月ノ下、風ノ調 - オレカ二次創作『行く末』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんばんは、九曜です。

先週からアーカイブし始めてみました『メソタニアの客人編』なんですけれども、なんと最初の話からアーカイブするつもりで、普通にすっ飛ばしたため時系列がまたランダムにという事態になったことをさっき知りました。これはしたり。
最初の話がちょっと季節系だったのでしょうがないのもあるんですけど、ここから時系列に戻すのも何だし、なんなら途中アレな(察してください)話が挟まるパターンもあるので、とりあえずまた大丈夫そうな話からアーカイブを進めています。

大丈夫そうとは言っても、まあまあ心の距離が近いので、見る人によっては2828したり逆に狼狽えるかもしれません。大丈夫な方だけどうぞ。

余談ですが、メソタニアの客人編は予言者シビュラを主軸に、メソタニア王国の出来事を追いかけていく話になっています。本編と流れが違うのでたまに不自然かもしれませんが、そのへんはまあ創作ということで…なんかいい感じに書くようにはしてますので…





行く末


「本当に、行っちまうのか」

気品のある王子の顔が残念そうに曇るが、詮なきことだ、と思う。
メソタニア王国近隣の、乾いた空気が熱を帯び始める頃、私はこの国の客人をやめると申し出ていた。

それは『予言』されていた……もうすぐ、このメソタニアでは内乱が起きる。
人の世を知るためと選んだ居場所だが、今はただの客人という身分、ましてやこの国と心中する理由もない。
戦火がのぼり逃げ出せなくなる前に、脱してしまうことを私は選んだ。

「何不自由なく過ごせた。世話になった」
「そうか……元気でな。戻ってきたら、いつでも王宮に来ていいぞ!」

はっきりと言う必要もないが、私が戻ってくることは、ないだろう。
この屈託のない笑顔を見るのも、最後になる。
『予言書』の通りなら、勇敢なる風の国の王子は、狂気に呑まれ没落するのだ。
まだ見ぬその顔を、改めて現実で、目の当たりにしたくはなかった。

挨拶を済ませた私は踵を返し、王座の間を静かに出た。

*  *  *

王宮の備品らしい、金茶色のテーブルやチェア。肌触りの良いベッドや、豊富な書籍が詰まった本棚。
この部屋の景色も、今日で見納めとなるのだろう。
滞在を始めて、まだ一年も経っていないというのに、まるで生家を離れるような名残惜しさをおぼえた。
私の荷物といえば、『予言書』ひとつきりだ。
ベッドに座り、膝の上にそれを置く。

窓外を見れば、空は青く晴れ渡り――あらかじめ『予言書』を読み解いた結果ではあったが――出立には悪くないと思う。
まだその色が幾分か薄いのは、早朝だからだろう。
日の高いうちは、暑さで動きもままならないためか、この王宮は夏季になると、目覚めの時間が少し早くなるらしかった。
それに合わせる必要はないのだが、一人で朝食をとるのもなぜか味気なくて、私も最近は早起きするようになっていた。
食事などここに来るまで、ずっと一人でとっていたものだが……不思議な変化だ、とつくづく思う。

正門が開くまではまだ時間があり、すぐさま出立というわけにもいかない。
何をするでもない手持無沙汰で、時を告げる鐘を待っていると、部屋の戸が二度鳴った。

「シビュラ殿」

その男はこちらの返事をするよりも早く、片方の扉を開けて、部屋に踏み入ってきた。
随分物物しいようにも思うが、別に強盗の類ではない。
将軍ネルガルとは、そういう男だ。予言書をなぞるまでもなく、今の私は知っていた。

「今日で、王宮から出てゆくと聞いて……演練の前に立ち寄ったのだが」

そこで、ネルガルの言葉は途切れた。
いつもであれば、先を知るため膝の上の『予言書』に手をかざしているところだが、なぜだかそれが躊躇われた。
この男の考えを見透かしてしまうことが、「悪いこと」のように思えて。
むしろそこには、ある種の恐怖すら感じていたかもしれない。

「そうか」

短く返答しながら私は、『予言書』に書かれている結末を告げてみるか、迷っていた。
それを告げたとて、未来が変わるはずもない。
この男は、国の動乱に巻き込まれ、家臣にさえ裏切られて――死ぬ運命にある。
絶望させるぐらいなら、動乱のことを含め、貝のように黙る方が良いだろう。
平時なら、それで全てが終いとなるはずだった。

