月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『鬼の手を借りる』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
今宵も元気に月風魔!
UMワンドロライが近いので、そろそろ絵も文もリハビリしたい九曜です。

本日は…お話です!書き下ろし!
明日が節分なので、鬼にちなんだ話にしてみました。






鬼の手を借りる


 西暦一万五千六百餘年。時の月氏当主・二十六代月風魔が、地獄調査のため冥府下りをしていた際の出来事である。
 辺獄の忌地に蔓延りはじめた骸(むくろ)の一団を討ち捨て、崖を下ってゆくと、かれは洞穴に並ぶ異形の像の群れに出くわした。見かけはよくある石でできた地蔵のようだが、頭に角が生えていたり、双頭であったりと、それらが十も二十もずらりと並んだ光景は、奇怪であった。
 何ぞ、ここでは異界の者が、かれらの祀る神仏像でも建てているのか……そう訝しんだ時、二十六代の前にゆらりと大きな影が現れた。
 体躯は、成人男子としては長身の二十六代よりも頭ひとつ、体ひと回り大きい。筋肉のついた太い腕や足は、人間のそれよりは仄赤く、ごつごつと筋ばっていて荒々しい。枷にも見える金属の輪を手足に着け、上半身は裸で、下半身は短くたくし上げた袴履きである。何より目を引くのは、額の上に伸びた二本の角……この特徴を持つ魍魎は、月一族の当主ならずとも、誰もが知っている。

「地獄の……鬼……!」

 二十六代は、こちらを見とめた鬼に向けて剣先を構えた。かつて月氏一の剣豪と呼ばれた当主には劣るが、それでも今や師範代を名乗る腕前である。鬼が持っている金砕棒を振り上げようが、鋭い爪で引っ掻いてこようが、どうあれ対処できるだけの自負はあった。
 だが、鬼は二十六代の構えるを見るや、慌てて背を向けて、ばたばたと逃げ出した。向かってくる時は怒号のようなおたけびをあげ、さながら雷のようであるのに、それが不慣れな走りで逃げて行く姿は「てんてこ舞い」という言葉がぴったりで、二十六代は呆気にとられてしまった。
 場に吹きこんできた雨風が、二十六代をはたと現実に呼び戻す。
 恐れて逃げて行ったのではなく、仲間を連れて来られたら、あるいは何かの策があるやもと、二十六代は抜き身の刀を鞘へ戻し、鬼を追いかけることにした。鬼は力は強いが、足はそれほど速くはないようで、俊足が自慢の二十六代の走りでは、あっという間に追いつくことができた。

「待て! 逃げるな!」

 鬼の背へそう叫ぶと、鬼はまずちらりと振り返り、その後ゆっくり身を反転させ、しかし徐々に後ずさりし始めた。本来ならば般若の面のような怒気が顔から感じられない。むしろかれは怯えるように、眉根を寄せて、口を歪めていた。
 二十六代は抜刀しようとしたが、鬼の様子を見て不和を感じ、刀の柄に手をかけたまま、迫らずそこで止まった。こちらを害さんと向かってくる魍魎に、果敢に立ち向かうのは当主の務めだが、これでは一方的に弱者をいたぶるような図式だ。

「なぜ襲うてこぬ。地獄の鬼は、人間を痛めつけ、殺め、ときに食らうものではないのか」

 魍魎に人語が解せるかはわからないが、と前置きしてそう問いかけると、意外にも鬼の口からは、理解のできる答えが返ってきた。

「お、おれはそんな事しないオニ。ここで、オジゾウサマのおせわをしているオニ」

 語尾に「オニ」などとつく口調の鬼を見た事もなければ、そもそも人語で語りかけてきた鬼もこれが初めてで、二十六代はすっかり面食らってしまった。やっている事もほかの鬼のような虐殺ではなく「お地蔵様のお世話」である。鬼の世界にも役割分担、適材適所があるのだと、苦笑いが漏れる。
 理由はさておき、敵意がないことがわかれば、これ以上の「対処」も不要であろう。踵を返して去ろうとした時、鬼の方から声が掛かった。

「あ、あんたは強そうオニ。おれ、ここでオジゾウサマをおせわしていると、強そうなニンゲンがよく襲いかかってくるオニ。おれを守ってほしいオニ……」

 言われて、困ったのは二十六代である。「強そうな人間が襲いかかってくる」というのは恐らく、この辺りを調査に歩く月一族のことであろう。何より自分もそちら側であるのに、この鬼には敵意も害意もなく、むしろ力を認めて縋って来るというのだから、しがみつかれた蜘蛛の糸を無情に断つ気にもなれない。
 あれこれ考えた末、二十六代はひとつの妙案を思いついた。自分の家には学び盛りの息子が二人おり、二十六代は地獄の調査で忙しい日々。鍛錬も勉学も侍従に預けっぱなしで、「猫の手も借りたい」ほどだ。この際借りるのは「鬼の手」でも良いかもしれぬ。

「あいわかった。だが、我ら人間は地獄に住まうことはできぬ。お前がここを出、わが屋敷の仕事を手伝うてくれたら、それと引き換えにお前の『お地蔵様』の管理に優秀な護衛をつけよう。嫌なら断っても構わぬ。それでどうだ?」

 文献曰く、千年前には狂赤鬼という鬼が地上に住んでいたというし、鬼というなら屋敷をひと部屋貸すまでもなく、土間や小屋で寝泊まりさせても文句は言うまい。さらに、鬼の「護衛」という形で、息子たちに地獄の浅い層での実戦経験を積ませておくのは、決して悪手ではない。
 鬼はうんうん唸りながら悩んだ後、伏し目がちに二十六代の方を見て、こう答えた。

「わかったオニ。あんたに従うオニ」

 それより後、この鬼は月氏の館の一角に居場所を与えられ、時に息子たちのよき修行相手となり、時に地獄の異形の地蔵を丁寧に拭く仕事をしていたそうである。



++++++++++
というわけで、過去に公式Twitterで館に召使の鬼がいたので、かれが館に来た経緯を考えてみました。
もうちょっと余力があったら「月氏と節分の風習」みたいな話も書いてみたかったんですが、本日は時間切れなのでここまで。チョン。

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