに感じた。
いや、いっそ消えてしまいたい、と願っていた事さえ、あった。

名を呼ばれると『何もない』という意味が頭に満ちて、それが一斉に弾けて消えた後、文字通り心が『ゼロ』になる。
忍びではある。しかし、それだけ。里の掟に従うだけの我が身。
任務を遂行していない時の自分は、からっぽの器になって、ただそこに足をついて立っているだけの、木偶人形であるような気分になったものだ。

――なんだよお前、そんなコト気にしてんのか?

そんな俺の悩みを、いつぞや、軽く笑い飛ばした奴がいた。
そいつはその時、一緒に旅をしていた男で、その思い付きにはよく振り回された。
何というか……人の心にあらぬ形で踏み入っては、調子を狂わせ嵐を巻き起こすのだが、不思議と捨て置く気になれなかった。
あいつがそういう男なのか、それとも俺が変わったせいか。今ではもうわからない。

話が逸れたな。
とにかく、そいつはけらけら笑いながら、俺の悩みをさも、ちっぽけなもののように言い放った。
最初は、他人事だと思って、と目を吊り上げたものだ。
けれども、その後に続いた言葉は、俺が考えもつかなかった、そいつなりの『ゼロ』の解釈だった。

――『何もない』って、別に、悪い言葉じゃないだろ。何もないなら、何で満たしてもいい、ってことさ。

そいつはその時、俺に確かにこう言った……『何もないなら、何で満たしてもいい』。
目から鱗とは、こんな時のためにある言葉だと思った。

――零は、自分を何で満たしたい?

そして俺に続けて、訊いてきた……『自分を何で満たしたい』のかと。
すぐさま答えは出なかったが、思えばこれが、俺が抜忍の道を選ぶきっかけになったのだろう。
忍びの任務や里の掟のない外の世界に、自分を満たせる何かがあるだろうか?
俺は、次第に興味が湧いてきて……何か他のことに興味が湧くなんて、滅多にない俺が……それで、お前は何で満ちているのか?と、逆に問いかけた。

――俺? 俺は、気まぐれだからな。満ちてるものは、その時次第さ。

そいつの答えは、曖昧なものだった。その時その時で、満ちているものが違うという。
あいつらしい答えではあったし、俺も素直に納得したのを覚えている。
覆面のせいで表情の全ては見えなかったが、きっとその奥の口元は誇らしげに、笑っていたことだろう。
どうしてそう思うのか? まあ、あいつが単純な男なのはあるが……俺もそうだったから、かもしれぬな。

その出来事があってから、名を呼ばれて空虚な気持ちに包まれることはもう、二度となかった。

*  *  *

少し……喋り過ぎたな。喉が渇いた。
いや、その水筒は、お前が使っていてくれ。砂漠では水は貴重だろう。

えっ。何故こんな話をしたのか、だと?
何故だろうな。気まぐれかもしれないし、お前ならわかってくれる気がしたから、かもしれない。
日夜、誰かをその手にかけ、そんな暗い色の衣を着ていても、きっとお前は変わっていない。
それに、お前の名前にも、ちゃんと意味があったはずだ。

ジーク……『友』よ、久しぶりの再会だ。
今宵ぐらいはその刃を収めて、語り明かしてもいいだろう?



++++++++++
そんなわけで、『ジークと零の二人旅編』ノーマルエンドAです(いくつあるのか)
ジークは闇ジーク化、零は抜忍となっていますが、零の隠れ家で平和に語らう一幕です。
ちなみにこの話の「何もないなら、何で満たしてもいい」の流れは他の作品にも同じセリフが出てきており、『二人旅編』における一エピソードであることがわかります(全部読める環境の人には)
ところでトゥルーエンドAがまだできあがっていないので、早い所こちらも執筆したいなあと思います…。

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