月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
本日はまた新作の短編を引っ提げてまいりました。
最初はなんとなーくギャグっぽい感じにしようと思ったのですが、私の作風の癖で綺麗にまとまってしまったので、なんとなく綺麗なタイトルもつけました。
今回は蓮華加入周りのネタバレがあります。大丈夫な方は追記よりどうぞ。
本日はまた新作の短編を引っ提げてまいりました。
最初はなんとなーくギャグっぽい感じにしようと思ったのですが、私の作風の癖で綺麗にまとまってしまったので、なんとなく綺麗なタイトルもつけました。
今回は蓮華加入周りのネタバレがあります。大丈夫な方は追記よりどうぞ。
変らぬもの
地獄より救出された月蓮華は、自らの境遇もそこそこに、二十七代当主の地獄行脚を不思議に思っていた。
自分はただの月一族の当主で、地獄へ行った際に魂ごと囚われて、のちの世まで取り残された時忘れ人である。戦う力を持っていること以外は、ほかの人と何ら変ることあらぬ。しかし、二十七代当主はといえば、地獄へ行ってもいつの間にか戻ってきては、また地獄へ出てゆき、しかし当の地獄の大穴をいくら眺めていても、そこより戻ってくる様子は一切なかった。
何の手品か絡繰りか。訝しんだ蓮華はこっそりと、持ち前の忍びとしての能を活かし、様子をそっと窺うことにした。蝋燭の立てられた間に座している二十七代当主が突然、のそりと立ち上がったと思うと、吸い込まれるように大鳥居へと消えていく。もう何度も目にした光景だが、いつなんどきどのように戻ってきたか、それが問題である。
蓮華ははたと、普段は宝物殿前に佇んでいる侍女が、いなくなっている事に気づいた。彼女は当主の身の回りの世話すべてをする絡繰女である。自分が当主の時は裁定の書類を持ってくる程度の存在だったが、当主が地獄へ行っている間にかき集めているのだろうか。興味も湧いて足音を探ると、鈍い歯車の回るような音が、裏手の廊下からかすかに聞こえた。自らの足音は殺し、そちらへ急ぎ向かう。障子戸の奥でバタン、と戸が回る音がし、スッと開き入ると、そこにはただの客間が広がっていた。侍女の音はこの部屋に入って消えたが、無論そんな筈はない。どこかに仕掛けがあるはずと探(あなぐ)ると、床の間に掛けられた大ぶりの掛軸の裏に、ちいさな返し扉があり、女人一人なら入ってゆけそうな大きさであった。押し開けた先には薄暗がりの階段。目をすぐさま闇に慣らし、踏み外さぬよう慎重に下りてゆく。自分が居た頃にも、屋敷にはこの隠し扉と、隠し部屋があったのだろうか。その真偽はまだわからぬが、侍女を問い詰めれば明らかになろう。
床と思しき所へ足がつき、すり足気味に進むと壁に突き当たった。一本道の先、ここも仕掛け扉だろうと辺りの壁に手を衝くと、何か確かな手ごたえとともに、眼前の壁が左右に割れた。その向こうの光景に、蓮華は驚き息を呑んだ。
大きな茶筒型の、しかし分厚いギヤマンでできていると思しき透明の、中に座した姿をしているのは二十七代当主である。だがその目は閉じ口は結ばれ、まるで生気を感じない。筒の中は薄青色の液体で満ちているらしく、時々ぷくぷくと泡が底から上がっている。仮に色水だとすれば、総身使っている当主は生きてはいまいが、さりとて水死体とも思えぬ。
侵入者に気づいた侍女が、静かな足音と少しの機械音を纏ってやって来たが、蓮華は素直に出ていって、様子が気になったため後を追ったと正直に語った。どういう状況なのかを問うと、侍女からはこのような言葉が返ってきた。
「これは当主様が地獄へ赴き、還ってくるための『かりそめの体』。当主様は魂還りの術を用いて、この体と魂を地獄へ送り込むのです。万が一肉体が限界を超え滅んだとしても、また新たな体へ魂を移せば、地獄へ赴くことができます」
蓮華は二十一代当主だが、たった六代ほど時が進んだだけで、地獄監視の技術が発達したものだ、とむしろ感心してしまった。これならば地獄でいくら魍魎に梃子摺らされようとも、何度死んだとしても、何度も地獄へ赴くことができる。死ぬときの苦痛に何度も耐えられるか等の精神的な問題を除けば、合理的で実用に耐えうる発想ではあった。
「当主様が戻るまでに『体』を配置せねばなりません。参りましょう」
せっかくなので、蓮華はその様子も見学させてもらう事にした。筒から出された二十七代当主の『体』は、どこも濡れ滴ってはおらず、とても先まで液体のようなものに浸かっていたように思えない。それを侍女は両腕で姫抱きにして、階段をしずしずと上っていく。身の丈六尺はある大男が、頭ひとつほど小さい絡繰女に抱え込まれている様子は、どこか滑稽にも見える。
侍女は小さな返し扉を慣れたように潜ると、そのまま蝋燭の間へ足を向けた。蓮華は後をついて歩く。四つ立てられた蝋燭の中央に、いい感じに座らせると、蝋燭に明かりが灯された。
「この蝋燭、常に灯しているわけではないのか」
「迎え火です」
迎え火とは、盆の時期に先祖の魂が戻ってくるために焚くものである。同じ要領で当主の魂がここへ戻ってくるという流れに、進んだ技術のようでいてどこか原始的な匂いを感じながら、蓮華はぼうっと蝋燭の火を見つめた。侍女が声を掛けた。
「当主様の帰還の邪魔をしてはなりません。外へ」
普段なら呼ばれるまで客間に座すところであるが、侍女と一緒に蓮華は何となく、宝物殿の前まで来てしまった。自分も過去、同じ侍女に世話になった身であった事を思い出し、何も変らぬ侍女と自分と、ただそれ以外すべての変ってしまった世に想いを馳せ、おおきな白い満月を見上げた。侍女がまた声を掛けた。
「当主様は、まだ懸命に地獄を走られているようです。時あるうち、昔語りでもいたしましょうか。蓮華様」
「私は今の世を何も知らない。できれば今のうち、教えてくれると助かる」
「かしこまりました」
変らぬ満月の光に照らされ、白い顔が此方を向いた。蓮華の顔が少しほころんだ。
++++++++++
ほんとはギャグ増し増しめに「当主クローン説」の話を思いっきりしたかったんですけど、話を書いていくうちに「そういえば蓮華さんも侍女にお世話になった当主の一人だな」に視点が動いてしまったので、そういう話にまとまりました。
当主や兄上や世界は西暦15600年だけど、蓮華さんは当時の姿のまま救出されているし、侍女は何百年も見た目がほぼ変わらない絡繰女ということで、なんとなく「お互い変わらないね」という所に落ち着いたら素敵だな、というのもあり。
当時は当主と侍女だった蓮華さんも、代替わりで世襲制『月風魔』の役を降り、今度は月蓮華として侍女と他愛ないお話ができたらいいな、と少し考えたりします。
どうでもいいけど侍女は絡繰さながらの怪力スキル持ちで、当主ぐらい軽々と持ち上げてたらいいなとか思います。書きながら思いました。
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