月ノ下、風ノ調 - 【オレカ二次創作】風哭きて 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。

先週の続きをしようと思ったのですが、ちょっとまとめなおすパワーが湧いてこず(もともと独立している発言を追記開いてひとつひとつ丁寧にコピペしているので、結構根気がいる作業だったりします)ポッキーの日のネタも振って来ず、記事一覧とアーカイブ作品群を見返していて、なんとなく重大な事に気づきました。

過去に『ジークと零の二人旅編』の傷つけるもの、救うものというお話をアーカイブし、そこから選択というお話につなげるまでを行いました。これが夏頃、怪談トークがぴったりな時節に合わせてのアーカイブです。
で、それから4か月にもなり、そういえば『傷つけるもの、救うもの』のカップリング話として『風哭きて』という別の話があることを、さっき一覧を見て思い出しました。
というわけで、今日はその作品のアーカイブです。単独でみても状況がわかりにくいかもしれないので『傷つけるもの~』らへんを読んでから、あるいはこの作品を読んだ後に当該作品を読み返すことで、状況がわかるようになっています。ほんとはひとつの作品にわかりやすくまとめろという話かもしれませんが、『手記より』の時みたいに視点の違うお話だからね。しょうがないしょうがない。

お話は追記よりお読みいただけます。






風哭きて


欠けた月が浮かぶ宵の空。
夜に包まれた平原を駆け抜ける足は重く、顔を掠める空気は冷たい。
それでも、今は走らなければならなかった。
両腕に抱えたかすかな温もりを、絶やしてはならない、と、ジークは思う。

月光を青白く照り返す、白の衣が暗闇に翻る。
抱きかかえた腕の中には、だらりと動かぬひとつの体。その閉じられた瞼を、不安げに見つめる。
顔色が白いのは、失血して血の気がないからではなく、月明かりのせいだと思いたかった。
左肩から血こそ流れ出なくなったが、それでも深手なのに変わりはない。

涙が溢れた。どうしてこうなったのか、自分でもまるで記憶にないのだ。
確か魔物を狩りに来ていて、零と一緒に居て、それからがわからない。
気付いた頃には、なぜか零に手首を制された状態で、地面に組み伏せられていた。
ジークが声をかけた途端、手首をつかむ力がふっと消え、体の重みが一度にのしかかる。
糸が切れた人形のように、気を失った零をよくよく見れば、左肩はマフラーの端で縛られ、夥しい量の血が滲み――

それから、ジークは零を抱えて、治療のできそうな、集落のある方角へと走り続けていた。
このまま放っておいたら、零が死んでしまう。
何が起きたのかは、零を助けてから突き止めても、遅くはないだろう。

闇がいっそう、濃くなる。風が吹き抜ける。
疲弊した体に鞭打つような心地で、ジークは駆けた。
早く行かなければ。早く。早く――

がちゃり。

突然、腰のあたりが軽くなる。
振り返ると、ベルトの後ろに着けた黒刃の双剣が、重みのせいか外れて落ちていた。
足が止まる数秒の間、思考に余裕が生まれる。

『大枚をはたいて買った、俺様の得物だ。取りに戻らないと』
(そんな事をしているヒマなんてない)
『拾うぐらい、大した手間でもないだろう』
(でも、)

頭の中で飛び交う問答。
ふと見やれば、黒い刀身は誘いかけるように、妖しく光っている。
それが何故だかおぞましく思えて、ジークは心を決めた。

(俺のことは後でいい。とにかく今は、零を)

踵を返し、駆け出す。
武器など、いくらでも代わりはある。零の代わりはまたとないのだ、と。

*  *  *

朝焼けが空を染めあげる頃。
ようやく町はずれに着くと、霞む視界の中に、ジークは診療所らしき建物を見とめた。そのままドアを力まかせに押し開け、倒れるように中へ転がり込む。
ばたばたという派手な音のせいもあってか、奥から出てきた医者が、驚いた顔でこちらを見つめた。

「こ、こいつを……早く……手当、を……」

水など飲める筈もなく、喉は渇いてカラカラで、掠れた声を何とか絞り出す。
慌てて駆け寄ってきた医者が、何かこちらに呼びかけたが、もはやその音は聞こえなかった。
視界が暗くなってゆく。それは睡魔なのか、気絶なのか……わからぬうちに、ジークの意識はふつりと途絶えた。

目が覚めると、ジークは清潔な香りのベッドの上にいた。
衣類などは倒れた時のままだったが、ちゃんとした寝床で休めたのはありがたかった。
夢見は悪く、零がどこかへ行ってしまう夢を見た。

「そうだ、零……」

起こした頭が平衡感覚をつかみきれず、くらくらするが、それを堪えてベッドを出る。
存外、零は近くにいた。隣の部屋のベッドで寝息を立てているのが、他でもないその男であった。
治療のため元の衣服を剥がれたらしく、包帯を巻かれた左肩と、寝間着の間から覗いた裸の鎖骨が目につく。

寝床の近くの小机には、脱がされた零の鎧や鎖帷子。その上には血糊のついたまま乾いた、真っ赤な覆面マフラーが置かれていた。
口元に覆いの無い顔は寂しく見えたが、元通り巻いて息ができなくなっても困る。

通りかかったナースを呼び止め、とりあえず覆面だけでも洗ってくれるよう、頼んでみた。
ナースは怪訝な顔をしたが、その日の午後には晴天の下、赤い吹き流しがはためいているのが窓から見えた。

*  *  *

翌朝までひと眠りした頃には、疲れもすっかり取れ、ジークは普段通りの調子、いつも通りの日常に戻っていた。
隣室で、未だに眠り続けている零を除いては。

医者の話では、零の傷は快方に向かっていて、そのうち目を覚ますはずだという。
峠を越えたのならもう、大丈夫だろう……そうと勝手に決めて、乾いて畳まれた覆面を零の顔に巻いてやる。
上半身を抱き起こし、肩に布を垂らして巻き始めたが、加減がよくわからない。
あまりきつくは巻けないと思い、少し緩めに巻いてやる。

(頭って、こんなに重いんだな)

ずしりと腕にかかる重みが、胸の奥をちくりと突いた。
この重い頭の中には、今、何が渦巻居いているのだろう?
知るよしもないが、きっと自分の想像もつかない、さまざまのものが詰まっているのだろうと考える。

零の口元が覆われたのを確認し、ジークは部屋を出た。
廊下にいたナースに、すぐ戻る、とだけ告げ、そのまま足は外へと向かう。

診療所を出て、元来た方へ。
しかし、落とした武器を拾いに行くため、遠くまで足を運ぶ気にはなれなかった。
道のりの遠さや面倒臭さだけではない。
あの時の『誘い』に乗っていたら――取り返しのつかないことになっていた気さえする。

少しだけ足を伸ばすと、背の低い草が生い茂る平原が広がっていた。
零を抱えて走っていた時には気づきもしなかったが、今であれば、その雄大さに目を凝らすこともできた。
空は晴れて澄み渡り、遠くには青い山々の影も見える。
傍らに零がいないのを、寂しく思う。

立ち止まり天を仰ぐと、ひゅう、と風が哭いた。


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