月ノ下、風ノ調 - オレカ二次創作『ただ、そこに』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆様こんばんは、九曜です。

まずは業務連絡なんですが、来週のブログは0時公開(予定)となります。
ゲームすきーの方でサントラアドベントカレンダー企画に参加させて頂いており、そのトップバッターとしてブログ更新日の12/1(月)を意気揚々と予約したものの、「公開は12/1の0時になります」と主催さんに説明され、基本19時更新の私大慌て。
19時じゃだめですか?ときいたら前日に投稿してほしいとのことだったので、じゃあ0時になんとか更新できないかと調べたところ、このブログ、投稿時間を設定できるようです。予約投稿なんて一切しないから知らなかったよ………。

というわけで、前日までに記事を予約投稿→そのURLをアドベントカレンダーに登録→12/1の0時になったら公開、という流れになります。
あ、当日0時にNINJA TOOLSがサーバダウンやエラー等を生じて、予約投稿がされなかった場合は、私が異常事態に気づき次第記事を公開する予定です。ただPC使えるのが基本夕方以降なのでその場合アドカレが読めるのは夕方からです。

さて本日はオレカバトルのアーカイブ、『客人編』のお話なんですが、前回アーカイブしたお話からだいぶ後のものとなっています。
途中かなりすっぽ抜けていますが、なにぶんまだ途中の重要な話ができていないので(二人旅編からなにも学んでいない)アーカイブできるところからしようかなって感じで…
あとこの客人編、常に覇将と予言者がいいカンジnowなので、なんかそういうの大丈夫な方だけどうぞ。苦手な人には無理におすすめしないので。






ただ、そこに


石を積む音、木に釘を打ち付ける金槌の音、人の声。
ここ数日、メソタニア王宮の周辺は、祭りでもないのにとても騒がしかった。
まだ細かな補修の済んでいない箇所はあるが、メソタニアの白い王宮は、人の住める程度に修復されつつあった。

狂王となっていたマルドクが正気を取り戻し、姉のダムキナや側近のエンキに連れられ、風の王国メソタニアへと戻ってきたのは、もうひと月近くも前のことだ。
国を占領していた魔皇ラフロイグの軍勢を追い払い、一行は王宮へと無事帰還することができた。
荒れ果てた宮殿、悲惨な国内の光景に一時は絶望したものの、マルドクは生き残りの兵たちとともに、これを再建することに決めた。
国にマルドクが戻ったことは、風の噂で伝わったらしい。混乱を逃れ疎開していた国民たちも、もとの生活を取り戻すため、ちらほらと戻ってきていた。
市街地の復旧を進めつつ、マルドクたちは王宮や城壁の修繕にも着手した。

その最中、思わぬ人物がメソタニアへ戻ってきた。
マルドクを狂気に駆り立て、国を掌握せんとした将軍ネルガルと、過日に王宮を離れ、いずこへともなく消えた予言者シビュラであった。
長旅でもしたのか、ふたりは衣服などあちこちが破れ、傷だらけで随分とくたびれていたが、マルドクが見間違えるはずもなかった。
ネルガルに従っていたはずの参謀エンリルは、その場にいなかった。

聞けば、エンリルが魔皇と通じ、メソタニアを乗っ取ろうとしていたという。
エンリルの目論見に気づいたネルガルは、わずかな手勢とともに魔皇に立ち向かったが、それを討ち果たすだけの力はもはや残っていなかった。
折しも、メソタニアに戻ってきたシビュラと合流し、敵の動きを探りながら、遠い場所へ逃げ延びていたということだった。

ネルガルはおのれの過ちを償うため、自ら斬首を申し出た。
傍ら、普段は黙して何も語らぬシビュラから、その赦しを乞う言葉がマルドクにかけられた。
マルドクはネルガルを死罪とせず、代わりに二度と二心を持たぬことを約定させた。
自身も狂気にかられ、戦乱の一因となったという気後れが確かにある。
ただそれでも、ネルガルにすべての罪を被せて見せしめとしなかったのは、マルドクにとって重い決断だった。

*  *  *

ネルガルの処遇が決まって翌朝、シビュラは王座の間に呼ばれた。
場には処刑を免れたネルガルをはじめ、将軍エンキや親衛隊長などがずらりと並び、みな一様に跪いていた。
一段高い位置で王座に深く腰かけるマルドクは、統治者らしく堂々とした佇まいで、こちらを見据えた顔つきもきりりと引き締まっている。
シビュラは前に進み出て、膝をつき、軽く頭を下げた。

