月風魔伝その他、考察などの備忘録。
先週、突然体調を崩してしまい、ブログを書きにこれませんでした。
今週もまだ本調子と言い難いので、お話を置いて去ります。
今週もまだ本調子と言い難いので、お話を置いて去ります。
地獄開発引っ越しセンター
西暦15682年。地上は木々も青々と色づく夏だが、その年の日照りは特に厳しく、琉球国の民は連日うだるような暑さに、何もせずとも体力が削られるといった具合であった。
この事態を重く見た二十七代当主月風魔は、ある策を講じんと、地獄へ続く大鳥居を潜り抜けた。
辺獄の忌地。魍魎に害されあちらこちらに散らばっていた遺骸も、立ち並び風化を待つだけの朽ちたあばら家も、最早そこにはない。代わりに瓦屋根の家屋がいくつかと、綺麗にまっすぐ整備された道が現れた。
「……臭気もだいぶ薄れたな。これならば、一族でなくとも来ることができよう」
風魔は近くの家の戸を叩いた。開いた戸の内から、少し身なりのきれいな絡繰女が出て来た。
「当主サマ、ご機嫌よウ」
「お勤めご苦労。掃除はどこまで進んだか聞きたい」
「はイ。エエト……」
この忌地で「はたらく」絡繰女たちを取りまとめる彼女は、奥から一冊の帳簿を持ち出してきた。まだ数頁しか埋まっていないそれの、一番新しい箇所を指さし、風魔に示す。
「中層まで終わったか。よし、私も少し様子を見に行く」
「オオ……お気を、ツケて」
絡繰女の仮住まいの戸を閉める。専門の大工でもない絡繰女たちに突貫で建てさせたわりには、時折訪れる荒天にもびくともしないようであるし、もう少し規模の大きい「避難所」も少し先にある。
風魔は安堵しつつ、歩道には嵐をしのげる屋根も必要だと考えた。少しは環境の良くなったこの場所なら、地上より大工の人足を遣わしても、逃げずに働いてくれることだろう。最初に依頼した時など、あまりの惨憺たる光景に具合の悪くなるもの、耐えきれぬ臭気に逃げ出すものがほとんどで、まったく仕事にならなかったのであるから。
中層へ降りていくと、崖から落ちぬように配置された手摺りと、整備された石の階段が出迎えてくれた。途中にはやはりいくつか家屋が建てられ、今ははたらく絡繰女たちの仮拠点として、地獄という過酷な環境の中でどっしりと佇んでいた。
「ここは……まだ少し臭気があるな。下層の残りが片付けば、ましになるか」
遺体を片付けたことで、あれほどひどかった環境は改善されているようだが、元は地獄の外れという土地柄、すぐさま綺麗に浄化されるというものでもないらしい。
進んでゆくと、二本立てられた棒に張られた注連縄が見えた。この注連縄は「この先危険」の印だ。風魔は月一族、地獄を監視する当主の血筋で力もあるので問題ないが、作業をする絡繰女や一般の者は、踏み越えて入ってはならないとしている。
それもそのはず、道は消えて石と土の地面となり、青白く血の気の失せた遺体や、もはや朽ちた髑髏(されこうべ)が転がっていて、近寄るほどに死の臭いが強くなり、当主はあの日の地獄行脚を思い返して、思わずすり足で警戒しながら近寄るのであった。
地獄の魑魅魍魎はほとんど当主自ら誅し、安全を確認した上で絡繰女に作業をさせているので、この先に魍魎が潜んでいることはないはずだ。それでも、気を抜けば一瞬の油断が死に繋がる。風魔は警戒心をはたらかせつつ、下層へ歩みを進めた。
「う……。そうか、ここには針山があったな」
当主として巡っていた時の地獄は、入る度に構造が違うような気がしていたが、この地獄を棲み処としていた邪神なき後は、その形も定まったようである。いや、邪神が感覚を狂わせ、おなじ地獄を別の道筋に見せていただけであるのか。今となっては風魔に最早知る術もないが、この場所を「利用」するには定まった形である方が都合がよいので、あえて風魔は思考をそこで打ち切る。
「吊り橋を渡し……いや、それでは危ない。土で埋めた後、上に板を敷いて、踏み固めることとしよう」
そう、風魔にとって重要なのは、これまで調査を重ねてきたかつての地獄ではない。この地獄だった、いや地獄とされていた場所を、領地として有効活用する事であった。
邪神なき後、10年という長いようで短い月日を経て、琉球王国の人口は爆発的に増えていた。それまで脅かされていた命が害されなくなったことばかりではなく、恐らくは邪神のせいで失われていた輪廻転生のしくみが、戻ってきたのだろうと思われる。解放された魂が此岸と彼岸を巡ることで、人はゆたかに命を育むことができるようになった…のかもしれない。
それだけなら、良い話であったのだ。人口爆発により、元々島国で土地のない琉球王国は、路上に人が溢れたり、食糧に困ったりという新たな問題に直面していた。繁栄による産業振興は、少ない野山を切り開き、異常気象や獣害を招いた。
そこで当主、二十七代月風魔の提唱したのが「もともと地獄とされていたが、現世として取り戻した地を、移住可能な場所にする」というまったく斬新な計画である。家臣の多くは怪訝な顔をしたが、結局ほかに解決策もないということで、地獄の絡繰女たちを館で修繕し、作業員として使うことを皮切りに、地獄の開発が進んでいた。
着手から一ヶ月という状況にしては、忌地の多くが現在居住可能となっており、このまま順調に作業が進めば、一年もかからず古宮都まですべてを居住地域にできる予定だ。
風魔は周囲に魍魎のいないのを確認すると、その場に座し、向こうに転がっている白い頭蓋骨を眺めた。
「この地の整備が済んだら、次は移住の手筈だな。家財道具は……まあ、箪笥ぐらいなら私一人でも運べるか……」
箪笥と鈍器はどちらが重いだろうか、などという、冥府下りでは考えもしなかった事を考えながら、風魔は立ち上がった。具足の土埃を払うと、先に見えていた頭蓋骨を拾い上げ、忌地の片隅に立てられた無縁塚の方角へ足を向けた。
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タイトルが何らかをもじっていますが、実は遊んだことがないのでプレイネタとかは特に入ってないです。
どっちかというと月氏の館は魑魅魍魎撲滅センターだと思います(小声)
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