月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆様こんばんは、九曜です。
こんな時間なんですが、アーカイブです。
明日ワンドロで気が気じゃなくなっているので、昨年のようにブログの更新をお休みしようと思ったんですが、何とか間に合いそうだったので仕上げました。
ジークと零の話ですが、二人旅編から派生するいわゆるパラレルエンド的な話のひとつです。
タイトル通りわりとこう薄暗い話なので、大丈夫な方だけご覧ください。
こんな時間なんですが、アーカイブです。
明日ワンドロで気が気じゃなくなっているので、昨年のようにブログの更新をお休みしようと思ったんですが、何とか間に合いそうだったので仕上げました。
ジークと零の話ですが、二人旅編から派生するいわゆるパラレルエンド的な話のひとつです。
タイトル通りわりとこう薄暗い話なので、大丈夫な方だけご覧ください。
暗殺依頼
濃紺の宙空に、月が明るく灯りはじめる夜。宵の生ぬるい風に、黒の衣が緩くなびく。
黒衣の下は、闇に溶けるような紫の軽鎧。細く締まった腰回りに、提げた黒い双刃。
暗殺者――アサシンを名乗るに相応しい風貌の男は、抑揚のない平たい語調で呟いた。
「けっ。シケた額だぜ」
前金として受け取った金貨を、右手の内でチャリ、と鳴らす。
成功報酬が大金だからと引き受けたものの、人一人殺めるための前金がはした金では、愚痴のひとつも言いたくなる。
その上、今回の依頼は覆面をかけた東国の者から受けたもので、依頼内容もだいぶ曖昧なものであった。
『標的は今宵、この宿の一階右奥の部屋に泊まる。寝首をかいてほしい』
名前も顔も一切、相手の情報をもらうことができず、ただそれだけの暗殺依頼。
詳細を尋ねても、目を細めて黙りこくられ、どうも「それ以上教えられない」ということらしかった。
その態度に、男……闇のジークは席を立ちかけたが、目を見張るような報酬額を示され、ならばこの感情もほんの一時だ、と胸の奥で握りつぶした。
* * *
指示された宿は歩くたび、ぎっ、ぎっ、と古びた木の廊下が音を立てる。
古ぼけた宿だ。思わず舌打ちが漏れる。こんな状態では近づくだけでも一苦労だ。
客としての泊まり賃は、あちらが持ってくれたらしいが、前金から差し引けば赤字になるような額だ。
こちらが払わなくて当然、と悪態をついて、月明かりの廊下に視線を散らす。
警備らしい警備はなく、一度高めた緊張も、すぐに霧消してしまった。
色々と不満はあるが、あれだけの報酬を蹴るのは勿体ない、とジークは思う。
桁を数えるに、要人か、権力者か、厄介な存在なのだろう。
だが、これまでの依頼はすべて完遂している。今宵も無論、その自信はあった。
二階の右奥まで足を向けると、見えてきた部屋はドアが開きっぱなしで、今日は誰も泊まらない空き部屋であることがわかった。
宿というのは、同じ位置にあれば、上下階の間取りもほぼ同じになっているものだ。
ベッドや家具の位置など、そっくりそのまま当てはまるのであれば、入ったことのない部屋であっても「ドアからベッドに一直線に走り、寝首をかく」ことは可能となる。
ひと気の少ない宿、却って幸いだ――寝静まった無人の廊下に、いちおう見回りのいないことを確かめて、中へ入る。
その部屋は、ドアから見て右手方向奥にベッドがあった。ドアを開けて飛び込めば、大股の3、4歩で届く距離だろう。
大きなテーブルが左手側にあり、手をかけてみると重たい。客が勝手に移動できるような代物ではないだろう。
まっすぐベッドに向かえば、歩線を遮られることはない、と判断する。
通りかかるふりをしてドアを開き、襲い掛かる……空き部屋でその動きを一度繰り返してみる。
ドアを開けてから、ジークの速度であれば数秒もかからず、布団に刃を突きつけることができた。
これまで何度も「依頼」をこなしてきたアサシンだけあり、その動きは素早く激しいが、立てられる音や振動は最小限のものだ。
階下に確実に聞こえていないとも限らないが、まさか自分が殺される音だとは思わないだろう。
満足げに目を細め、空き部屋を後にし、一階へ続く階段を下りる。
小窓から月の光が差し込み、わずかしか露出していないジークの顔を、青白く照らした。
* * *
ところどころに、月明かりの落ちた廊下を、歩く。
『作戦』を立てた安心感もあってか、先ほどまで耳障りだった軋む音も、さほど気にならなくなった。
通り過ぎる速度のまま、奥の部屋の前に差し掛かる。
