月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんばんは、九曜です。
今日は若干体調を崩しているので、アーカイブで失礼します。
本当はもうちょっと夏になってからにしたかったんですけど、細かい話は抜きにしてタイトルでわかる『お化け屋敷の話』です。
バビロア組とかそのへんが、アトラクションのお化け屋敷に挑む話なのですが…。
今日は若干体調を崩しているので、アーカイブで失礼します。
本当はもうちょっと夏になってからにしたかったんですけど、細かい話は抜きにしてタイトルでわかる『お化け屋敷の話』です。
バビロア組とかそのへんが、アトラクションのお化け屋敷に挑む話なのですが…。
お化け屋敷の話
ずらりと吊るされた、まだ火のともらない祭り提灯、込み合うほどの人通り。
何もかもがいつもと違う非日常。バビロアの広場は今日、夏に開かれる大きな祭りで賑わってる。
「わりぃ、ちょっと通るぜ!」
で、今俺は人の多い大通りを、すり抜けながら猛ダッシュ中。
せっかく屋台で仕入れた、塩気の効いた焼き饅頭も、味わう暇なく胃に押し込んだぐらいだ。
ちょっと離れた一角で、ファイヤー・ダンスのパフォーマンスがあったから、珍しがってぼけーっと見てたのがいけなかった。
約束の時間まで、あと一時間はあるからって、油断してたらこのザマだ。
「おーう、待たせたな! ゴメンゴメン」
ようやく見えてきた待ち合わせ場所、噴水前に集った見たことのある一団に、駆け寄りながら声を飛ばす。
右から順に、全身ド派手な金色の甲冑を着た騎士、アーサー。
重たい灰色の鎧を着こんで、歩くたびズシンズシンうるさいけどいいヤツ、クラン。
顔は見せないのに上半身は裸、隠す所が違うんじゃね? ラクシャーサ。
赤い覆面と青い忍び装束、口数少なくて愛想も悪いニンジャの零。
どいつもこいつも、昔このバビロアで、よくつるんだ……まあ、マブダチとでも言おうか。そんな顔ぶれだった。
「ようやく来たか……遅いぞ、十二分の遅れだ」
「まったく、ジークは相変わらずだな。どこほっつき歩いてたんだ?」
そんなことを口々に言われるので、うるせえよ、と短く返して本題に入る。
「でさ、例の『死霊館』っていうのは、どれなんだ?」
「ええと……あれだよ」
こわばった顔のクランが指差した先には、だいたい予想通りの見かけをした建物があった。
看板にでかでかと描かれたおどろおどろしい絵や、血の赤色。そこに踊る『死霊館』の三文字。
別にホンモノのいわくつき、とかじゃない。祭りの催し物のひとつで、俗にお化け屋敷といわれる、脅かし系のアトラクションだ。
文字を変えると「資料館」……つまり、元の建物は資料館、っていうくだらねーダジャレに気付けば、怖くもなんともない。
「まったく。一人で行きゃいいのに」
「む、無理だよ……ジーク知ってるでしょ。僕、怖いの苦手なんだって」
バビロア騎士団はどんだけ熱心なんだか、祭りが開かれてるっていうのに、そこでも騎士としてのノルマがあるらしい。
そのひとつが『死霊館』への挑戦なんだそうだ。
勇敢な精神が必要、というのはわかるけど、正直ここの騎士じゃなくて良かった、という感想しか出ない。
集まった中だと、アーサーとクランが騎士団の所属で、このノルマを達成しなきゃならないらしかった。
幸い、一人で入るという条件がなかったため、こんな大人数を揃えたわけだ。
入り口にいる案内係の人に、アーサーとクランが何やら紙切れを渡している。
これがノルマの証明みたいなものらしくて、「死霊館入館」の項目にチェックがついて戻ってきていた。
「いざ!」
先頭切って、入り口の扉を開けたのはアーサーだ。が、一歩踏み出した途端、そこで体が固まる。
いきなり何事なのかと、すぐ後ろでクランがうろたえる、声になってない声が聞こえた。
アーサーは怯えるでもなく、そのまま倒れるってこともなく、ただ振り返ってこう冷静に喋った。
「中が思ったよりも、暗くて寒いようだ」
「それだけかよ! 何だよもー、初っ端からビビらせやがって」
出鼻をくじかれた気分で声をあげる。
後ろでほっとつかれるため息は、クランのものだろう。もっと長い、呆れたような吐息はたぶん零だ。
とりあえず、先頭にアーサー、その次が俺様、背中にひっついてくるクラン、その後ろに零とラクシャーサ……という順番で館に入る。
扉が閉まると、中はアーサーの言うとおり、異様に暗い。目が慣れるまでは、時間がかかりそうだ。
