月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『遠き世の貴方を思う』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆様こんばんは、九曜です。

お盆も過ぎたことだし、今回もお盆関連のお話を書こうと思って急遽筆をとりました。
月風魔伝UM、地獄とか生死にとかく縁のある話ですので、この時期になるとどの程度まで現代の風習が生きているのか(いちおう未来の話だそうなので)気になったりします。
寿壊で文字通りぜんぶ壊れたのか、なんらかで伝わって残っているのか。個人的には月一族が書物とかで遺してたらいいなあ…とか思ったりもしますが、そのあたりはゲーム内で知ることはできず、推測するしかありません。

なお、今回はクリア後の話なのでシナリオ上のネタバレが大いに含まれます。
大丈夫な方は追記よりどうぞ。





遠き世の貴方を思う


 あの地獄行脚の日々は過ぎ去り、花は散り、夏。二十七代当主月風魔は、白い入道雲の湧き立つ昼過ぎの空を仰いで、ふう、と長く息を吐いた。暑い昼下がりにいつもの鎧姿とはゆかず、ゆったりした麻の着物に幅の広い帯を腰で締めて、羽織はとらず、石床を歩く時は裸足に草鞋を突っかけるといった、休む日の格好であった。
 早くも新盆がやって来るのだと、縁側に座り頬杖をつくと、風が赤く長い髪先を揺らした。新盆。そう、他でもないあの人の。

 地上に戻り暫くは、その人の部屋を時折掃き清めながら、帰るを待ちわびた。もしかしたら、魂は地上へ還り着いたかもしれぬと。ひょっとしたら、滅んだのは地獄の中のかりそめの肉体だけかもしれぬと。
 数日が過ぎ、ひと月を跨ぎ、四十九日を経た頃。ふと日めくりの暦に目がいって、不思議と、その人が二度とは還らぬと確信した。亡骸を持たぬ虚(うつろ)の棺と、名の刻まれた墓石が用意され、形だけの「葬式」が一族の内で行われた。
 かつてその人の居た部屋は、今は家臣が政務に励むための仕事部屋となっている。床の間に掛けられた、月一族家訓の書かれた軸だけが、在りし日のままずっと掛けられっぱなしで、今では家臣たちを見守るように揺れていた。

 月一族当主としてのありようやなすべき事は、先代の父より教わった二十七代であったが、世俗作法については疎い。新盆についても調べねばならぬ、と向かった先は、宝物殿の資料棚であった。そこには古今より一族に伝わる数々の伝書に加えて、あの部屋から移したいくつかの書物が納められていた。
 そういえば、あの人は何を訊いても決して手放しで「わからぬ」とは答えなかった。こと細かに答えてくれるか、持論を述べた後で「私も知りたい事だ。後で調べておく」というのが口癖であった。その度に開かれたと思しき、生活のいろはが記されたくたびれた本を抜き出して、二十七代の目からぽろりと涙が零れた。泣こうと思って泣いたのではないと、手の甲で拭い去り、目次の項を開ける。
 周囲の色など失せたように、集中して読み進めてふと、二十七代は思った。あの人――わが兄も、同じような景色を、この本に見たのだろうか。それらを知って、何を考えたのだろうか。人の考えは推し量ることはできても、正確に読み取ることはできない。ましてやあの思慮深い人の考えを見透かすなど、この先一生かかってもずっと弟のままの二十七代にとっては、到底できない事のように思えていた。だが今、兄を喪い、当主たる立場になって、誰にも頼らず当主たらんとする男の気持ちに少しだけ、近づけるような気もしたのだ。
 捲った頁は茶色く焼けて変じていたが、書きつけられた文字は読み取ることができた。用意するもの、その日取り、細かい作法や心の持ちようなど、活字をひとつずつ呑みこむように頭へ入れて、二十七代は本を閉じ、元の棚へ静かに戻した。

 宝物殿の外へ歩み出る。少し傾いた太陽が穏やかな光に変じ、雲はゆったりと散り、夕刻を告げようとしていた。庭の小川のせせらぎの合間で、ヒグラシが切なげに鳴いた。



++++++++++
過去「ずっと兄上の部屋がそのままになってる系の話」を書いた気がするんですけど、今回は兄上の部屋がちゃんと再利用されている話です。ずっと引きずってる二十七代君も良いなら、次に生かすよう采配する二十七代君もまた良いので、ここはセーブデータが違います。という表現がゲーマー的には一番しっくりくる。
途中まであの人だとかその人だとか喋っているのが「わが兄」と記されるタイミングの直前で泣きが入っています。この段階で、二十七代君は思考の上で逃げることをやめ、「亡き兄上」と向き合おうとしたわけです。もう亡き兄に対して「この先一生かかってもずっと弟のまま」という意識があったのは、弟として兄を立てていたことがよくわかる感じになっています。我が家の二十七代君は兄上大好きです(いつもの)(老舗の味)

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