「世話になった」

しかし、その一言だけで終わらそうとする自分に、なぜだか嫌気が差した。
水面に生じた波紋のように、ゆらゆらと揺れながら広がってゆく想いが、このままではいけない、と呼びかけてくる。
体じゅうがそんな葛藤で満たされた時、いつか聞いた言葉が、耳の奥から滲むように聞こえた。

『あなたは、予言のために生きるのか。それとも、生きて予言するのか』

携えた予言書の記述を紐解くことは、他の誰にもできない。
この男に今、行く末を伝えることができるのは、自分しかいない……そう考えると、胸の内に熱いものがこみ上げた。

『何のために?』

あの日からずっと、自身に問いかけ続けてきたこと。
ようやく見えはじめた答えを、それを知る切っ掛けを、ここで掴み損ねるわけにはゆかない。

「では……これで。失礼致す」

どこか名残惜しそうなネルガルの面持ちに、唇を噛みしめる。
遠ざかる靴音、鎧擦れの金属音。行ってしまう。手の、声の届かないほど遠くへ。
私は予言書を開いて持ち、腰かけていたベッドから立ち上がった。

(ネルガルのために、私は言わねばならない)

待ってくれと引き留める時すら惜しく、去り際の背中に向かって、私は言葉を紡ぎ始めた。

「最後に一つ、予言しよう。じきにこの国で戦が起きる。その時、将軍ネルガルは窮地に陥るであろう」
「な、何だと……?」

歩みを止め、振り向きざまに驚いた顔が目に入る。無理もない。
ネルガルは反転して、早足でこちらに歩み寄ると、さらに詳細を問いかけてきた。

「して、その後は? メソタニアは、我らはどうなるのだ?」
「……」

まっすぐ突き刺さる視線に、思わず目を逸らしたくなる。
答えるつもりでいたその先の言葉は、なぜだか喉につかえたまま……出てこない。

絶対の予言、揺るぎない未来を教えることに、これほど躊躇いを感じたことはなかった。
諦め、受け入れるべき未来――死ぬ運命――を、目の前の男には言いたくない、と思う。
例えば死ぬとわかったとして、ネルガルは自分のように、それを受け入れようとするだろうか?
私自身の浅い思慮に過ぎないが、到底そんな男には思えない。
告げられた時に見せる顔は、歩む道すじは、私の望むものとはきっと違うはずだ。
だからこそ、私は――。

「……諦めてはならない。その抗いが、たとえ予言通りだとしても」

震える唇が選んだ結びの言葉は、とても予言とは言えないものであった。
それに気づいたように、緑の三白眼がわずかに見開く。
絶対の未来が聞けなかったことを、おおかた、不思議に思っているのだろう。

(ネルガルのために、私はこの先を、言ってはならない)

こんな感情が湧き上がることなど、ほとんど初めてで、私自身も驚いていた。
予言、ではなく、はなむけの言葉、をおくるなどと。

「わかった。その言葉、心に留め置こう」

鎧姿の豪気な将軍は、己の行く末を知ることもないまま、ゆるりと微笑んで見せた。
私を安堵させるはずのそれは、まるで棘の付いた茨のように、掠めた心に引っ掻き傷をつけた。
それでもなお、死を予言する気にはなれず、混沌する脳内に顔など熱くなりながら、私はもはや黙って頷くしかなかった。
人を信じ、国を信じ、己を信じるこの男が、悔いなき最期を迎えられると信じて。

「達者でな」

改めて、別れの言葉を告げられる。金色で縁取りのされた、緑のマントが翻る。
扉を開けて演練場へ向かうネルガルを、私は思わず追いかけていた。
追い縋る気はない。ここへ残るという心変わりもない。
ただ、ただ、一秒でもその姿を長く、網膜に焼き付けていたかった。
閉じかけた戸を引いて開け、部屋の入り口を出たところで立ち止まり、見送る。

