月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
今回はオレカのアーカイブなんですが、こちらの話を既に収録したと思ったら見当たらなかったので、今週提出する形となりました。
登場するのはジークと零。お話の流れで共闘などもしていますが、いわゆる『二人旅編』とは違う、パラレル軸のお話となっています。
そそっかしい?ジークと、それに振り回される零、そして突飛な出来事が起きたことから、零は意外な「真実」に気づく…という話です。
本編は追記よりお読みいただけます。
今回はオレカのアーカイブなんですが、こちらの話を既に収録したと思ったら見当たらなかったので、今週提出する形となりました。
登場するのはジークと零。お話の流れで共闘などもしていますが、いわゆる『二人旅編』とは違う、パラレル軸のお話となっています。
そそっかしい?ジークと、それに振り回される零、そして突飛な出来事が起きたことから、零は意外な「真実」に気づく…という話です。
本編は追記よりお読みいただけます。
よく切れる男
西の大陸、鄙びた村から来たというジークと、東の大陸、風魔の里から密命を受けて旅立った零。生い立ちも姿もまるで違う二人の間には、運命じみた数奇な縁でもあったのか、南の大陸に位置するバビロア王国で出会ってひと悶着あってから、なんとなく互いに仲間だという認識を持つようになった。
その日は、懸賞金つきの魔物討伐を引き受けたジークに零が付き添う形で、王国郊外の山野へと足を運んでいた。
「そそっかしい奴だな」
無事に勝利をおさめた後、ジークの白いマントの端がちぎれそうになっているのを見て、零は低い声で呟く。聞こえていますよ、と皮肉たっぷりの慇懃な言葉を返し、ジークはマントの端を適当に結んだ。裂け目がこれ以上広がらないように、とのことだが、実はマントの逆の端も、まったく同じ理由でまったく同じように結ばれている。
その場しのぎの傷痕だらけのマントに、零は眉間を押さえ、懐から掌ほどのちいさな木箱を取り出した。
「繕ってやるから、そこへ座れ」
目を凝らしてよく見ると、白い木綿糸で既に縫われた箇所がいくつもある。厚みがあるとはいえ布であること、ジークが魔物討伐を生業としていることを考えたら仕方ないのかもしれないが、とにもかくにもその男は、自慢のマントをよく破いていた。この繕い跡のうち、縫い目が大ざっぱなものはジークみずから、そうでないものは零が手を焼いた痕であった。
ジークは両手に一本ずつ持つ形の、対になる二本の剣で戦う。扱いが難しいゆえに、傷つけてしまうこともあるのだろうが、それにしてもやたらと裂けていることが多かった。
「よく『きれる』もんでね」
繕う合間、ジークは空を見上げてけらけら笑いながら、そんな言葉を零に投げかけた。零はやはり剣のせいか、と納得しつつも、さすがに不器用が過ぎるのではないか、という指摘の言葉を呑み込む。
ジークの言葉が「思った通りの意味」ではなかったことを、今の零は知る由もなかった。
* * *
ようやく修繕が終わり、戦利品を携える。あとは晴れ晴れした気分で、王国へ戻るだけ……というところで、二人の頭上を大きな影が通り過ぎ、強い風がざあと吹き抜けていった。えっ、と間抜けな声を出して固まるジークとは対照的に、零の優れた動体視力はその正体を既にとらえており、次の一動も予測がついた。
「ジーク、伏せろ!」
零の呼びかけに、ジークははっと慌てて身を草の地面に伏せる。強い風と大きな影が、すぐ頭上を通り過ぎた。ぼけっと立っていたら、今頃は頭でも掴まれていたことだろう。空高く旋回している、黄金色の光を返す巨大な体に、ジークはぶるりと身を震わした。