「シビュラ。頼みがある」
「頼み?」

開口一番、マルドクの口から意外な言葉が飛び出し、思わず顔を上げる。
先日の助命嘆願について、何をか言われるとばかり思っていたが、それとは別件らしい。

「メソタニアは今、復興が始まったばっかりで、ボロボロだ。その責任は俺が負わなきゃいけないし、誰に押し付けるつもりもない。だから、シビュラが良かったらでいい。もう少し、ここに居てもらえないか?」

マルドクは一言一言を噛みしめるようにゆっくりと、時折シビュラの方をまっすぐ見つめながら、こう告げた。
シビュラはその言葉を咀嚼するや、わずかに目を細めた。

「……私がここに居たところで、何の役にも立たない」

冷淡というより、どこか諦めているような口調で、返答する。
シビュラの持つ『予言書』は、権力者には魔法の書さながらに見えたのだろう。
これから起こることが、未来がわかる。先見の明を求められる立場の者が、その力を欲しがるのは当然だ。
しかしシビュラの言うように、予言で何かがわかったとしても、それを避ける手段はなかった。
ある一定の条件が揃えば――たとえば、世界じゅうの生き物が手を取り協力するような事があれば――変えられるのかもしれないが、一国の権力者にそのような力はない。
シビュラは長い間、その栄枯盛衰を見つめ続け、やがてこの力は世に要らないのだ、と悟った。

「予言書の記す未来は絶対だ。決して抗うことはできない。かつてさまざまの国主から、私は予言を求められたが、誰もが予言の通り死に、滅びていった」

過日メソタニアを訪れた際、やはり予言の力を勘違いされたまま、シビュラは客人として迎え入れられた。
その時は、理由など何でも良かった。人の中に身を置くこととは何か、を知りたかった。
そして、メソタニアが崩壊を迎える前に、あっさりと国を脱してしまった。
わざわざ結果の知れている内乱に、付き合う義理も道理もなかった。
しかしクーデターが起き、これまで関わった人びとに危機が迫り、シビュラは初めて自らの意志で、メソタニア王宮へと駆けつけた。
かつて自分を守ってくれた者を、過ごした国を、失うことが嫌だった。
覆るはずのない予言を目にしてなお、その想いはシビュラを突き動かした。

「もし私の『予言』が、この国に必要と思うなら、それはただの錯覚に過ぎない。私がこの国でできることは、何もないだろう」

今、かろうじてネルガルは助かり、マルドクも狂気を振り払って、メソタニアは復興への道を歩み始めている。
だが、王子のマルドクや家臣であるネルガルはともかく、自分がこの国のために何をできるかと考えた時、明確な答えは見つからなかった。
マルドクたちの求めるものが『予言』の能力であるというのなら、決して役には立てないのだという、一抹の無力感がそこには漂っていた。

「違うんだ。俺たちがシビュラに求めているのは、予言なんかじゃない」
「何……?」

マルドクは首を横に振る。
それがどういうことか理解しかねて、シビュラは落とした視線を上げ、思わず疑問を口走っていた。

「今は一人でも、多く人が欲しい。けど、それは誰でもいいわけじゃない。俺たちが信ずるに足る者が、今のメソタニアには必要だ」

マルドクの大きなエメラルド・グリーンの瞳は、光の差し込む湖面のように、輝きに溢れていた。

過日のマルドクらは、シビュラの言うとおり、予言に誤った淡い期待を抱いていた。
予言という能力が、この国の助けになるだろうと……しかしそれは何の助けにもならず、メソタニアは「予言どおり」崩壊の危機を迎えた。
ただ、その出来事が教えてくれた何かも、今のマルドクにはわかる気がした。
魔皇と密約していたエンリル、道を踏み外した家臣ネルガル、付け入られた自分。
いともたやすく崩落した強兵国家は、必要なものを欠いていたのだろうと。

「理由がどうあれ、シビュラはメソタニアが危うかった時、それに今もこうして、戻ってきてくれたじゃないか。家臣でもないのに、よく今まで生き延びて、ここへ来てくれた。俺はそのことを嬉しく思ってるし、お前の気持ちを汲んでやりたいと思う」

狂気にかられ、一時的とはいえ魔皇に国を奪われた過去は、マルドクの心を未だに掻き毟るが、同時に背中も押してくれた。
過去は変えられないが、犯した過ちを正して、前に進むことはできる。
この国に本当に必要だったのは、予言の力ではなく、確かな人のつながりであったのだろうと――景色の少し変わった玉座からの眺めとともに、マルドクは考えていた。

