月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『その武器の名は』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。

今日は、なんか思いついてしまったので、お話です。
来週忙しくてブログ更新できるか怪しいので、今週はとりあえず更新しておこうと思って筆をとりました。
副装備編やりたかったけど要求資料が多すぎて挫折したなんて言えない

先週武器の話をしたので、当主と武器の話をしたくなりました。
どちらかというと「あるある」な話をお楽しみください。
拙宅設定は特盛りですが、本編の重大なバレとかは多分ないです。



その武器の名は


 暗い夜を彩る花の色と虫の音。庭を流れるせせらぎの音に、木製の橋をぎいぎい渡るせわしい足音が混じる。重厚な鎧具足を身につけた月一族の二十七代当主は、此度こそ地獄の異変を探(あなぐ)らんと、屋敷入り口に侍女が誂えた武器台を目指していた。
「出発のご準備は万端ですか?」
 少し低めの落ち着いた女声は、侍女の発するものである。彼女は常に宝物殿の入り口に佇んでおり、必要とあらばその場で鋳造した武器を渡してもくれるが、そのためには武器の設計図が要る。手元に新たな設計図のない今では、鍛錬や秘伝会得の手伝いをしてくれる程度だ。
 心の準備は良しと、侍女の前を通り過ぎ、三つの武器台を確認して、当主月風魔はやや苦い顔をした。この武器台には侍女が戎具を立てかけ用意してくれるのだが、手前から順に無銘の鈍塊、無銘の錆剣、獄卒の支柱である。月氏当主はその大半が刀か両得物を得意としているのだが、そのいずれもなく、しかも鈍器が二種類である。鈍器と剣斧は、武器を振るというよりは武器に振り回されるようで、独特の立ち回りを求められるので、風魔にとっては苦手意識が強かった。
 考え、立ち止まった空白の時間を、虫の声がころころと通り抜けてゆく。戻って無銘の鈍刀でも取ってゆこうか考えたが、侍女の用意してくれる武器の方が段位が高い。鈍器や剣斧ともなれば、その差は歴然である。強力な魑魅魍魎たちに対抗するためには、少しでも強い武器を持つべきだ。風魔は考えた末、鈍塊を背負い錆剣を携え、地獄の入口ともいうべき忌地へ向かった。

 ほどなくして、風魔は夜半の屋敷へ還り着いた。とはいえ、調査を終え戻ってきたのではない。地獄で力尽きた後、輪廻の術を用いて「地獄へ行く前の自分の体」へと、魂だけで時を遡ってきたのであった。戦果はといえば、龍骨鬼の顔すら見ないまま、攻撃を受け流しそびれて鬼相手に死ぬという体たらくであった。
 せせらぐ水音に心を落ち着けると、風魔は座したまま、こうと思った。
(やはり、戦傘が要る)
 戦傘とは月一族が戦いに用いる和傘である。たかが和傘と侮るなかれ、鉄製の骨を幾束も組み合わせた重量で魍魎を叩けば、たちまち膝崩れとなり、広げれば身を護る防具ともなる。風魔はこの戦傘を用いて、魍魎の攻撃を弾き返してよろけさせ、そこに追撃を叩きこみ「必殺の一撃」へとつなげる戦法を得意としていた。戦傘のあるとなしとでは、地獄での戦いやすさが数段違う。
 再び武器台へと向かう。「お体は大丈夫ですか?」と侍女に話しかけられるが、ひとつ頷いて、急ぎ足で歩む。期待も虚しく、武器台には無銘の錆剣、輝刃の巨剣、無銘の錆鎖が並んでいる。
 鎖鞭。近距離での攻防が難しい代わりに、敵と距離をとって立ち回りやすい武器だ。少しは安全に戦えるだろうかと、錆剣を背負い、錆鎖をじゃらりと腕に巻きつける。幼少のみぎり、はるか昔に聖なる鞭を手に魔王を倒した男の話を、父や兄から聞かされたのを思い出した。風魔は自分もこの鎖鞭を以て魍魎たちを、そして異変の元凶を討たんと、勇み足で忌地へ降りていった。