ドアは左開きであるから、反対方向から飛び込もうとすればもたついてしまう。通り過ぎる前、一瞬の勝負。
バタン。
ドアが開け放たれる音とともに、ジークは飛ぶような速さでベッドを目指す。
寝た時の首の位置に、確実に剣を……両腕を振り上げ一気呵成に突き立てようとしたその時、めくれた布団から二本の腕が素早く伸び、ジークの両手首を制した。
「貴様、一体何者ッ!」
腕を掴まれた、その状態で膠着する。
ジークは目を見張った。月明かりに照らされたもうひとつの顔も、また。
「ジーク……!?」
あげた声には聞き覚えがある。こちらをみとめて驚いたような目も、前髪で半分隠れた顔のかたちも。
ジークが黒衣を纏い、人を殺めることを生業とする前。
主に魔物や鳥獣、ドラゴンなどを狩る風来の男――風のジークと名乗っていた時。
『独り、自由、気まぐれ』を信条としていた彼には珍しく、ともに長旅をした男がいた。
東方の生まれで、忍びと呼ばれる密偵のような職につき、口数少ない鉄面皮の男。
ジークは口の中で、その懐かしい名をくぐもらせる。
「零か」
お前だったのか、とちいさく呟き、ジークは掴んだ零の両腕を振りほどく。
零は手を放した瞬間、素早く布団を脱して距離をとり、背中の刀を抜いて構えた。
過日、黒髪だったそれは銀色に、青の忍装束や赤の覆面は黒一色へと変わってこそいるが、機敏な動きも鋭い眼差しも、昔会ったそのままだ。
そのことが、ジークをいくらか安堵させ、また高揚させた。
「先の上の物音も、お前か」
「気づいてたのか。さすがだな」
「お前に殺される謂れはない。ここで死ぬわけにもゆかぬ」
「そうはいかねえ。これも仕事だ、お前はここで終わるんだよ」
本意の言葉を発する零に対して、ジークの口ぶりは何かがすっぽり抜けたように、乾いてその場に転がった。
声が途切れるや、双方の切っ先が動き、互いの思惑を乗せ交錯する。
かち合った刀身が震え、細かく立つ金属音が耳を不快になぞる。
ジークの二刀を零は一本の刀でいなし、振り払った。
大仰な動きの隙を突くように、ジークは左腕を突き出す。その手首を蹴り上げられ、握られていた得物が高く飛び、天井にどすりと突き刺さった。
寂れた宿、上の部屋も空室であったから、人を呼ばれる心配はしなくていいだろう。
素早く跳んで引き抜き、着地と同時に零の方を見る。
零は隙のない構えをとったまま、じりじりと後ずさりしている。その背後には、開いたままの扉。
逃がすものかよ、と呟いて、扉近くの床に剣の片方を投げつけ、退路を断つ。
戸は間口も狭く、飛び越えて逃げられるだけの空間もない。零は諦めたように身を翻した。
向かう先など知れている……窓を割って出るつもりに違いない。
すぐさま窓を背にして立ち、そこから跳びかかって、一撃を浴びせる。
首を狙った剣閃は急所こそはずれたが、肩で息をつき背中を丸め、左手が鎖骨のあたりを掴んだ。
男にしては白い手を、暗い色の液体が汚す。
「やるじゃねえか。梃子摺らせる」
かつてともに旅をした男を、窮地に追い詰め、この手にかける。
おそらく最初で最後となるであろう依頼に、ジークは身震いする心地だった。
「……里の者の指図か」
「さぁな? ユーレイにでもなってから、調べるんだな」
もう一度跳躍し、渾身の力を込めて、ジークは剣を振り下ろした。
零は、どこにそんな力が残っているのか、右手だけでその剣を受け止め、弾き返す。
跳び退いた二人が、それぞれ床に足をついた時だった。
床面がぐらりと傾き、続いて起こる不安定な揺れ。
「地鳴り……ッ!?」
今までに感じたこともない強い縦揺れに、次の動きがとれない。真正面にいる零も、驚いたように辺りを見まわしている。
思えばこの時、さっさとトドメを刺してしまえば、あるいは窓を破って逃げてしまえば、結末はまた違ったかもしれない。
しかし、その選択をする余地すらなかった。
ドシンという強い揺れの後、目の前の景色がでたらめに切り貼りされるのが一瞬見え、ジークの体は床に倒れた。
* * *
「ジーク、ジークっ!」
木の軋む音と呼びかける声に、意識を引き戻される。
すぐ目の前には倒れた本棚らしき残骸。頭上に迫っている歪んだ木の板、何かにはさまれたようで動かせない左足。
部屋が潰れ、天井がすぐ頭上にあると気付くまでには、数秒を要した。
「おい、生きているか!?」
零の声は、真正面に見える残骸の向こうから聞こえた。
場に多量の埃が舞っているのを見て、稼業をする上ではあるが、覆面をしていることをジークは幸運に思う。
「ああ、死んでねぇよ」
目の前の残骸がごそごそと動き、ばらばらという音が立つ……零が何やらやっているらしい。
