月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
さて本日のアーカイブ、と見返して「ジークと零の二人旅編」からかなり重要な話が抜けていたことに気づいたので、本日は『手記より』という話です。
このお話、手記形式で書いているので、たぶん「会話文を含めなくても文章として読める」ようになっているのですが、とりあえず普通に読んでくださって大丈夫です。あとから会話文だけ飛ばして読むとちょっと楽しいかもしれない。
ちなみにこのお話、零視点でジークのことを書いていますが、ジーク視点で同じ話を書いた『手記より・裏表紙』もありますので、後日アーカイブしてこちらも違いを楽しんでもらえたら、と思います。
さて本日のアーカイブ、と見返して「ジークと零の二人旅編」からかなり重要な話が抜けていたことに気づいたので、本日は『手記より』という話です。
このお話、手記形式で書いているので、たぶん「会話文を含めなくても文章として読める」ようになっているのですが、とりあえず普通に読んでくださって大丈夫です。あとから会話文だけ飛ばして読むとちょっと楽しいかもしれない。
ちなみにこのお話、零視点でジークのことを書いていますが、ジーク視点で同じ話を書いた『手記より・裏表紙』もありますので、後日アーカイブしてこちらも違いを楽しんでもらえたら、と思います。
手記より
忘れてしまわぬように、あの日の出来事を、簡単にだがここに書き記しておこうと思う。
* * *
普段通りの朝、俺はいつもと同じく早起きして、郊外の平原で剣の鍛錬をした後、町の宿へ戻ってきた。
宿に入ろうとすると、その前によく見知った顔の、砂鼠の亜人がいた。
この者は風来の配達人で、どこからかやって来ては、ジークに便りを届けて去っていく。
どうやってこちらの足取りを掴んでいるかは謎だが、大方、町で聞き込みを重ねてやってくるのだろう。
「いつもご足労だな」
俺は配達人に声をかけたが、何だか様子がおかしい。
驚いたように俺の方を見、確認するとなぜかほっとしたような感じで、手紙を押し付けるように寄越してきた。
まるで何かに怯えているような素振りだったが、今思えば納得できなくもない。
封筒は少し膨らんでいた。小さな土産物でも入っているのだろうかと、その時は考えた。
逃げるように去っていく配達人の背中を見ながら、俺は部屋へ戻った。
「ジーク、手紙が来ていたぞ」
部屋に戻った俺は、受け取った手紙を、起きて身支度も済んでいたジークに渡した。
ジークは手紙の膨らみを指で確かめながら、封を切った。封筒から何かがこぼれた。
「……砂……?」
木の床にこぼれた細かいものを指で拾ってみると、それは砂のように見えた。
同時に、頭上からジークの声がした。
「おい……これ……どういうことだ」
信じられないといった様子で「どういうことだ」と言うジークの声は震えていて、目はただ一点を注視していた。
目線の先にある手には緑色の小さな、紐で口の縛られた袋が握られていたが、中ほどで裂けていてもはや袋の役目を果たしていなかった。
床に散らばった砂は、袋の中身だったに違いない。
ただその袋は、配達の途中で裂けたにしては、切り口があまりにも大きすぎると思った。
袋の裂け目から、まだ内側にこびりついていたのであろう砂が、ぱらぱらとこぼれて音を立てた。
「うあああああああああっ!!!」
その時突然、ジークが狂ったように叫びながら、床をドン、と拳で強く突いた。
何が起きたのか理解しきれなかった俺は、ただその様を見ているしかなかったが、ジークは目を大きく見開いて、わなわなと体を震わせていた。
そんな、とか、どうして、とかうわごとのように呟きながら、ふらふらと部屋を出ていくのを止めることもできぬまま、ジークの手から抜け落ちた袋や封筒、散らばった砂だけがその場に残された。
手紙らしきものは見当たらず、封筒にはあの緑の袋だけが入っていたらしかった。
いつもなら書いてあるはずの、差出人名も宛名もない。だが、いつもジーク宛に友人から届く、砂漠の民の紋章が入った封筒であるから、友人のものであることは間違いなさそうだ。
緑の袋は、裂けてほとんど真っ二つであったが、よく見ると綺麗な柄の布でできていた。
砂しか入っていないのも妙なものだと思っていたが、封筒をひっくり返してみると、砂に交じってガラスの破片のような透明のものが見つかった。
その破片は何かの形をしているわけでもないが、自然にできた結晶のようで、これが袋の中身だったのだろう、と思えた。となればこの緑の袋は、御守りか何かの意味合いなのかもしれない。
御守り、という言葉が思いついたことで、俺はひとつの可能性を考えることができた。
いつもと違う配達人の様子。
先のジークのうろたえ方。
差出人名のない手紙。
破られた「御守り」。
ジークの友に、何かあったのではないか?