黒い色の布が張られていて、たぶん窓も目張りされているのだ、と零が囁く。
零はさすがニンジャとでも言うべきか、暗闇に目が慣れるのも早いらしい。
足元には白いペンキかなんかで、順路と思しき矢印が書かれているものの、何人も踏んで掠れているリアルさが怖い。
ようやくうっすらと、通路の形がわかってきたので、歩き出したアーサーに続く。
イモムシみたいに一列縦隊で進んでいると、早速奇妙なものに出くわした。
通路の左側から、白い手が突き出ている。
それは手首をぷらりと曲げていて、特に揺れたり動いたりはしていない。
仕掛けでも入れて動かせばリアルなのに……よくある作り物だろうし、みんな驚いて止まったりしない。クランだけは「ヒッ」とか小声で驚いてたけど。
この程度で悲鳴を挙げてちゃ、一番ビビリだと思われるから、黙っておく。
「う……」
アーサーが立ち止まり、少し後ずさる。
肩がぶつかって俺も止まる。ぼんやりと灯火に浮かび上がる、血だらけの首「らしきもの」……作りモノだろうけど、この暗がりだとやっぱり初見ではビビる。
よーく見れば、紙やはぎれでできているのがわかるし、血に見えるのは赤いペンキか何かに違いない。
「うひぇっ!」
クランが変な声を上げる。掴まれた肩にも、ずしっと重みがかかった。
鎧装備なんだから、そう体重かけないで欲しいもんだけど、今のクランにそれを言っても無駄だろう。
脅かしだと判明したアーサーは歩くのを再開してるし、俺も正体見たり枯れ尾花、という感じで、サッサと先に進むことにする。
掴まったままのクランを引きずってさらに奥へ行くと、天井から吊り下がった人形があった。
アーサーは立ち止まりもせず行ってしまったのか、見失った。あいつはほんと騎士の鑑だと思う。
俺も軽く人形だと見破って、そのまま通り過ぎようとすると、何かにズボンを引っ張られた。
びっくりして下を見ると、背の低い子どもが、こちらを見て立っていた。
長袖のセーターとズボン、目は俺と同じ黒地に緑の目だ。首元にふわふわした白いマフラーを巻いて、同じく白い手袋をはめた手で、俺のズボンを引っ張ってる。
おそらく金色の、毛足が長い髪型だけど、結ったりリボンを巻いたりはしてないから、多分男の子なんだと思う。
「なんだよボウズ、もしかして迷子か?」
俺が尋ねると、目の前の小さな顔が、こくりと頷いた。
こういう時には、目線を合わせてやりたいもんだけど、生憎今は背中にクランがしがみついてて、しゃがむことができない。
仕方ないので、ズボンを掴まれた側、左の手を差し出す。
「こんな所で迷子になるなんて、ツイてねえ奴だな。俺様が出口まで連れてってやるよ」
そう言ってやると、男の子は黙って手をつなぎ返した。
ちっちゃい手。俺もこんな時期があったなあ……なんて、しみじみ思う。
後ろにいるクランは、もう目を瞑ってただついてきてるって感じで、この心温まるやりとりにも何も喋らない。
手加減してくれるのを覚えたのか、多少肩は軽くなったけど。
しばらく立ち止まっていたはずなのに、後ろにいたはずの零やラクシャーサが、なぜか全然追いついてこない。
まあ、クランはいることだし……そのまま、先へ進む。
順路の矢印を追いかけて歩くと、いかにもな棺桶と、墓のオブジェが見えた。
あたりには霧のようなものも立ち込めているが、魔法でできたミストか何かだと思う。
もうすっかり慣れちまって、驚きすらしないっていうか、もっと怖い仕掛け作れよっていうか……。
大方の予想通り、棺桶の蓋が突然バーンと開いたけど、それだけ。音以外でビビるわけもない。
左側の壁から、また手がニョキッと出ていたけど、さすがに二度目じゃ飽きるぜ。
順路の矢印を4つぐらい踏んだ頃には、だんだん通路に光がさしてきて、出口が近いんだろうな、と思った。
で、最後の最後に、天井からぐわっと落ちてくるタイプの人形。
さすがの俺様も、こればっかりは後ずさった。そもそも、別にこういう屋敷じゃなくても、いきなり天井からなんか落ちてきたらビビるっつうの。
糸で吊られたそれがブランブランしてるのが、なんとなく腹立たしくて、右手で軽くジャブを入れて立ち去る。
出口から溢れる光が、暗闇を通ってきた目には眩しい――。
「お、おい、ジーク。お前、今出てきたのか?」
ラクシャーサの声がして、え? と間抜けた返事が出る。
ようやく光に目が慣れると、出口の先に、俺を除く全員が勢ぞろいしているのが見えた。
アーサーはともかく、どこで追い抜いたのかわからない零もラクシャーサも、後ろにいたはずのクランも……クラン?
