月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『海の日の記憶』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
ワンドロライを3日後に控え、ブログの方がまるでまとまりませんでしたので、今日は30分ぐらいライティングです。リハビリ、リハビリ…?

タイトルこんな感じですが、実際に存在する祝日「海の日」とはなにも関係ありません。
二十六代当主と嵐童の、親子の話です。今回珍しく弟さんはお留守番です。




海の日の記憶

 月一族の領土は、琉球王国を称するちいさな島国である。四方を大海に囲まれ、いくつかの集落が点在している。西暦15600年余の時代、遠く隔てた沖合はどす黒く濁った死の海域であったが、琉球王国の周辺は豊かな碧玉のごとき海で、当主は泳ぎの鍛錬なども兼ねて、家臣などを引き連れ時折訪れるのであった。
 さて、その日は二十六代当主が、七つになったばかりの長子・嵐童を連れ、浜辺を訪れていた。次男坊はまだ海難の理解もできぬ幼子である。海を見に行きたい、とねだる所を乳母に預け、長子だけを引き連れてきたといった具合だ。
 七つという歳の割に聞き分けのよい嵐童は、座れと言えば座って居、来いと言えば言い訳もせずやって来た。波が寄せる浜にかれを立たせた二十六代は、父親らしく問うた。
「どうだ? 波に当たった心地は」
嵐童は少し考えて、
「私の足まで、海の方へ引かれそうになります」
と言った。二十六代がこれに、
「怖いか?」
と問うと、嵐童は困ったように足元を見た。その合間もざあざあと波が寄せては引いてゆく。時折揺らぐまだ年少の体、二十六代はその肩をしっかりと掴むと、顔を寄せてこう言った。
「怖いなどと言えぬ、と思うたな」
 嵐童ははっと一瞬目を開いて、気まずそうに視線を逸らした。あまり感情を表に出さぬよう気を付けてはいるが、それでもまだ歳七つだ。その上、問答の相手は自分をよく知る父親である。とてもかなわなかった。
 肩に置かれていた大きな右手が、くしゃ、と嵐童の白い短髪を撫ぜた。叱られると思って跳ねた肩が、ゆっくり元の位置におさまった頃、二十六代当主月風魔は、我が子にこう諭した。
「怖きを怖きと思うは、臆病ではなく無知よ。万物を見、恐ろしきの何が恐ろしきかを知れば、怖きは薄れてゆくものだ。お前は海を知らぬまま初めてここへ来た。何も知らぬ海を怖いと思うは、当然の事。嘘をついて誤魔化すでないわ」
 叱るような口ぶりながら、右手は柔らかく嵐童の頭を撫でつけている。怒ってはいないのだ、と知った嵐童が、自らの言動を恥じ入りながらか細く「怖いです」と呟いた。
「それでよい! では、今からこの海がどのようなものか、教えてやろう」
「わっ!?」
二十六代は言うなり、嵐童をかるがると肩に担いで、少し深いところまでざぶざぶと歩み進んだ。まかり間違って滑り落ちたら、総身海の中に浸かる……察した嵐童が必死にしがみつくと、二十六代はふっ、と笑って続けた。
「海の中では、我らは息を吸ったり吐いたりできぬ。ゆえに溺れぬためには、沈まず海上に浮かぶ必要がある。まずは『浮き』の訓練から始めるとするか」
 懐から取り出した号令の笛が高く鳴り、自由に散らばっていた護衛の家臣らが、二十六代と嵐童の周りに一斉に集まってくる。
「嵐童。お前が溺れたり、ましてや海にさらわれぬよう、家臣たちもつける。その上で、海を知るための訓練を始める。もう一度聞く。怖いか?」
「はい! ですが訓練とあらば、できるかぎり頑張ります!」
 力強く鋭い返事に、二十六代は口角を上げて笑った。少し浅い浜に戻ると、肩に担いだ長子を降ろし、家臣の一人に補助を命じた。
 今はまだ育ち盛りのこの子が、いつか一族の希望とならんことを…その行く末をまだ知るよしもない、親子の思い出の日であった。


++++++++++
兄上って基本弟さん思いでなんでも我慢するタイプの長男だと思っているので、感情表現とか本心を言うのとかすごい不得手だと思うんですけど、父上にはかないません、という話でした。
なんだかんだ今まで書いた話を見ると、二十六代当主(兄弟の父)もなかなかいい人だったんじゃないかなぁの気持ちがあり、実際石碑とか見るとやっぱりいい人だったんじゃないかなぁの気持ちがあるので、月一族全員考えました回で特盛りの紹介とかしてみたいです。
年表埋めなきゃなあ…(計算ド苦手)

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