月ノ下、風ノ調 - オレカ二次創作『青い花 - another』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
こんばんは、九曜です。

先週フラグを立てましたので、今週は回収をば。
青い花』を視点変更したもので、前回は覇将ネルガルサイドのお話でしたが、今回は参謀エンリルサイドのお話となっています。






青い花 - another


最近、なんとなく寝つきが悪い、と上官のネルガルに相談された。
メソタニアの見通しが立たない不安が原因とわかっているから、そう都合の良い特効薬もない。
加えて自分は寝つきが悪くないので、何の対策も述べようがない。
そんな折、どこかで耳にした『ある噂』を私は思い出した。

「紙……何でもいいですが、なるべく白色の強いものに、コウ、三角形を二つ重ねる感じで六芒星を書いてください。その中央に『青い花』と書いて折り畳んで、寝る前に右手に握ってください」

ひととおりその手法を教え、必要となる朱書き用のインクも持たせると、ネルガルは訝しむでもなく、満足そうに去って行った。
そのまじないの意味も知らずに……つくづく単純な男だ、とほくそ笑む。
もっとも、クーデターはほぼ成功し、このネルガルという男ももはや用済みであるから、ちょうどいい「実験材料」ぐらいにはなるだろう。

先のまじないは『青い花』と呼ばれるもので、この手順を正しく踏むと、異世界へ飛ばされ帰ってこられなくなる、という。
あくまでも噂であるし、もしかしたらただの脅かしかもしれないとは、思う。
だが「本当に生きることが嫌になったら、試してください」と、背筋の凍るような但し書きがついていたほどだ。
到底、自分で試す気にはなれなかった。

そこへ先の、解法が曖昧なネルガルの相談、である。
良い機会だ、ぐらいに思い、私はネルガルがどんな目に遭うかなどをつとめて考えずに、ただ翌朝その男が居なくなっていた場合の、言い訳ばかりを考えていた。

*  *  *

滅多に夢など見ない私が、その晩は夢を見た。
王宮のネルガルの部屋で、ネルガルと一対の揺り椅子にそれぞれ腰かけて、話をしている。
話の途中で、私はふと窓が気になり、目線をそちらへ向ける。
いつ仕入れたのか、花かごいっぱいに盛られた青い美しい花が、開けた窓から吹き入る風に揺れていた。

――青い花は好きか。

そんなことを不意に尋ねられた。
ああ、私がそちらを見たからだろう、とネルガルの顔に目を戻す。
たちまち、背筋の凍る思いがした……目の前の顔は、その男とは思えないほど気味悪く笑い、歪んでいたのだから。
言葉に詰まり、答えられずにいると、再び問いかけられた。

――青い花は好きか。アオイハナはスキか。アオイハナハスキカ。

繰り返すたび、声がネルガルのそれではなくなってゆき、歪んだ笑顔に黒いもやがかかりはじめた頃には、私は弾けるように部屋を飛び出していた。
廊下に出て、螺旋階段を駆け下り、下の階へ。
男とも女ともつかぬ声が、その間も絶えず背中から追いかけてくる。
図体はネルガルの癖に、異様に足が速い。気を抜いたら追いつかれてしまいそうだ。

夢の中の王宮には誰もおらず、これでは正面の門は開かないだろうと判断する。
兵士が数人がかりで開けるような扉が、そう都合よく開いているとも思えなかった。
代わりに、裏庭へ通じる西廊下の非常口を、一直線に目指す。
幸いにも背中の声はだんだん遠のいてゆき、非常口に外から閂をかけてしまえば、あの奇妙なネルガルでない何かは、無人の王宮にあっさり閉じ込められた。

ほっとしたのもつかの間、追いついてきた気配がドアノブを掴んで揺すり始めたらしく、木の扉がギシギシと、大きな音を立てて軋む。
驚いた私は、閂だけでは頼りなしと、こちらから戸を押さえつけた。

(これは夢だ! 夢なら覚めろ! 早く!)

壊れそうな程大きな音を立て、無理に押し開けられようとするドアを、全体重をかけ必死に押さえる。
祈りながら意識の覚醒を待っていた、その時だった。

「くっ……開けっ……開けえええッ!!」

その声はあの「何か」ではなく、確かに覇将ネルガルの声で、それもこのドアのすぐ向こうから聞こえた。

「覇将様!?」

どういう事なのかはわからないが、慌てて閂を外し扉を離れる。
鼻先を開いた戸が掠め、同時に金の鎧を着た、よく見知った男が転げ落ちてきて――。

*  *  *

ネルガルにぶつかったと思った瞬間、目の前が明滅して、私はようやく現実に引き戻された。

「わあっ!?」

素っ頓狂な声を上げて、驚き目覚めるなど、我ながら情けない。
しかしそのことを切なく思うより先に、見慣れぬ天井が目に飛び込んできて、私は慌ててはね起きた。
まだ白みはじめたばかりの部屋を見回す。
背の高いテーブル、自分のものではない一対の揺り椅子、衣装かけに吊るされた見覚えのあるマントと、その傍に置かれた鎧。
そして、自分の寝ていた床のすぐ傍に、寝間着姿で転がっている、ネルガルの姿。

(どういうことだ!?)

