月ノ下、風ノ調 - UM二次創作『聞き耳』 忍者ブログ
月風魔伝その他、考察などの備忘録。
皆さまこんばんは、九曜です。
本日はお日柄も良くアーカイブ、というより、ちょっと諸事情でブログに割ける時間がなくなってしまっており、急遽アーカイブを探したところなんと未収録のUM話を見つけました。
今日のお話は兄上と、27代君と、なぜか館にいる初代とかいう割といつもの平和な話です。

ところでこのブログ、月風魔伝に関係ない作品も結構アーカイブされているので、そろそろ『文豪とアルケミスト』とか…と思いましたが、検索でご本人ソノモノな名前が引っかかってしまうと困るので、先にFF6らへんがアーカイブされそうです。




聞き耳

 すっかり日の暮れるのも早くなり、寒さに火鉢など持ち出す時節になって、月嵐童はそれと文机と畳まれた布団しかない自室で、寝支度をしていた。この男に季節や寒暖なぞ関係はなく、明日もいつものように朝早くから、忌地の外れへ鍛錬に行く予定が入っている。
 布団を敷き、寝間着を羽織ったところで、障子をふたつほど挟んで向こうから、少し荒がる強い声があがった。そちらの方は弟である二十七代月風魔の寝室であるが、今は訳あって、地獄より戻りし初代月風魔を迎え、六畳ほどに二人ぶんの布団を狭苦しく並べることとなっていた。客人用の居室には二十一代目の月蓮華が、女ということもあり個別の閨(ねや)を与えられているから、これはいた仕方ないところもある。そのような事はさておき、嵐童の耳は二人の男の口論に欹(そばだ)てられていた。

 ふたつの声は思い思いに、何らかを「良い」と主張し合っている。その段階で嵐童は、いつもの魍魎自慢なのだろうと聞き耳を止めることもできた。二十七代月風魔は館で狂蠍という魍魎を飼っており、初代月風魔はかつて龍骨鬼の子を育てたことがあるという。弟の方は大百足が愛くるしいという搦め手まで有しているし、己より口達者なこともあるから負けはすまいと、嵐童は果たして、その成り行きが気になり出した。自分が出て行って間に挟まれば、弟がばつの悪さに退いてしまうこともあるが、そうでなければ初代月風魔を説き伏せてしまうやもしれぬ。嵐童はいよいよ着替えが捗らなくなり、寝間着の帯を適当に二度結んで止めると、忍び足で障子の近くへ身を寄せた。それも灯火でうすら影が映って気取られては恰好が悪いと、わざわざ木の床へ身を伏す念の入りようであった。今障子戸を開けられたらますます恰好が悪いが、遠く廊下を渡る足音の方が容易に聞こえる現状、さして問題はないと嵐童は思った。

「それはもう素晴らしかったのだ。あの時……」

 火鉢がぱちぱちと爆ぜる隙間に、遠い声が入り込んでくる。少しくぐもった、弟でない声は初代月風魔のものであろう。

「……ゆえに、俺もあのようになりたいと思うたのだ」

細切れに聞こえてくる話に、魑魅魍魎の子の動作を重ねるが、いまひとつ察しがつかない。嵐童が訝しく思う間もなく、それに対する声があがった。正しく、弟のものだ。

「私も、そのような話ならできまする。兄上が――」

兄上、という言葉に意識が引き込まれ、まばたく事さえ忘れて、嵐童は息を呑んだ。遠く廊下を渡る足音を邪魔に思いながら、続く話を一字一句拾おうと集中する。そうして聞き取れた弟の話は、こういう顛末であった。

「兄上が、私を連れ去ろうと狙う妖(あやか)しから、助けて下さったことがあります。ただ震えてどうにもできずに固まっている私を助けんと、駆けつけて討ち払ってくださって、私はあの時まだ幼かったものですから、大泣きしたものです。あれほど強くなれたらと思うたび、兄上は私の憧れなのだと強く思うのです」

 床の冷たさに総身冷えて痺れそうになっていることなど、まるで忘れたように顔が熱くなり、嵐童はずりずりと障子から身を離すと、膝を抱え込むような格好となって、火鉢の傍でひとりうずくまってしまった。弟のことをこの歳になっても、童子から変わらず妙なものが好きな男だと思っていたことが、いたく恥じらわれた。このまま溶けて消えてしまいたくなる心地で、視線を落とすと、既に敷いてある布団のことが思い出された。寝て忘れるが良いと、火鉢の灰を掻き、灯火を吹き消して、嵐童は布団の内へ滑りこんだ。

 その晩嵐童は、聞き耳を立てていた障子戸がにわかに開いて、見下ろす弟に怪訝な顔をされる夢を見た。



++++++++++
これ、11/23の「いい兄さんの日」に書いたはずなんですけど、話の流れでもはやいい兄さんなんだか何なんだかわからない話になっています。我が家の兄上は弟さんからの褒められに弱すぎる。
なお、「妖しから助けてくださった」案件は過去にアーカイブした『化猫の婿取』のことで、こちらも併せて読むと、いかに兄上が弟大好き……ではなかった、いかようにして弟さんが兄上に憧れを抱いたかかがわかります。

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