月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆様こんばんは、九曜です。
今日は短いですが、月風魔伝UMのお話です。
今日は短いですが、月風魔伝UMのお話です。
当主の使命
忌地の奥で待ち受けていた龍骨鬼を倒し、荒波うねる地獄の一層へ降り立った二十七代当主月風魔は、絶えずやってくる地獄の魍魎たちを鈍刀で薙ぎ払いながら、足場を跳び跳び先へ進んでいた。
見かけ、海近くの岩場といった景だが、天井の暗雲より鍾乳石のようなものが垂れ下がり、宙に不思議と浮かんでいる大岩から絶え間なく流れ出る滝水など、現実ではおよそ考えにくい光景に、ここはやはり地獄の何丁目かなのだ、としみじみ思う。
足元には息絶えた青白い死体がいくつも転がり、それらをこの水場に棲む魍魎が糧と食い破って、惨憺たる地獄絵図である。そのような事で吐き気を催していては当主なぞ到底務まらないが、地上を治める月一族たるもの、やはりきりりと胸が痛んだ。
かれらは地獄で服役中の身であった何者かに違いない。古来より、裁きを受け地獄へ送られた者らは、長い長い服役の果てに浄土へ行き輪廻を許されるという。それが今や、溢れ返った魍魎の餌食となって、このように地獄の土くれとなるしかないことに、地獄行きの是非、前世の行いはさて置いても、憐憫を感じずにはいられないのであった。
岩場を渡り、飛びかかって来る怪魚を斬り捨て、寄ってきた水霊を背負った鈍器で叩き伏せると、その先に石碑が見えた。
地獄の石碑は現世のそれのように、誰かが何かを刻んで物理的に設置したものではない。この地獄に滞留したものたちの思念が固まり、石碑のような形として場に残ったものだ。残留思念がわずかな生気を帯びることから、月一族はかれらに伝わる秘法を用いて、そのわずかな生気より生命力回復のための薬を作り出すことができる。
ここまで走り抜けて来た疲労も相まって、二十七代はここで薬を調達し、ひと息つこうと考えた。腰を下ろし、鈍器を傍らに置く。それにしても、誰が何を思うた証であろうと、浮かび上がった文字を読み下す……
『侘しげなる身、ひもじき日々。貧しい私はかような地に逃げるしかなかった。幾万の苦しみがあることは地上も地獄も変わらない。』
二十七代は顔色を失い、座り込んだまま動けなくなったように、もう一度碑文を読み返した。何度読もうがそこに刻まれている言葉に変化はない。哀しみの涙に暮れるよりも、己の無力さが先立ち、背中を丸め肩を落とした。
月一族の治めてきた世というのは、此度、魍魎が地上へ溢れ出てから急激に荒れたわけではない。そのずっと前より、時に男女の権力争いがあり、時にお家の後継者騒動があり、あるいは当主が人間として未熟だった時代もあってか、すべての民が平穏幸福とは言い難い在り様であった。
二十七代はまだ当主になって日が浅いが、それでも当主ながらに、民の住みよい世を築き、世界の脅威には立ち向かう意志がある。この石碑はその威勢を削ぐように、しかし悪意はなくただ事実を伴って、寂しく佇んでいた。
(貧しさのあまり、逃げ込んだというのか。かような地へ!)
当主の第二子息として、何に困ることなく育ってきたという実感が、座り込んだわが身をとらえる鎖となって、二十七代の息を詰まらせた。決してそこらに立ち込める腐臭のせいではない。持たざる者の切なる叫びは、不幸をついぞ知らぬ者にとっては、絢爛豪華な建物の縁の下、あるいは天井裏でも覗き込んだように、暗く奥底から迫って来るものだ。
思わず頭を垂れ、手を合わせ合掌する。今この場にいる二十七代にできることは、かの者のやすらかな来世を願う、それだけであった。
このまま地獄の大穴が広がり続け、異変が収まらねば、「地上も地獄も変わらない」者たちがまた現れるに違いない。それだけは何としても避けなければならぬ。月一族の当主として異変を払い、憂いを退け、国を豊かにしてゆかねばならない。
回復薬を調合するのもすっかり忘れ、二十七代月風魔は勢いよく立ち上がり、先の戦で使った鈍器を背中に負うて、腰に提げた鈍刀を抜いた。一刻も早く、異変の元凶を突き止めねば。行方不明の兄に、どこかにいるなら見守ってくれ給へと願い、次の足場へ踏み出す。
眼下に荒れ狂う波の躍り散る岩場と、裂けた大口を開けて飛び交う怪魚の群れが見えた。
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今回は大洞の石碑を題材に、短いお話を考えてみました。
この石碑を解説した時、個人的にかなり悲しい気持ちになったのと、月風魔伝UMの世界における此岸の治安などを考えるきっかけになったので、当主の立場で考えてみたらきっとこう思うだろうな…と考えながら書いてみました。
ついでに、私の中の石碑の解釈なども含めて解説されているので、地獄の石碑って何?みたいな所も少し分かりやすくなっていると思います。なっていればいいな…。
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