「シビュラ。私からも頼む。居てもらえぬか」

傍で控えていたネルガルが、小さく声を発する。
普段であれば、このような場で一家臣が私的な口を挟むなど許されないだろうが、その時のマルドクは黙認するように、ふいと視線をネルガルの方から外した。
シビュラは、ちいさくひとつ息を吐いたあと、返答のための言葉を紡いだ。

「……わかった。しばらくここに居よう」

*  *  *

その日の昼下がり、シビュラはかつてあてられた、客間のあった場所に向かった。
突き当たりの廊下には、かつてのような豪奢な彫りのある扉ではなく、間に合わせで作ったような板の戸がはめられている。
この廊下は、もう少し長かったはずだが……違和感とともに戸を押し開けたシビュラの口から、あっ、という声が漏れた。

地面にぽつんと柱の土台だけが残され、あとは乾いた土があるばかりの地面。
一階の廊下の奥に位置していたそれは、魔皇の襲撃時に部屋ごと崩され、更地にされたらしかった。
何もかも傷ついた状態からの再建、客間のひとつやふたつは不要とされたのか、あるいは修繕費を抑える名目か。
案内された新たな居室が、過日の客間と違ったのは、きっとこのせいだったのだろう。
冷たい風が吹いては、立て付けの悪い戸ががたぴしと音を鳴らして、シビュラの耳をいたずらにくすぐった。

(予言書には、このような事、書かれていなかった)

右腕に抱えた『予言書』にちらりと視線を落とす。
崩壊しかけたメソタニアに、再び迎え入れられるという未来は、予言書をなぞっても見えなかったものだ。
元々、自身の未来を読み解けない不完全なものだと思っていたが、この書は自分の思う以上に「何も書いていない」のかもしれない。
さりとて、『予言書』を手放す気にはなれないが……今の自分であれば、一日ぐらいこれを失くしても、平穏に過ごせる気がした。

塗り固められてやや久しい程度の白い石壁に、そっと手をつける。
手袋越しでも伝わってくるひんやりとした温度、石の硬さ。
あの日が見納めになったか、そこまで読み解こうとはしなかったが――そんな他愛のないことを、心の内にぼんやりと浮かべる。

「シビュラどの、ここに居られましたか」

少し広くなった中庭の懐かしい一角で、何をするでもなく佇んでいると、背後から声が掛かった。

「エンキ将軍」

しゃがれてこそいるが、落ち着きのあるしっかりした声は、老将エンキのものだ。
浅く焼けた肌に黒い鎧。たっぷりとたくわえられた髪は、老齢ですべて白髪となっているが、かつてはマルドクのように金色だったのだろうと思う。
エンキはやれやれ、とそこに腰を落とし、立ち膝の姿勢になると、視線を地面に落としたまま、こう切り出した。

「裏切り者とは言え、エンリルはネルガル将軍の片腕だった男。将軍は豪気に見えるが、エンリルを失ったことを、心中つらく思っておるじゃろう。だから……」
「私は、軍事には明るくない。エンリルの代わりにはなれない」

すぐさま言葉が返される。
そこには、シビュラらしからぬ動揺も入り混じっていた。

シビュラにとってほとんど唯一の「負い目」であったのだろう。ネルガルにとって、エンリルは有能な片腕であり、またエンリル自身も類稀なる軍才と智謀を持ち合わせていた。
いくら容姿や雰囲気、種族が似通っていようが、自分にそんな才はない。
過日、ネルガルがエンリルに求めた役目を、果たせる気などしなかった。

「そういう意味で言ったのではない。将軍は片腕としての男が欲しいのではなく、シビュラどのにただ、傍にいてほしいだけと見える。ぜひ、そうしてくだされ」
「ただ傍に? それが一体、何になる?」

その問いに、エンキは困ったように溜息をついて、言葉を選ぶように、こう紡いだ。

「……将軍にとっての、何か、になるんじゃろう」

ぱらぱらとフードに当たる音が、にわか雨の到来を知らせる。
エンキも気づいたらしく、そこで会話を切り上げて、宮殿の中へと戻って行った。
シビュラのためと開け放たれたままの戸口を、くぐってすぐさま、後ろを名残惜しそうに振り返る。
濡れはじめた大地は、かつてそこに何があったかを、雄弁に語ってくれるはずもない。



++++++++++
というわけで、特大イベント終了後のメソタニアでした。
特大イベントの中身は鋭意執筆中ですが、とりあえず「客人前期」についてはいくつかお話をアーカイブしているので、その部分との差については多少感じてもらえるかな…と。
間の話については、また折々にアーカイブしていく予定です。

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