「お、おい聞いてねーよ! こんなところにゴールドドラゴンって!」
「居るものは仕方あるまい! 逃げるぞ!」
目的の魔物はとうに倒したことだし、この上気性の荒いゴールドドラゴンの相手をする理由はない。この世にも珍しい体色の竜は、煌びやかな見た目と裏腹に好戦的で、鋭利な爪に引き裂かれたら、あるいは強靭な顎で噛みつかれたら、とても無事では済みそうになかった。
見晴らしの良い野原では分が悪い。ドラゴンの視界を遮るための場所を探すと、走れば逃げ込めそうな場所に木立が見えた。零が手を挙げ、こっちだ、とジークに声を掛ける。
「おーっとっと!」
滑空し体当たりしてこようとするドラゴンを、間一髪で転がって避けながら、ジークはなんとか零についてゆこうとする。いちいち喋り口が軽いのは、飄々と捉えどころのない性格ゆえだ。こんな時にふざけるな、と諫言するまでもなかろうと、零はひとまず安全な場所まで走り抜けることにした。
「ジーク、早く!」
ようよう走り着き、木陰に身を隠した零が手招く。隠れてしまえばこっちのもの、と余裕の笑みを見せた、ジークの背中を風圧が襲った。風に乗ってきらめく細かな金の粒子が見え、やがてそれが白いジークの姿を完全に包み隠す。ゴールドブレスだと判断する冷静な思考と、仲間が襲われているという衝動が入り乱れ、零は思わず叫んだ。
「ジーク!!」
答えは返らず、代わりにカラン、と何かが乾いた音を立てて、地面へ落ちたのが見えた。あまり茂みから身を乗り出さぬように、しかしその場の様子をどうにか確かめようと、零は鷹のように良い目を凝らす。上空へのぼってゆくゴールドドラゴンの腕や足に、ジークが捕らえられているようには見えない。
しかしジークの姿はそこになく、鈍く光を返すふたつの刃と戦果の入った革袋が、草の地面に無造作に転がっていた。亡骸、いや影かたちすら、そこには残されていなかった。
「ジーク……?」
何が起きたか、その仔細はわからないままであったが――脅威が去ったことをようやく感じて、零はふらふらと歩み寄り、ジークの双剣と革袋を拾い上げた。親友でもない。幼馴染でもない。知り合って長い間柄ですらない。それなのに、忍者刀よりも刃渡りの短い二対の剣が、腕の中でずしりと重たく感じるのはなぜだろう。
長いため息ひとつをその場へ吐き捨て、零はひとまず、バビロア国内の宿に戻ることにした。
* * *
「零ー! おっはよーさん!」
翌朝、そんな声で零は目を開けた。聞き覚えのある軽い調子の、独特の鼻にかかったような声――間違いない。ジークのものだ。
同時に、昨日の顛末をぼんやり思い起こした零は、はて? と寝たまま首を捻る。いなくなったはずのジークが、なぜここにいるのだろう……夢枕にでも立たれたか、ともう一度目を閉じると、覆面の上から頬をつねられる感触。
「おいコラ、今起きてただろ! 聞こえてんなら寝たフリすんなよ!」
引っ張られた頬肉が痛いことにびっくりして、零はもう一度目を開き、身を起こした。そこにいるのは確かに、零のよく見知ったジークであった。
「ジーク? 本当に、ジークなのか?」
「なぁーに言ってんだよ。他の誰に見えるってんだ? こんなイイ男、俺様しかいないだろ?」
混乱しながらも、夢ではないこと、ジークが確かに戻ってきたことに安堵して、零は額を手で押さえる。ふう、と漏れた吐息が覆面の内で温かかった。
「……無事なら、よかった」
無事、という言葉にジークがムッとした表情になるが、今の零にはそれに気づく余裕もなかった。ただ布団のかかった己の膝辺りに視線を落としては、今が夢ならざる現実であることを、噛みしめるばかりであったのだから。
* * *
