月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さんこんばんは、九曜です。
Privatterにあまりに作品を置きすぎて、混沌の産物と化してきたので、いい加減アーカイブしていこうと思います。
ですが、あまりに作品が長すぎたり、繋がっている作品をばらばらに置いておくのも何なので、今回は「前後が繋がっていない独立作品」からひとつをアーカイブしようと思います。
そういうわけで『悪魔城ドラキュラ 闇の呪印』より、ヘクターと使い魔の小話です。
どこかで聞いたようなタイトルですが、実は同名の映画が流行る前に書いたものです。ほんとです。
Privatterにあまりに作品を置きすぎて、混沌の産物と化してきたので、いい加減アーカイブしていこうと思います。
ですが、あまりに作品が長すぎたり、繋がっている作品をばらばらに置いておくのも何なので、今回は「前後が繋がっていない独立作品」からひとつをアーカイブしようと思います。
そういうわけで『悪魔城ドラキュラ 闇の呪印』より、ヘクターと使い魔の小話です。
どこかで聞いたようなタイトルですが、実は同名の映画が流行る前に書いたものです。ほんとです。
宿敵アイザックを追い求めて向かった廃城の一室に、見慣れた光の色を認め歩みを止める。
部屋の中央に飾り物のように置かれている、石像のような何かは、悪魔の素体ともいうべきもの。
銀色の髪が風にゆらめき、普段は決して多くを語らない口の端には、微かに笑みが浮かんだ。
呪われた力……悪魔精錬。
力を求め、人でありながらそれを身に着けた男は、名をヘクターと言った。
ヴァンパイア・ハンターにうち滅ぼされたかつての主ドラキュラ伯爵に、同じく悪魔精錬士だったアイザックとともに仕え、しかしヘクターは自らの生き方を常に問うようになった。
力があれば何でもできる、というのは、幻想に過ぎない。
だからこそ一度は捨てたこの力……しかし、この身に一度落ちた暗い影は、ヘクターの背後から消えることはなかった。
ひとつの希望を見出して、人の世に戻ろうとした彼を待っていたのは、冤罪による最愛の人の死。
力を取り戻し、俺を追ってこい、とアイザックは言った。
それが挑発じみた誘いだとは分かっていても、それを受けて立つ以外の術をヘクターは知らない。
そのためにこの素体を残したというのなら、随分とお人好しなものだ……もっとも、そのアイザックこそが、自分の愛する人を奪った男であったが。
すう、と息を吸い、精錬の呪文を確かめるように唱える。
魔の力よ ここに収束せよ
理無き魂のしらべ 我が名により奏でん
人の世にあらざる者 無垢なる魂
ここに生まれ出でよ
言い終えると同時に、結晶化させられたそれが本来の色を鮮やかに取り戻してゆく。
エメラルドグリーンの光を放つ小さな体に、昆虫のような羽をつけた小さな……しかし、いきものではない。
傍目には妖精のように見えるそれだが、まぎれもない『悪魔』であった。
この力を使うのは、いったい幾月ぶりなのか。もう思い出す気も起きなかった。
思い返すたび、ここへ来るまでに巡り会ったさまざまなものが目に浮かぶ……自分と関わりを持ったせいで、罪もなく殺された「あの人」のことも。
新しく誕生した『悪魔』は、ヘクターの頭上を自由に飛び回った後、目の前で羽を動かして中空へ留まった。
名前が必要だな、と、口の中でヘクターが呟く。
「ロザ……」
言いかけたが、そこで言葉が途切れた。
小さく細い首が、なあに、と言いたげに傾ぐ。
これは『悪魔』だ。いくら愛らしい姿をしていても、自分に忠実な一時のしもべに過ぎない。
そのような存在に、あの人の名前を付けるわけにはいかない。
少し考え、ヘクターはもう一度口を開いた。
「ロー……ズ。お前の名は、ローズだ」
誰かが問えば、ヘクターは少し悲しそうに微笑みながら、妖精らしい見た目ゆえ花の名前を冠した、と答えるだけだろう。
その名前に混じった懐かしい響きは、生みの親である彼だけの秘密であった。
部屋の中央に飾り物のように置かれている、石像のような何かは、悪魔の素体ともいうべきもの。
銀色の髪が風にゆらめき、普段は決して多くを語らない口の端には、微かに笑みが浮かんだ。
呪われた力……悪魔精錬。
力を求め、人でありながらそれを身に着けた男は、名をヘクターと言った。
ヴァンパイア・ハンターにうち滅ぼされたかつての主ドラキュラ伯爵に、同じく悪魔精錬士だったアイザックとともに仕え、しかしヘクターは自らの生き方を常に問うようになった。
力があれば何でもできる、というのは、幻想に過ぎない。
だからこそ一度は捨てたこの力……しかし、この身に一度落ちた暗い影は、ヘクターの背後から消えることはなかった。
ひとつの希望を見出して、人の世に戻ろうとした彼を待っていたのは、冤罪による最愛の人の死。
力を取り戻し、俺を追ってこい、とアイザックは言った。
それが挑発じみた誘いだとは分かっていても、それを受けて立つ以外の術をヘクターは知らない。
そのためにこの素体を残したというのなら、随分とお人好しなものだ……もっとも、そのアイザックこそが、自分の愛する人を奪った男であったが。
すう、と息を吸い、精錬の呪文を確かめるように唱える。
魔の力よ ここに収束せよ
理無き魂のしらべ 我が名により奏でん
人の世にあらざる者 無垢なる魂
ここに生まれ出でよ
言い終えると同時に、結晶化させられたそれが本来の色を鮮やかに取り戻してゆく。
エメラルドグリーンの光を放つ小さな体に、昆虫のような羽をつけた小さな……しかし、いきものではない。
傍目には妖精のように見えるそれだが、まぎれもない『悪魔』であった。
この力を使うのは、いったい幾月ぶりなのか。もう思い出す気も起きなかった。
思い返すたび、ここへ来るまでに巡り会ったさまざまなものが目に浮かぶ……自分と関わりを持ったせいで、罪もなく殺された「あの人」のことも。
新しく誕生した『悪魔』は、ヘクターの頭上を自由に飛び回った後、目の前で羽を動かして中空へ留まった。
名前が必要だな、と、口の中でヘクターが呟く。
「ロザ……」
言いかけたが、そこで言葉が途切れた。
小さく細い首が、なあに、と言いたげに傾ぐ。
これは『悪魔』だ。いくら愛らしい姿をしていても、自分に忠実な一時のしもべに過ぎない。
そのような存在に、あの人の名前を付けるわけにはいかない。
少し考え、ヘクターはもう一度口を開いた。
「ロー……ズ。お前の名は、ローズだ」
誰かが問えば、ヘクターは少し悲しそうに微笑みながら、妖精らしい見た目ゆえ花の名前を冠した、と答えるだけだろう。
その名前に混じった懐かしい響きは、生みの親である彼だけの秘密であった。
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