もしそうであれば、すべて説明がつく気がした。
しかしその前に、顔色の悪いままいなくなったジークを探すのが先だ。
どこに行ってしまったのか皆目見当もつかないが、あんな異様な恰好なら街中では目立つだろうと楽観視して、聞き込みのため宿を出た。
予想以上に、ジークの手掛かりは少なかった。
「風のジーク」の名に違わず、一度走り出したら疾風のようであるから、人によっては目視できていないかもしれない。そこまで考えの及ばなかった自分が愚かしい。
幸い、宿を出てすぐどちらに向かったのかだけ、飛び出してくるのを見たという者の証言でわかったので、とりあえずその方角に向かうことにした。
日差しも強くはなく、大して暑い日でもなかったが、動き回っているせいか汗が噴き出、拭いながらの捜索が続いた。
町の大門を出て、朝に鍛錬をした草原に行ってみたが、人影ひとつ見当たらない。思い切って、その近くの森に足を踏み入れた。足取りがつかめないのだから、ほとんど行き当たりばったりで、見つかれば幸運なぐらいだった。
「ジーク?」
森に入ってまだ幾ばくもしないうち、茂みの向こうに動くものを見つけることができ、俺は恐る恐る声を掛けた。
だが、それはジークではなかった。
動いていた者は、今朝方あの手紙を渡してきた、亜人の配達人。それが、うつ伏せに倒れている。
裂け目だらけで血糊のついたマントに隠れてよく見えないが、上半身に対して、脚のある位置がなんとなくおかしい気がした。
「あぁ……た、助けて、くださ……」
「うっ……!」
助けてくれ、と息も絶え絶えに話し掛けてくる配達人に近寄り、ようやく状況を把握して、眉をしかめた。
上半身と下半身が、腹のところで真っ二つに切り裂かれていた。脚の位置が変だったのは、そのせいだ。
地面に広がる血の海に、顔を背けたくなる。気の毒だが、これではどうしたって助からないだろう。
「がは……っ」
俺が何もできないでいるうちに、やがて口から血を吐き、配達人は事切れた。
恨んでくれるな、と両手を合わせ、俺は再びジークを探すため、歩き出した。
朝から飲まず食わずでいるうちに、日が傾きかけているのには驚いた。
俺もそうであるなら、ジークだってそうなのだ。鳴る腹を諌め、茶色と緑と青だらけの視界に、白い衣を探した。
やがて、川べりから覚えのある、涙まじりの叫び声が聞こえてきた。
「ああああ! うあああっ! うっ、ううっ……ぐ……ひぐっ」
声の質で間違いないと確信して、水音のする方へと向かう。
そこには、砂利の地面にうずくまって、大泣きしているジークの姿があった。
両の手を握りしめて地面に叩き付けながら、声が掠れていてもなお、激しく叫び続けていた。
ジークの足元の砂利は灰色に湿っている。恐らく、多量の涙を落としたせいだろう。
「ジーク……探したぞ」
「ひぐ……零……?」
目元をぐしゃぐしゃにして泣いているジークが、ようやくこちらに気付いた。
しかしその目からは絶えず大粒の涙がこぼれ落ち、白い覆面など水気ですっかり灰色に染まってしまっていて、なぜだかとても胸が痛んだ。
多少のことなら軽口を叩いて終わらせてしまうジークの、こんな顔を見るのが初めてだったからかもしれない。
「零……ううっ……な、聞いてくれよ……」
嗚咽のようやくおさまった声で、ジークは静かに語り出した。
それは俺の予想していたことと、ほとんど相違なかった。
ジークの話の内容は、今回の手紙を送って来たのが、ジークの友を殺した「誰か」であること、だった。
友と形見分けした砂漠の御守りが、破られた状態で入っていたのも。
手紙の差出人名や宛名がなかったのも。配達人が無残に殺されていたのも。
すべてが、その一本の糸でつながった。
「こうしてる場合じゃねえ。行かねーと……早く、西へ……」
語り終えたジークは、友のため西へ急ぎたいと言い出した。
だが、朝から何も口にしておらず、その上精神的にも憔悴しきっている体はふらふらと頼りない。
倒れそうになっている白く細い体を、思わず俺は抱き止めた。
「ジーク……気持ちはわかる……わかるが、また明日ということもあるだろう……」
急いたところで、何が変わるわけでもないと思い、明日にしようと告げた。
陽の光は澄んだ白から、郷愁を誘う橙色にすっかり変わっていた。今から宿に戻れば、夕食をゆっくりとって休めるだろう。
ジークは俺の胸にすがりながら、弾けたように再び泣き出した。
その後、宿までどの道をどうやって戻ったのかは、よく覚えていない。
足取りも不安定なジークを支えながら戻ったことと、意気消沈しているジークと一緒に夕食をとり、早めに床についたことは覚えている。
一晩寝た後のジークは、まだ少し元気がなかったが、西へ向かう旅路でだんだんと元の性格を取り戻していったような気がする。
* * *
ここまで綴ったのは、ジークにも大事な者がいて、それを壊された時の豹変ぶりに驚いたからかもしれない。
自分にも、誰かのために泣ける日が来るのだろうか?
その時に、傍に居てくれる者はいるだろうか?
今の俺にはわからないが、この記録を改めて読み直すことがあれば、その時はもう一度、自分自身に問いかけてみようと思う。
++++++++++
というわけで、ジークが親友を失ったときの顛末のお話でした。
この話だけでは恐らくわからないと思うのですが、秘密の庭らへんを読んで頂いた後だと、かなり印象が変わると思います。ジークは普段は飄々としていて、自分勝手で気ままな印象がありますが、親友絡みではそうもいかないようです。零も心配するよね。
なお、この話の後にも色々あるのですが…あとで時系列まとめとか作っておきます。主に自分のためにも。
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