動けもしないので黙って眺めていると、四角い枠の向こうの板が外れ、その奥に零の顔が見えた。
「ジーク! 良かった。さあ、こっちだ」
憐みにも似た句にちくりと心を刺されながら、零の見えた方へ匍匐前進で進もうとして、左足がついてこないことにジークは気づいた。
特に激痛が走っているわけでもないから、何かにズボンの布でも挟まれて、引けどもビクともしないんだろう、と考える。
「待て、片足が抜けねえ」
「何? 痛むか?」
「いや、ブーツかズボンが引っかかっただけらしい。でも抜けねえ」
両手を突っ張り、太腿に力を込めていると、目の前に手が差し出された。
黒い布の篭手を纏った、力強く広げられた、大きな手。
「……掴まれ。引き抜いてやる」
「なんでだ」
零の言葉に、ジークはほとんど反射的に、ぽろりと返事をこぼした。
「えっ?」
「なんで、俺を助ける気になれるんだよ、お前は。お前を殺そうとしたんだぜ? それを助けようなんて、どうかしてるだろ」
「どうもしていない」
「里の『掟』とやらで、助けなきゃいけない、とでも言われたのか?」
言い合いの末、ジークが挑発じみた言葉を持ち出すと、零は少し返事に詰まった後で、ふうと長く息を吐いて、答えた。
「……俺はもはや、里を抜けた身。お前を助けようが、それは俺の『自由』だ。助かりたくなければ、これ以上は強いない」
「自由、か」
挑発をものともしない冷静な零に、ようやくジークは自分の右手を差し出す。
掴んで引かれると足は抜けたが、やはりズボンが引っかかっていたらしい。
派手に裂けたズボンの側面を見て、買い直せば赤字の札にのしが付く、などと心の内でジークは愚痴る。
「殺す気も失せたか?」
すっかり埃を払った零が、腕組みをして、ジークの方を見やる。
そして、里の掟をちらつかされた「お返し」と言わんばかりに、助け出したジークにまっとうな疑問を投げかける。
「俺が手を伸ばした時、瓦礫から這い出た直後の一瞬、そして今。いくらでも、機会はあったはず……」
「つまらねえだろ? そんなぼろぼろで丸腰のお前を刺したって、面白いもんかよ」
零が次の句を呑みこむ。ジークの発言に滲み出る「快楽殺人」の可能性を、思わず振り払いたくなる。
だが、昔から快楽主義を友に生きてきた男だ。何をきっかけにどう手を染めたのかは知らないが、これもまた『ジークらしい』のだと、この男の選んだ道なのだと、自分を無理に納得させた。
「アバヨ。また会おうぜ」
「仕事以外で、会いたいものだな」
瓦礫の下の人々を救うのは、自分の仕事ではないとでも言うように、ジークはまだ明けの遠い闇夜に、跳んだ。
振り返ると、零は既に背を向けて、横たわった柱を持ち上げるため手をかけていた。
見なければよかった、と、ジークは少しだけ後悔した。
* * *
どれくらい、走っただろうか。
依頼主に目をつけられても困ると、なるべくその町から離れようと思ったが、体力には限界がある。
ジークは座り込み、思い出したように道具袋に手を突っ込んだ。
そこから取り出した数Gぽっちの前金を、手の中で弄び鳴らしながら、ジークは思う。
――つまらねえ、わけじゃ、ねえんだよ。
あの言葉は、本心ではない。見栄を張るための、口からのでまかせだと。
くすぶる感情に火種を投げ込むように、そう独りごちる。
報酬が、とかアサシンとしてのメンツが、とか、今のジークにとってはどうでもよかった。
虚勢を張ってまで守ろうとした何かが、ぼろぼろにほつれてなくなる心地がして……慣れているはずの夜の闇に、たったひとり残された気分になる。
――自由。あいつは今、自由だって言った。俺は。
金貨が折れ曲がるかというほど、右手をかたく握りしめ、そのまま握り拳を地面に叩き付ける。
理屈を並べるだけなら、いくらでもできた。過日の仲間、助けられた、やる気が削がれた、気が向かなかった……。
しかし、どの理由もそこにあてはめようとすると、かみ合わなかったパズルのように、強い違和感が後を引いて残った。
――わからねえ。なんで俺は、依頼通りに、零を殺さなかったんだ。
苦しくて見上げた空。
青白い半月にはいつの間にか雲がかかり、うすぼんやりと滲んだ光だけを残して、そこで静かに佇んでいる。
冷たくなりきらない夜風が吹き抜けるたび、虚しさばかりが積もってゆく。
――俺の「自由」は、いったい、どこにいったんだ?
闇に染まったジークの心に、その答えが灯ることは、ない。
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