わけがわからなかった。
自分は昨晩、いつものように寝間着に着替えて、自分のベッドに潜ったはずだ。
目覚めたそこは明らかにネルガルの部屋であり、いつの間に着替えたのか平素の魔道着姿で、寝転がっていたのだった。
頭が痛くなってきて、右手で押さえようとすると、掌から何かがするりと抜け落ちた。

「えっ?」

多少握りつぶされたようではあるが、それが白い紙であると認識した瞬間、ぞくりと全身が総毛立つ。
恐る恐る拾い上げて、震える指を制して広げる――かろうじて読める『青い花』の文字と、六芒星。
ネルガルが試したはずのものが、なぜ自分の手の内にあるのだろう。
考えることを放棄したくなったが、そんな私を、ひとつの呻き声が現実に引き戻した。

「あおい……はな……うう」

床で寝ていたネルガルが、そう、うわごとで呟いていたのだ。
あの夢が脳裏を過る。まるで人と思えないネルガルの、気持ち悪いほどの笑みが、思い出される。

「覇将様! 覇将さまっ!」

私はなりふり構わず、その男をすぐさま起こすことを選択した。
あの言葉を繰り返すうちに、悪夢が現実になってしまう気がして――寝ぼけているネルガルの頬を、思うように力の入らない手ではたく。
目をこすりながらようやく起きたネルガルは、いつも通りの自分の上官だった。

「は、覇将様! ご無事でしたか」
「エン……リル……? なぜ、ここに」
「なかなか起きないと思って来てみれば、ベッドから落ちて魘されていたものですから……」

まさか、知らぬ間にここで寝ていた、とは口が裂けても言えない。
さっき起きたばかりであるのをいいことに、嘘八百を並べ立てる。
それまでひどい寝汗を拭っていたネルガルが、はっとして、あちこち何かを探し回り始めた。
なんとなく「何か」の予想がついて、私は右手に握った紙を差し出した。

「探しものは、これですか?」

ゆっくりと広げた掌に、ネルガルの視線が注目する。
そうだ、と言う代わりに無言で頷かれ、私はまた適当な言い訳を繕わねばならなかった。

「覇将様、これを握って呻いておられたので、もしやと思って私が取り上げたのですよ。どうも人により、悪いまじないにもなりうるもののようですね」

白々しい、と自分自身に嫌悪しつつも、続いて紙の処分を提案する。
あれだけ魘されていれば当然かもしれないが、果たしてそれは快諾され、私は『青い花』と書かれた気味の悪い紙を手に、ネルガルの部屋を退出した。

*  *  *

メソタニア宮殿の廊下は、すっかりいつものあわただしい光景に戻っており、人の声があることに安堵する。
裏庭で紙を焼き捨てようと、歩く――ネルガルの部屋から裏口へ向かう道筋は、当たり前であるが、夢で走ったものとまったく同じだ。
いつまた、あのかん高い声が追いかけてきやしまいかと、びくついて何度か振り返ってしまう。

裏庭へ通じる戸が見えてきた頃には、その不安もようやく晴れ、夢は夢なのだ、と思えば気分も大分落ち着いた。
私はあの夢よりもずっと穏やかに、木の扉を開くことができた――はずだった。

「ヒトヲノロワバ、ハナ、フタツ」

耳元で聞こえた抑揚のない高い声に、私は外の景色を見る間もなく、そのまま意識を失った。




++++++++++
と、いうお話なのでした。
同じ話なので流れもほぼ同じになっておりますが、こちらの方が「実行犯」側の話なので、先の話よりも恐怖の面を強く打ち出しています。遊び半分で人を異界に送ろうとしてはいけない(教訓)
覇将はいわゆる呪術の被害者だったことと、もみ消そうとした参謀によって落ち着いた感じに終わっていましたが、参謀は加害者ということで、もう思いっきり怖い目に遭ってもらっています。
なお裏庭入口で気絶してる所を兵士に報告されて何をか問われても「なんだか具合が悪くて眩暈がしたので」とか嘘言います。あの参謀なので。

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