月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『さんきゅう』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆様こんばんは、九曜です。
先週は突然のブログお休み、すみませんでした。
季節の変わり目でかなり体調を崩していたのですが、だいぶ良くなったので、今週からまた記事を書いていこうと思います。


今日は三月九日、世間ではいろんな記念日があるようなので、拙宅でもUMのお話にしてみました。

たぶんクリティカルかどうか怪しいですがネタバレですので、可能なら本編をある程度遊んでから見ていただけると、筆者としては嬉しいです。




さんきゅう


 流れる水音、風に揺れる草木の音。まだ虫の声は混ざり聞こえてこないが、春分を過ぎやがて夏も近づけば、豊かな館の庭は盛りとなることであろう……そんなことを空想しながら、月嵐童は自室の文机に明かりを灯し、珍しく書物など読み耽っていた。
 普段は早朝の稽古があるから、そのための早寝をするのであるが、このところ地獄の大穴近隣では、魑魅魍魎の発見が相次いでいた。そのような危ない時期にわざわざ、それも人気のない場所へ出向いての修行には危険がつきまとう。何より今は月氏当主たる弟のために、嵐童は手を煩わすのを恐れて、ここ数日は庭での鍛錬に留めていた。
 書物に描かれた雪原の景を見ながら、弟がこの冬「当主」として指名を受けたことを嵐童は思い返していた。見かけの雰囲気も性分もほとんど違うというのに、二人揃えばかえって釣り合いのとれる気もする兄弟は、慣例の兄ではなく弟を当主と先代より定められた。遺言のほか残された手記に、その悩んだ軌跡が筆跡となって、黒々とした滲みを伴いしたためられていた。
 家臣たちは異例の事態に反発し合ったが、当の兄弟ふたりはいがみ合うつもりもなかった。片や世のための苦慮、片や先代の定めであると呑みこんで、大広間で家臣一同を集め、各々の意志をこと細かに告げた。当主は弟、兄は当主たる弟を支えるという形で、月家は分断と内乱を免れた。

 弟が当主となって、そろそろ三月(みつき)経つが、幅広い政務や当主の仕事に慣れた頃とも言えまい。侍女や政務官に尻を叩かれながら、当主の印にて認可する作業で手一杯であろう。豊かな水の流れを耳で拾いながら、かように豊かな地を治めるには並大抵の力では足りぬ、と嵐童は思う。
 その時、ぱたぱたという軽快な足音が廊下を渡り、部屋の前で止まった。内乱が起ころうかという時分には、刺客と間違えて刀を取ったこともある。己の慎重さを認めながらも、軽率を恥じ、此度は嵐童は刀を取らず出迎えた。
「兄上、まだ起きておられましたか」
 立ち上がって障子戸を開けると、頭ひとつ下に朗らかな男の顔が現れた。白銀の短い髪である自分と違う、燃え立つ赤の長い髪が、小首を傾げる仕草と少しの風によって毛先をしなやかに揺らす。こちらを見上げる瞳は、満月のような金色であり、銀月の如き嵐童の瞳とはやはり違う色をしている。この男こそ「かえって釣り合いのとれる気もする」嵐童の弟であり、二十七代当主月風魔の名を預かる男でもあった。
「其方か。このような夜更けに、珍しいな」
「庶務に手間取り、こんな時間となってしまいました。ですが、今宵のうちに兄上にお会いしたく」
 言うなり、ひとつの巻物を眼前にばん、と広げられる。弟のする事、嵐童は慣れておりとりたてて驚きもしないが、焦点も合わぬ近さにあっても読みようがない。風の音だけが耳を虚しく撫でるので、やむなく指摘してやる。
「見せるつもりなら、もう少し顔から離すことを覚えた方が良いな」
「はっ! す、すみませぬ、近寄りすぎましたか」
「何なら、庭先まで離れても読もうと思えば読めるぞ。して、何だ」
弟が気まずくなりすぎないよう、少しの冗談も交えて返すと、弟は改めて、巻物の一節を指でなぞり指した。
「今日は三月九日、『さんきゅう』の日とされております。そしてこの『さんきゅう』は古の異国語で『ありがたき事、感謝』を指すそうです。ゆえに、日頃世話になっている兄上に感謝をと、この巻物の話をお持ちいたしました」
 曰く、感謝の意、である。それも三月九日という日付を持ち出す都合「今宵のうちに」でなければいけなかったようだ。嵐童は弟との兄弟仲について、特に意識するようなことはなかったが、案外、世間においては「仲の良い」方なのかもしれぬ。そんな実感も湧きつつ、ほう、と相槌を打つ。
「しかし『さんきゅう』というのも不思議な響きですね。何をどうしたら『感謝』の意味になるのでしょうか。異国の大半が滅びし今となっては、知り得ぬことかもしれませぬが……さんきゅう、さんきゅう……」
 弟が気難しい顔で、念仏のように繰り返すので、嵐童はらしくもなく噴き出してしまい、「感謝というからには、もう少しありがたみを込めて言うのではないか」などと提案してやる。弟はすぐさまその提案に乗り、
「さんきゅう! こ、こんな感じですか? ううーむ」
などと言うので、ますます笑いたくなるのをこらえながら、嵐童はこのかけがえのない時間の『有難味』を感じていた。願わくば、次の年もその次の年も、三月九日に『さんきゅう』で笑うことのできるように、と。
 部屋の灯火がふっと切れ、互いの笑いもそこで一旦途切れると、替えの油を持ち出しに向かう影に、もうひとつ影が連れ添った。



++++++++++
27代が代を継いだ後も相変わらず仲の良い兄弟です。
地獄行脚の時期に夜桜が咲いているので、この時期はまだ行脚前だろうとして、その時期にお話を設定してみました。琉球だし桜の方が3/9より早いかもしれないけどそのへんはまあ…なんか…ノリで…。
月風魔伝UMの石碑に「異国」の存在が示唆されているのと、いちおう一般的世界の地続きということで、太古の昔には日本語も英語もあったんだろうなということでこうなっています。
あと兄上が「庭先まで離れても読もうと思えば読める」というのは、風魔君の目がいい話とかあのへんを意識しています。

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