 風魔は再び、魂のみが屋敷へ戻ってきていた。鎖鞭は打ちすえる時に独特の反動があり、急に目の前に飛んで来た獅子頭への対応が遅れた。火球を食らい下層へ落とされ、突き出てくる棘の罠を食らい、あわてて飛び降りた先に鬼がいた。鬼は風魔を見るや一直線に駆け寄り、脳天に重たい一撃を叩きこんできた。以降の記憶はなく、蝋燭の灯った当主の間をぐるり見回しながら、風魔は自分が命尽きたことを悟った。
(戦傘……)
 風魔はほとんどやけになって、走って武器台へ向かった。侍女の前を駆けて来たので、最早何と声を掛けられたかもわからない。無銘の錆鎖、獄卒の刺柱、輝刃の巨剣。眩暈がした。
 踵を返して、侍女の前を力なく通り過ぎる。当主の間も客間も通り抜けて、風魔はとぼとぼと縁側まで引き返した。濃鼠(こいねず)色の晴れた夜空に、薄紅色の桜がふわりと見事に咲いている。遠くには月が、一族の名と同じ字を冠する一条の光が、淡く金色に輝いている。しばし月光を浴び、長く深く息を吐き出したところで、風魔ははたと気が付いたことがあった。
(あの武器、侍女は如何に思い、用意してくれている?)
 それは冥府を下るが我がさだめと、何もかも振り捨てまさに「死に急いでいた」風魔の、立ち止まった思考に降って来た閃きであった。まだ当主となって日が浅く、必要な会話以外あまり交すことのない侍女が、自分の戦い方や欲しい戎具を知らないのは何ら不自然ではない。来た道を引き返すと、宝物殿の前にやはりしゃんと立っている侍女に、風魔は改めて声を掛けた。
「武器台に用意してある戎具について、相談があるのだが。良いだろうか?」
 侍女はのっぺりと白い能面のような顔であったが、不器用に紅の口元だけはにかんで、答えた。
「何なりと」
 歯車でも回るような、カチャカチャという小さい音が侍女の体より聞こえてくるのは、彼女が生きた人ではなく絡繰女だからである。最早慣れ切ったそのような音には気にも留めず、風魔は問いかけた。
「では……武器台に常に用意されている戎具は、侍女が選び、蔵より持ち出しているものか?」
「はい。宝物殿に、武器台へ用意する戎具を確認する高札がございます。そちらに何の指示もない時は、わたくしめが選び、武器台へ用意しております」
「高札……?」
 風魔は首を傾げたが、すぐに見当がついた。兄の件もあり、こと細かく先代から当主の冥府下りについて聞く機会がなかったが、父が侍女に告げていた「宝物殿の高札の使用を譲り渡す」というのが、その事なのだろう。侍女を引き連れ、宝物殿の高札とやらを見せてもらうと、埃っぽい木製の板に、白墨を消したような跡があった。
「こちらへ、必要な戎具の名前をお書きください。蔵より探して参ります」
 魑魅魍魎のひしめく過酷な冥府下りに、ようやく光明が見えた気がして、風魔は意気揚々と磨り減った白墨を持った。そして欲しい戎具の姿を思い浮かべると、顔だけ侍女の方へ振り向き、こう問うた。

「……ところで。あの、紅と白の二色(ふたいろ)の戦傘。あれの名前が……何だったか、わかるか?」



++++++++++
というわけで「武器調整システムを知ったものの武器の名前が出てこない」当主の話でした。
当主の皆さん、武器の名前、ちゃんと覚えてますか? 私はこの話を書くにあたり「あれってなんだっけ…」が2回ぐらい発生しました。普段使っている武器も、気に留めていないと、案外名前が出てこないものです。特に戦傘は名前が覚えにくいと思う。
公式では読みが公表されていない武器も多いので、覚えにくいのだと思いますが、気が向いたらなんかてきとうな読み表みたいなのも作ってみたいです。

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