数日が過ぎ、零は再びジークと『狩り』へ出かけていた。今回のターゲットは山岳に棲む魔獣で、二人は身軽さを活かして魔獣の突進を避けつつ、各々の得物を思い思いに振るっていた。
零が何度目かの突進を跳躍で避け、岩肌の地面に膝をつく。顔を上げるや、目に飛び込んできたのは魔物の姿ではなく、日の光が強く乱反射する小川の水面であった。位置取りを誤ったと思う暇さえなく、目もまだ眩んでいるうちに、強い光の中を黒い影が迫ってきた。
逃げねば、いや戦わねばと珍しく思考が混線した。目を細めて視界の光をどうにか抑えた頃には、眼前まで魔獣が迫っていた。ジークが援護のために投げたナイフは、魔獣の背をわずかに掠めただけに終わった。
「ぐっ!!」
「零ッ!」
からり。
地を跳ねるような金属音に、ジークの目が丸く見開いた。そこに零の姿はなく、あちこちに細かなキズを作った忍者刀――備前長船が落ちていた。
なんだ、零もだったんだ、と呟いて、それを拾いあげる。東洋の刀の扱いには詳しくないが、こんな時どうすればいいのか、ジークは『自分の経験』で知っていた。そして、数日前の零の所業を思い返して、もう一度膨れっ面になる。続けて襲い掛かってくる魔獣を適当にいなして気絶させて、誰にも届かないというのに、たいそう大きな声でぼやいた。
「起きたらテーブルの上とか、ジョーダンきついぜ、まったく!」
* * *
「……ここは……俺は」
目覚めた零が次に見たのは、知らぬ宿の木目の天井であり、顔を大仰にのぞき込んでくるジークの姿であった。
日はすっかり落ちたらしく、窓枠の外は暗闇で塗りつぶされていた。宿の天井に吊るされた明かりが、ジークの影を型取るのを見て、己の失態が蘇り身震いしたが、それにしては五体どこも痛みはなく、少しばかり寝すぎたような気だるさが、総身の内側に張り付いているだけであった。
「おっ、起きた起きた。大丈夫か?」
「大丈夫も、何も……俺は、あんな真正面から攻撃を受けて……」
ジークが頭を引っ込めるのに合わせ、半身を起こす。やはり体のだるさはあるが、あばら骨の折れているような激痛もなければ、突進を受けたはずの胸にも腹にも、鈍痛のひとつさえ残っていなかった。
「もしかして、気付いてねーんだ?」
ジークがつん、と人差し指で零の眉間をつつく。痛いほどでないが、どうにも馴れ馴れしい態度に眉を顰めながら、零は言われた言葉の意味を考えることに努めた。「気づいていない」――いったい何の事であるのやら、とんと見当もつかなかった。
「何の話だ」
「零も俺と同じ、剣なんだって。わからねーモンなの?」
同じ、剣。ジークの言葉を反芻する。何度脳内で繰り返そうとも「同じ剣」という言葉を、他に何と解しようもなく、零は首を捻りたい気持ちになった。もっとも何度捻ったところで、他の納得できそうな解釈が、自らの経験から導き出せるわけでもない。
気は確かか、などといっそ問い詰めたくなったが、また臍を曲げられ話が捩れても困ると、零はあまり強くない言葉で問うてみることにした。
「いったい、何を言っている?」
「あ、ホントにわからねーの? 説明するって、ニガテなんだよなー」
一方ジークは手をヒラヒラと悪びれなさそうに振り、大袈裟に腕組みをして首を捻った後で、ようやく「説明」を始めた。
「言っちまえば、俺も零もヒトじゃなくって、剣なんだよ。刃物」
そして、それきり黙った。始めたと思ったらすぐ終わってしまった簡潔な「説明」に、零はこの男が生来よりの不真面目であることを、今この時ほど憤りたくなったことはなかった。
「俺は生きて、考え、里の使命を果たすために動いている。だのに、人ではないだと?」
「そ。零はその背中のカタナが『本体』。体はなんだろ、動くためのかりそめの姿ってやつ? 傷ついてそれが保てなくなると、体がなくなって、『本体』のカタナだけになっちまうってワケ」