さっきまで掴まれていた感覚があったはずなのに、今それはすっかりなくなってて、目の前には青い顔で零の肩に縋ってるクランがいる。
「クランお前、いつの間に先に出たんだよ? ずっとビビって俺に掴まってたくせに」
「え? 僕、人形の首があったところでジークがいきなり走りだしたから、びっくりして零とラクシャーサの方に戻ったんだよ?」
「は?」
……話が噛み合ってない。
俺は走り出してもいないし、クランが戻った足音も聴いてない。
クランがいなかったなら、後ろにずっとついてた、重たい気配は何だったんだ?
そういえば、クランが掴まって歩いてたにしては、どうも静かで足音もなかったような、気がする。
普段、歩けばあんなに足音が立つのに、足音もなければ鎧擦れの音もした記憶がない。
細かく追究しようとすればするほど、脳の奥で何かが警鐘を鳴らして、それ以上の思考に歯止めをかけようとする。
ワケ分かんねえよ、と理不尽さをぶちまけようとして、握った左手からクシャッ、と軽い音がした。
「何だ……これ」
手をつないでいたはずの男の子は、いつの間にかいなくなってて、代わりに握りしめていたのは、包みに入ったアメ玉だった。
なんだかもう、細かい経緯を説明する気にもなれない。
今が真夏だっていうのに、あの子の服装がどう見ても真冬だって気付いたから、なおさらだ。
気味が悪いしとっとと捨てちまおうかと思ったけど、包みになんか文字が書いてあったから、何とはなしに広げて読んでみる。
まさか、呪ってやる、とか書いてねえだろうな……なんて思ってたけど、そこには意外な言葉が書いてあった。
『ありがとう またあそぼうね』
子どもの書くような、つたない字で精一杯書かれていたのは「お礼」だった。
見かけ悪そうな奴ではなかったし、悪霊の類ではないんだろう、と直感する。
もうああいった遊びはこりごりだとも思ったが、俺はついさっきまでの悪い考えを捨てて、中の黄色い飴玉を口に放り込んだ。
それは爽やかで酸っぱくて、どこかなつかしい味がした。
* * *
後日談~バビロアの食事処にて
ジク:そういやお前ら、あの『死霊館』でどれに一番ビビった? 俺、最後の人形。
アサ:私は……最初に見た首が堪えたな。最後の仕掛けもなかなか驚いたが。
クラ:僕は、いきなり走り出したジーク……。
ジク:そりゃねーぜ!
クラ:あとは、白い手かなあ……地味だけど、なんか怖かったよ。
零:白い手?
ラク:そんなのあったか?
ジク:え?あったじゃん。最初と最後のほうに一本ずつ生えてたろ?
零:……見ていないぞ。
クラ:えっ……。
アサ:私も見ていないんだが……死角だっただけだろうか。
ジク:結構目立つところに生えてたけどなー。なあクラン?
クラ:うん……ジークが見たんだし、きっとあれは仕掛け……仕掛け……。
ジク:おい、怖いこと言うなよ……。
ラク:そういえば、棺桶の中に居た化け物はなかなか、斬新だったな。
クラ:あー。あれは怖かったね。
ジク:へ?何かいたっけ?
ラク:棺桶から出てきて、追いかけてきたぞ。
ジク:ちょ、ちょっと待てよ……俺、追いかけられてねーけど。
零:それは、人の都合だろう。あれは中に人がいる時しか開かないだろうし。
アサ:そうだな。誰かを追いかけている時に、続けて追いかけることはできないはずだ。私が見た時は、蓋が開いててもぬけの殻だった。
ジク:蓋は確かに開いたけど、誰もいなかった、っていう俺の場合は?
クラ:どういうことなの……。
零:まあ尤も、ジークは途中で何かあったらしいから、変なものを見ていてもおかしくはあるまい。
ジク:おいおいおい!変なまとめ方すんなよ!怖くなってきたじゃねーか!
++++++++++
後日談までついた豪華版でお届けいたしました。
この手の話を何度か書いてますが、性格の違う各人が怪異に対してどういうポジションなのか、考えながら書くの楽しかったです。
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