重い鎧を鳴らしながら、廊下を遠ざかる大きな背中が、今の私にはなぜだか、小さく見えた。


***


「エンリル……!? 一体、どういうつもりだ!」

片腕とまで思っていた家臣が、魔皇に跪く姿を見て、覇将ネルガルは声を荒げた。
それとは対照的に、参謀エンリルは何かを含んだ笑みを向けながら、淡々と言葉を紡ぐ。

「フフフ。力あるものこそが、絶対なのですよ。たとえそれが、魔皇であっても……」

すべては、エンリルの思惑通りとなった。
王子マルドクに狂気を植え付け、唆した将軍ネルガルの野心を利用し、メソタニアを掌握する。
親マルドク派の旧臣たちが追い払われ、王国の兵力が削がれたところで、魔皇軍を引き入れる。
あとは袋の鼠となったネルガルを始末すれば、このメソタニアは、密かに与した魔皇ラフロイグのものとなる。

「ふざけるなッ! 私はこれまでメソタニアのために……!」
「いい加減、目を覚ましたらどうです? 貴方の『せい』で、この国はもはや風前の灯火。メソタニアはこれより、魔皇ラフロイグ様の支配下となるのです」

ネルガルの国への忠誠心は、エンリルにとっては都合のいい手綱であった。
メソタニアのため、という枕詞さえ忘れなければ、この愚直な男はどんなことでもやってのけた。
それが本当に、国のためになるかどうかという頭脳など、たたき上げの軍人に備わっているはずもない。
万一備わっていたとしても、ネルガルにもはや術はなかっただろう。
片腕であるエンリルを信用するほか、道はないと思い込んでいたのだから。

「がはっ!」

魔物たちの、熱を帯びた一撃を受けるごとに、体力を削られる。
残っていた部下たちも次々と倒れてゆき、気づけばネルガルの周りには、もはや数人の傷ついた手勢しか従っていなかった。
利用されたという怒りだけでは、この状況を打開できそうにもない。

「覇将様……いや、覇将ネルガル。諦めなさい。お前にもう、勝ち目はない」
「くっ……!」

エンリルに決別の言葉を投げつけられ、ネルガルは肩を震わせた。
自身の不甲斐なさ。裏切られたことへの苛立ち。さまざまの感情が入り乱れる中、ひときわ大きく襲い掛かる「絶望」の波。
周囲を完全に取り囲む魔物の群れは、突破口などどこにも見当たらず、手当たり次第に散らしてもきりがないようにさえ、感じる。
万事窮すと、大剣を突き立て歯噛みした時、ふと思い出した言葉があった。

『諦めてはならない。その抗いが、たとえ予言通りだとしても』

メソタニアに危機が訪れることを、的確に言い当てた後の……決して予言ではない、ネルガルに宛てられたそれは、きっとシビュラの「心」であったのだろう。
シビュラの瞳には、この瞬間も映っていたに違いない。だからこそ、こう締めくくったのだろうと。
剣を引き抜く手に力が込もる。傷だらけで疲弊したはずの体を、その言葉は強く突き動かした。
由緒ある王宮を、魔物の手には渡すまいと――金色の鎧の、メソタニアの将軍は、声高らかに叫んだ。

「皆、諦めるな!! 閉ざされた道ならば、この手で切り拓くまでだ!!」



++++++++++
メソタニアのクーデターコンビである覇将ネルガルと参謀エンリルについて、恐らくこれはプレイヤー間で認識に差があると思うんですけれども、私は「ネルガルがなんかいい感じに乗せられていて、エンリルが自分の都合の良いように動いている。最終的にエンリルは主のネルガルを裏切る」というパターンかな、と思っています。
それにしたって、ネルガルにも元々野心があっただとか、エンリルに唆されて悪に手を染めたとか、なんかそんな話もありそうな顔してますが、私の中では一貫して…というかあの人が一貫して「メソタニアのためなら何でもやる」タイプに見えるため、「これが国のためだと思っていた、エンリルの奴!」と最終的に叫ぶパターンになります。なんならスピンオフで絶賛覇将ムーブ中、メソタニアの民を守りに行く話があります。まだ完成してませんが。
そういうわけで『客人編』でのクーデターコンビのキャラづけはこういう具合となり、その上でネルガルはエンリルを気に入っている(腐向け的な意味で)という描写もあるので、そこに飛び込んできたよそものシビュラが、どうメソタニアのクーデター事件と関わっていくか、というのがお話の主体となっています。

今回のアーカイブ、かなりいいところで台詞が入って終わる話なんですが、さて、この後どうなったことでしょうか。近日アーカイブでお見せできる予定です。

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