もう一度、その言葉を頼りに考える。ジークが居なくなった時、あの場にはジークの武器だけが残されていた。一晩の後、ジークはすぐさま姿を現した。ゴールドブレスを食らっておきながら、ぴんぴんとした、五体満足のままで。
ならば、先まで寝ていた自分も、少し前までは「武器」だったのかと――確かに備前長船は、まだ幼い頃から肌身離さず持っていた守り刀でもあったが、考えれば考えるほどに呆れて思えた。いつもの冗談だろうという思考放棄もできたが、ジークは案外、空想と真実を取り違えるような男でもない。
ふと、椅子に腰かけているジークの、マントに目がいった。あちこち木綿の糸で継がれたそれについて、この男は何と言ったか――「よく『きれる』」という言葉に辿り着き、どうしてだかそれが最も合点がいった。何度マントを破いても当たり前のような顔をしていたのは、本当に当たり前だったのだと思えた時、零はもうこの事象を、馬鹿馬鹿しい御伽噺であると見做すことができなくなっていた。
「……あまり認めたくないが、そうだと思っておこう」
「素直じゃねーなもう! でもさ、俺ちょっと安心してるんだよ」
「安心?」
「だってさ、これってつまり、同類――いや、同じ剣同士、『仲間』ってことだろ?」
仲間、という言葉が、夜の静寂にこんと響いた。これまでも大きな理由なく、腐れ縁ともいうべきか、たびたび行動を共にしてきた自覚はあったものの、それらとは明らかに異質の何かであった。里を出てただ一人任務へ赴く、それが当然の世界にいた零にとって、周りすべての色が一度に見違えるような、そんな言葉でもあった。
しかしながら、零には己が己自身という自覚もまだあり、任を与えられた里の忍びという楔もある。ジークとここで手を高く打ち合わせるにはどうもむず痒くて、胸の前で腕を組み、目を細め、この状況をもう一度俯瞰した。自由人のジークと里の忍びの自分は、あまりにもかけ離れていて――口をついて出たのは、その遠きに毒づく言葉であった。
「……お前の仲間と言われても、さほど喜ばしくはないが」
「なんでだよ! 今度零がカタナに戻ったら、次はテーブルの上で起こしちまうぞ」
つんとそっぽを向くジークに、零はその原因の察しがついているように、頷く。
「成程。根に持っていたのか」
「いっいや、別にそーいう事じゃ……めんっどくせーヤツだな、ほんと!」
「俺からすれば、お前の方が余程、面倒臭い」
「それどういう事だよ!」
ようやく戻ってきた日常の、口論の合間に腹の虫が休戦を訴えた。零とジークは顔を見合わせ、片や破顔大笑、片やばつが悪そうに視線を床へ逸らしながら、それでも二人連れ立って、晩飯の買い物に出ることにした。
刃物に食事が要るのかと問いかける零に、美味しいモンなら食べたいだろ、という正論のような曲論を返して、ジークはまたいつの間にか端の破けているマントをひらめかせ、宿の部屋のドアを鳴らし開けた。
++++++++++
というわけで、ジークと零がもし「武器」だったら、という話でした。
この特殊設定がゆえ、『二人旅編』とは別に独立しており、構想としても「オレカの風魔君の本体がもし波動剣だったら」という考察をベースに書かれています。風魔君の話も書きたいけど全然まとまっていない(遅筆)
ちなみに、テーブルの上で復活したジークは、バランス崩して床に顔から落ちてるので、あの怒り方もやむなしって言いますか…。
ジークの方は把握してるので、備前長船をちゃんと布団に寝かせています。宿の人が見たら異様な光景だと思われたことでしょう。
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