月風魔伝その他、考察などの備忘録。
みなさまこんばんは、九曜です。
週末にかけて忙しくしており、解説記事の資料が用意できなかったので、今回は書き下ろしのお話です。
月風魔伝UMノーマルエンド+蓮華不在+なぜか初代がいるという、わりといつもの感じのアフタークリア後トークです。
普通に話の流れでネタバレしてますので、大丈夫な方はどうぞ。
週末にかけて忙しくしており、解説記事の資料が用意できなかったので、今回は書き下ろしのお話です。
月風魔伝UMノーマルエンド+蓮華不在+なぜか初代がいるという、わりといつもの感じのアフタークリア後トークです。
普通に話の流れでネタバレしてますので、大丈夫な方はどうぞ。
千代を跨ぎて
その晩風魔は、一本の絵巻を左手に携えて、館のあるじの居室へと足を向けた。昼の鍛錬や領内の視察も終わり、夕餉も風呂もとうに済ませた後である。宵涼みも兼ねて、着流し一枚を細い帯で適当に体へ括り付け、木の床を裸足でひたひたと進んでいた。
館の庭には細い川が流れ、いくつもの流れが月光をまばらに照り返しては、きらきらと白く輝いている。夜の色に沈んだ水の藍と、白く返される光の揺れる点描が、さながら万華鏡のようで、風魔はこの館で過ごす夜をいたく気に入っていた。
「当主どの。聞きたいことが――」
灯りのともった部屋の障子戸をすっと開けると、座して文机に向かいながらかっくりと舟を漕いだ頭が、はっと気を取り戻したように上がった。風魔と同じ赤く長い髪だが、気まずそうに此方を向いた瞳は朝焼けの金色である。風魔の薄灰青の瞳が視線を合わせると、眠気でのたうっていた筆先を慌てて硯へ拾い上げ、こう切り出した。
「ま、まさか初代様が此方までいらっしゃるとは。何用ですか?」
この館には今、「月風魔」を名乗る男がふたりいる。
一人はこの月氏の館のあるじ、二十七代目「月風魔」の名を継ぎし男で、長い赤髪に金の瞳、類稀なる戦の才を持つ。地獄の異変に終止符を打つ際に敬愛する兄を喪ったが、今では兄の分まで当主たらんと、この琉球王国を治める立派な領主となっている。
そしてもう一人は、地獄内より波動剣に封じられた魂を救い出され、千年の時を跨いでこの館へ戻ってきた、月一族当主の開祖ともいうべき初代の月風魔である。長い赤髪に薄色の瞳、常人離れした身体能力と強靭な精神力から、千年にわたり地獄の邪神を封印してきた。かつて地獄で行方不明になったとされたが、二十七代月風魔の活躍により邪神は討たれ、封印の責から解放されたらしかった。
いずれも風魔では紛らわしいため、二十七代風魔のことを初代風魔は「当主どの」と呼び、初代風魔を二十七代風魔は「初代様」と呼ぶ。もはや監視の必要もなくなり、消えゆく地獄を擁するだけの今、ふたりの月風魔は領内の治世や繁栄に力を注ぎ、それでも有事には戦わんと時折木刀を振る、そんな生活を送っていた。
さて、その晩は二十七代月風魔のもとに、初代月風魔がある「問い」を携えやってきたわけだが、初代月風魔は魔物絵巻を広げながら、ひとつの魍魎を指さし、話を始めた。
「この魔物。俺が知る限りでは『鬼妖霊(おにすだま)』という名のはずだが、ここには『獅子頭(ししがしら)』とある。違う魔物なのか?」
ようやく覚醒した二十七代が、どれどれと絵巻を覗き込む。描かれた絵姿は確かに獅子頭だ。それどころか、鬼妖霊という名の魍魎など二十七代はついぞ、聞いたことがなかった。
「この魍魎は、亜空の城塞に棲みついていることが多く……首だけで宙を自在に飛び、口から火の玉を吐いてきます。私は、獅子頭、と伝え聞いておりますが」
仔細を初代に告げると、初代は納得するどころか、ますます訝し気に悩む仕草をした。
「宙を自在に飛び、口から火の玉を。俺の知っている鬼妖霊と、ますます同じように思える」
「ううむ……?」
灯りの下で、墨書きされた魍魎の姿をじっと見るが、絵に描かれた魍魎が動くわけもなければ、己の名が何であると答えるわけもない。二十七代は困り果て、兄ならこのような時何と説明するだろうか、と腕を組んだ。初代は胡坐をかいて、もう一度絵姿をじっくりと眺めている。瞳の色以外そっくりな目の前の初代月風魔は、傍から見れば同じに見えるだろうか……二十七代がはたと膝を打った。
「見かけよく似てはいるものの、実は違う魍魎かもしれませぬ。私と初代様のように」
その言葉に、顔を上げて二十七代の方を見やり、初代はなるほど、と頷いた。続けて、
「ならばこの魔物は、わかりやすくて何よりだ。俺も当主どのも『月風魔』では、鬼妖霊と獅子頭より紛らわしかろうな」
「それは……確かに」
何十年何百年、それこそ千年も後世の人らが、初代と二十七代を『月風魔』として混同することを想像すると、何だか笑いがこみあげてきて、くはっと二十七代の口より息が漏れた。ふふっ、と初代の鼻が鳴る。似て非なる月風魔ながら、この事象へ抱く感情は同じのようだ。
「もし初代様と、私の功績が後の世で混同されたら、初代様はものすごい功績を残した、伝説のお方になりますね」
「いや、すべて当主どのの功績になるかもしれぬぞ。二十七代、地獄との戦いに終止符を打つ!などと、賛歌が作られるやも」
「お、お恥ずかしい。私はただ、今できることを精一杯しただけです」
二十七代が思わず視線を畳に落とすと、頭の上から初代の声が降ってきた。今までの高揚した口調よりも少し落ち着いた、あたたかな声だった。
「それは俺も同じだ。できることをやり、その果てに、ここへ還り着いたのだから」
障子戸の細く空いた隙間より、初夏の風がすうと吹きこんできた。少し温い宵の空気を爽やかにかき乱す、心地の良い風だった。
++++++++++
アーリー前段階で二十七代君を見て「(初代の)風魔君だ!!!」と思った私の懺悔のような文章です。ほんとすみません早とちりで…。
書く前段階ではなんか、千年経ったら世界変わったなあ…的な初代風魔君のアンニュイな夜を演出しようとしたんですけど、書き進めてたら「自分たち似てるねー!!!」と二人で和やかに笑い出したので、もうなんか楽しそうだしこれでいいことになりました。
地獄との戦いに終止符を打つ!のあたりは、なんか月風魔伝じゃないところで聞き覚えのある方もいることでしょう。わざと狙ってやりました。こういうのもアリだー!
できることを精一杯やり、その結果の平和を、二人には謳歌してもらいたいものです。ちゃんちゃん。
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ゲームを遊んだり、絵を描いたり、色々考えるのが好き。このブログは備忘録として使っています。
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